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E-1サッカー選手権初戦は韓国に3-2で勝利!なでしこジャパンの勝利を引き寄せた5人の共通点とは?

松原渓スポーツジャーナリスト
記者会見では4カ国の監督が顔を揃えた(C)Kei matsubara

 冷たい雨が降りしきるピッチに、選手たちの笑顔がはじけた。

 タイトルがかかる初の公式戦で、アジアの強豪から掴み取った、価値ある一勝だった。

 

 千葉のフクダ電子アリーナで開幕したEAFF(東アジアサッカー連盟)E-1サッカー選手権2017決勝大会(以下:E-1選手権)。なでしこジャパンは、12月8日(金)の初戦で韓国女子代表と対戦し、3-2のスコアで接戦を制した。

 

 日本は前半6分にFW田中美南のヘディングゴールで先制しながら、14分にペナルティエリア内でハンドを取られて韓国にPKを与え、これを決められて1-1に。その後はスコアが動かず、71分には右コーナーキックから後半途中で投入されたMF中島依美が決めて再びリードを得たものの、80分には韓国のクロスから失点し、再び追いつかれた。そんな中、83分にFW岩渕真奈が値千金の決勝ゴールを決めて勝ち越しに成功した。

 2度のリードを守れず、最後まで危うい雰囲気が漂う試合だった。日本の2失点は、いずれも韓国のキーマンであるFWハン・チェリンが絡んでいる(1失点目はPKにつながるシュートを打たれた)。韓国が10月にアメリカ女子代表と行った親善試合2試合(アメリカが3-1/6-0で勝利)で、アメリカから唯一のゴールを奪ったのが、ハン・チェリンだった。

 そんな中で、接戦を勝ちきれたことは大きい。この試合で日本のゴールに絡んだ5人の選手の活躍をピックアップしたい。

【先制ゴールを決めた田中】

  まず、先制ゴールを決めた田中だ。前半6分、左サイドバックのDF万屋美穂のクロスに、田中がファーサイドでバックステップを踏みながらヘディングでうまく合わせ、相手GKの逆をついた。試合の立ち上がりは韓国のパワーと球際の強さに押されていただけに、この先制ゴールは大きかった。

 今年の10月22日に長野で行われたスイスとの親善試合で決めたゴールも含め、なでしこリーグで2年連続得点王に輝いた田中の得点力は、代表チームでも発揮されるようになってきた。この試合では、韓国の選手を背負いながら揺るぎないボールキープを見せ、ドリブルやターンからもチャンスを作っている。

 今年の3月にポルトガルで行われたアルガルベカップ以降、先発での出場機会を増やしてきた田中は、7月のアメリカ遠征で、アメリカやブラジルなどの強豪国相手にも自分のプレーが通用する確かな手応えを得ていた。それは、継続的なトレーニングと実戦経験の賜物だ。

「以前はあまり自分のプレーに自信を持てずにいましたが、今は、先発できなくても『自分に足りないことがあるんだな』と前向きに捉えられるし、弱気になりそうな自分の気持ちもコントロールできるようになりました。今回、日本で試合ができるのはありがたいですし、応援してくれるお客さんの前で楽しんでプレーしたい。楽しめたら、いいプレーができると思います」(田中)

 試合前日、田中はそう話していた。

 

 先制ゴールの後、両手で作ったガッツポーズには自信がみなぎっていた。後半10分のターンからのシュートはキーパーの正面に飛んだため、2点目とはならなかったが、試合後には「(ファーストタッチの)ボールの置きどころを修正して、次の試合は悔いが残らないようにしたい」と、次の中国戦を見据えた。「1試合1ゴール」を目標に掲げる田中の言葉が頼もしい。

【30分間で2ゴールに絡んだ中島】

 1−1で迎えた60分からピッチに立ち、2ゴールに絡んだのがMF中島依美だ。

 まずは71分、右コーナーキックからDF三宅史織がヘディングで競り勝って流れてきたボールを、冷静に左足でゴールに流し込んだ。

 さらに、83分には韓国のペナルティエリア前でボールを受けると、右にターンしてすかさず右足を振り抜いた。このシュートはバーに当たったが、詰めていたFW岩渕真奈の決勝ゴールにつながった。

 高倉ジャパン発足時からの主軸である中島は、これまで先発で試合に出場することが多かったが、この韓国戦は、10月22日のスイス戦に続く途中出場となった。

「途中から出る元気な選手は流れを変えるのが仕事ですから。ゴールを決めて、大事な初戦に勝ちきれて良かったです」(中島)

 そう話す試合後の中島の表情は晴れやかだったが、そう言い切れる境地に至るまでには、悔しい思いをすることもあったはずだ。しかし、中島は与えられた役割を受け入れ、スイス戦に続くゴールで責任をしっかりと果たした。

 「計算できる選手」から「試合を決められる選手」へと幅を広げつつある中島は、高倉ジャパンの重要な核と言える。

【2試合連続ゴールを決めた岩渕】

 そして、日本の決勝点となる3点目を決めたのが岩渕だ。 

 2-2で迎えた83分、中島のミドルシュートがバーに跳ね返ったボールにいち早く反応し、相手ディフェンダーをかわして冷静にゴールを決めた。

 日本が2度のリードを守れず、韓国に逆転されてもおかしくない流れの中で、岩渕の決定力が光った。

 度重なるケガから復帰し、代表8年目にして初の90分間フル出場を達成した11月のヨルダン戦に続くフル出場、そして2試合連続のゴールだ。

 ヨルダン戦はFW櫨(はじ)まどかと2トップを組み、この試合では田中と2トップを組んだが、岩渕は「誰と組んでもやれる」と、相手に合わせる自信を見せる。

 田中は

「いい動きをすれば必ず見てくれている。ぶっちー(岩渕)さんのドリブルやシュートをうまく活かしながら、自分らしいゴールも狙いたい」(田中)と、連係の手応えを口にした。

 残り2試合も、いざという場面で岩渕の勝負強さに期待が高まる。

【攻撃のキーマン、長谷川】

 ヨルダン戦に続いて、日本の攻守を活性化したのがMF長谷川唯だ。

 日本の先制ゴールの場面では、相手3人を引きつけて、田中のゴールをアシストした万屋のオーバーラップを引き出した。また、トップ下にポジションを変えた60分以降はさらに運動量が増し、70分には日本の2点目につながるコーナーキックを獲得している。

 長谷川のプレーは、ボールを持った場面でのテクニックや多彩なアイデアに目がいきがちだが、この試合では、サポートの献身性も光った。特に、チームの心臓部であるボランチのMF阪口夢穂が低い位置でボールを持った時に周囲のサポートが遅れがちで、それが日本の攻撃のリズムを停滞させる一因となっていた。そんな中で、タイミングよくサポートに入る長谷川のアプローチが、阪口から効果的なパスを引き出していた。

「縦パスが入った後のサポートも大切ですが、縦パスの(攻撃)スイッチがなかなか入らなかったですね。パスが入ればサポートしやすくなるので、受け手の動きをもっと改善していきたいです」(長谷川)

 

 また、サイドバックの万屋が上がった背後のスペースを韓国に狙われる場面が何度かあったが、その点も早い段階で気づいて修正し、その後は左サイドの攻撃で優位に立った。

 75分にFW籾木結花と交代するまで、ピッチを縦横無尽に駆け回った長谷川だが、試合後は「まだまだ走れます」と、フル出場への意欲も見せる。ポジションにとらわれない長谷川の自由な創造力とアクションから、残り2試合も目が離せない。

【最終ラインで存在感を増す三宅】

  ディフェンス陣に目を移すと、4バックが右からDF大矢歩、DF鮫島彩、三宅、万屋と、鮫島以外、代表チームでは経験の浅い選手たちが並んだ。しかし、その鮫島も本職は左サイドバックであり、最終ラインの構築は手探りが続いている。

 そんな中で、ここ3試合の代表戦で一気に存在感を増してきたのが三宅だ。

 高倉ジャパンでは10月のスイス戦で初招集されたばかりの新メンバーだが、この韓国戦では、代表4試合目とは思えない安定感を見せた。10月のスイス戦と11月のヨルダン戦では、DF熊谷紗希(今大会は国際Aマッチデーではないために招集されていない)とセンターバックを組み、2試合とも無失点に抑えている。

 そして、この試合で組んだ鮫島とのコンビネーションもスムーズだった。

「短い時間で(最終ラインを)合わせることは大変でしたけど、映像を見たり、分からないことは練習中に解決するようにしました。サメ(鮫島)さんとは同じチーム(INAC神戸レオネッサ)なのでお互いに特徴も分かっているし、試合中は声を掛け合いながらプレーできて、躊躇することもなかったです」(三宅)

 試合中は鮫島が4バックのラインコントロールをしながら、同時に三宅にも細かく指示を伝え、彼女の前への強さを活かしていた。

 また、三宅自身は、韓国の危険なラストパスをスライディングでブロックした63分の場面など、1対1の場面で読みの鋭さも光った。

 さらに、71分の日本の右コーナーキックではゴール前で大矢のキックにヘディングで合わせ、中島の追加点をアシスト。「シュートを狙いにいった」という積極的なプレーがゴールにつながった。

 大会期間中のトレーニングでは強烈なミドルシュートを決める場面も見せており、今後は、このチームではまだ少ないセットプレーからのゴールやミドルシュートという新たな得点パターンにも期待したい。

【第2戦の相手は中国】

 上に挙げた5人は、年齢も経験もプレースタイルも違うが、それぞれが自身の変化をポジティブに受け入れ、その中で殻を破りつつあるという点で共通している。

 「いろいろな形でサッカーができるチームにしたい」と話す高倉監督の構想の中で、これまではポジションや組み合わせ、先発か途中交代かなど、各選手の起用法は一定ではなかった。

 そんな中、高倉監督は今大会のメンバー発表時に、「(来年のFIFA女子ワールドカップ・アジア最終予選に向けて、)この選手はこのポジションということを見極めつつある段階」と、話している。

 同時に、様々な状況に対応できる「計算できる」選手が増えてきた中で、新たな選手の抜擢やチャレンジも示唆している。

 韓国戦後には、

「若手が成長していかなければチームの前進はあり得ないと思っています」(高倉監督)と、まだ試合に出ていない選手たちにも期待を込めた。

 12月11日(月)の第2戦・中国女子代表戦は、18:55にフクダ電子アリーナでキックオフを迎える。

 E-1選手権に臨むなでしこジャパンの試合は、フジテレビ系列で全試合が生中継される。

放送スケジュール

初戦は韓国に3-2で勝利した(C)Kei matsubara
初戦は韓国に3-2で勝利した(C)Kei matsubara
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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