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高齢者へのワクチン接種を加速させるために 5つのヒント

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
沖縄離島での集団接種(筆者撮影)

高齢者へのワクチン接種が始まっています。今後、7割以上の接種率を達成することができれば、重症化する患者が減少するばかりか、高齢者施設やデイサービスにおける集団免疫(接種していない人も感染から守られる状態)も期待できます。

それぞれの市町村において、全力でワクチン接種が進められていると思います。ただ、いくつかの接種会場でお手伝いをさせていただき、また高齢者の診療をしてきた医師の視点から感じるところもありました。

いろいろな事情があって、いまの体制をとっておられると思います。ただ、外からみた気づきが役立つこともあるでしょう。そこで、僭越ながら5つほどヒントをお伝えしたいと思います。参考としていただけるものが、少しでもあれば幸いです。

その1 高齢世帯のサポート

高齢者へとワクチン接種の案内が郵送されています。私の外来に通院している高齢者の方々も、嬉しそうに、あるいは戸惑ったように、接種券が入った郵便物を持ってこられます。でも、だいたい読めてないです。

文字が細かいし、注意書きが多くて、本筋が分かりにくい。役所からの文書の宿命なんでしょうか? でも、郵便物に気づいてるだけ良い方です。何人の患者さんに、「役場から届いているから探してみましょう」と言ってきたことか?

独居や高齢者のみの世帯では、役場からの郵便物に気づけないことが少なくありません。インターネット予約はもちろん、電話で予約をとることすら困難です。どうか、親族だけでなく、近隣住民の方、あるいは民生委員の皆さん、地域の高齢者が接種機会を逃すことのないよう、サポートをお願いしたいと思います。このあたり、役所だけでは手一杯ですし、難しかろうと思います。

私の住んでいる中城村は、とっても良い活動が行われています。高齢者が自ら予約しなくてよいように、自治会長さんたちで手分けして接種の希望日を訪問調査したのです。それを村が受け取り、医療機関へと割り振りました。まあ、失礼ながら、そんなに予定のある方々でもないでしょうから、「いつが宜しいですか?」ではなく、「あなたの接種は〇月〇日に××医院です」の方がシンプルで分かりやすいでしょうね。

住民だけでなく、都道府県にもできることがあるはず。たとえば、医師会や看護協会と協力して、テレビCMを流してはいかがでしょうか? それこそ、「まずは郵便ポストを見ましょう!」という単純なメッセージからでいいので、具体的に何をすればワクチン接種にたどり着けるか・・・ 繰り返し、高齢者に呼びかけることが必要だと思います。

その2 アクセスの向上

高齢者のなかには、コンビニやスナックへは歩いて行けても、集団接種の会場まではいけない人がたくさんいます。高齢者のみの世帯だとなおさらです。接種会場へのアクセスを向上させていただければと思います。先日、訪れた津堅島の集団接種会場では、電動カートが走り回って、島の高齢者を送迎していました。

都市部であっても、たとえば会場への巡回バスを準備するといった方法が考えられると思います。なお、生活保護の高齢者には足がありません。集団接種会場までのタクシー代を扶助すると明言しないと、接種を諦める高齢者が多発しかねないのでよろしくお願いします。

ちなみに、私の住んでいる中城村では、接種対象者は村役場に集まり、村職員が問診票を確認したのちに、村が手配したタクシーで、割り振られた医療機関へと送られていきました。そして、接種後はタクシーで役場に戻ってきます。これなら迷子にはならないでしょうね。予約から接種会場への足まで、ぜーんぶ村と自治会が協力してやれば、むしろ混乱は生じないのでしょう。ありがとうございます。

全員に予約の電話をさせるのではなく、予約日と場所を指定したものを郵送し、予約変更希望者だけ電話させるのが良いと私は思います。あとは、予約日の前日にリマインドの電話をかけて、(足がないという人には)お迎えタクシーが行けばベストですね。

沖縄離島の集団接種で活躍していた電動カート(筆者撮影)
沖縄離島の集団接種で活躍していた電動カート(筆者撮影)

その3 医療従事者の確保

ところで、一部の市町村では、医療従事者の確保に苦労しているところがあります。接種会場のお手伝いに行って気づいたのですが、看護師を多く配置しすぎている(ように見える)ところがありました。

問診票のチェック、接種後の見守りなど、たしかに看護師だと安心ではあります。でも、看護師でなくてはならないのは医療行為であるワクチン接種ぐらいのはずなんです。ところが、ある町の集団接種の応援に行った看護師から聞いた話ですが、会場の設営から最後の掃除までやらされて、終わったのは約束の時間を1時間も過ぎていたと・・・。

これでは看護師がいくらいても足りませんし、そのうち集まらなくなります。フリーで動く看護師は必須ですが、もうすこし医療行為に集約できませんか? そうすれば、看護師の時給も上げられるはず。確保が難しいと言っておられる市町村では、正直、その時給では・・・ と感じるところもあります。

一方、医師確保が難しいのなら、夜間や休日の接種体制とすることで、参加してくれる医師が増えると思います。私もそうですが、働いている病院の勤務時間帯に応援に出るのは難しいのです。でも、休日ならアルバイト感覚でお手伝いに行けますよ。市町村は、平日の日中にこだわることなく、柔軟な対応をお願いします。

ワクチン接種会場の流れ(筆者撮影)
ワクチン接種会場の流れ(筆者撮影)

その4 ボランティアの活用

ところで、市民ボランティアって活用されています? 災害支援の現場では、丁寧に市民に対応してくれるボランティアの存在が欠かせません。今回のコロナ禍においても、ワクチン接種に限らずボランティアが関わっていただけたらと思うことが多いのです。ところが、そういうボランティアのための窓口がありません。

先日、学年代表をしているという医学生が、私に会いに来てくれました。「コロナでこんなに大変なのに、自分たちができることが見つからない」というのです。それを見つけるのが学生なんですが・・・、でも、たしかに病院でも、高齢者施設でも、ワクチン接種会場でも、人が足りなくて困っているのにボランティアを受け入れようとしていません。

きちんと感染対策の指導をすれば、ボランティアもチームの一員として安全に業務に参画してもらえるはず。彼らは主体的に動いてくれて、サービスの質を飛躍的に向上させることができます。人の距離が開きがちな今だからこそ、もっとボランティアの活躍の場が増えてほしいと思っています。

300人の接種にこれだけの人員が必要。地域に通じたボランティアがいると助かる(筆者撮影)
300人の接種にこれだけの人員が必要。地域に通じたボランティアがいると助かる(筆者撮影)

その5 いずれは個別接種に

最後に・・・、今後、一般の方々へと幅広く接種を進めていくうえでは、市町村が設置する会場での集団接種ではなく、診療所での個別接種へと切り替えていく必要があります。たとえば、那覇市には242カ所の診療所があります。しかも、毎日オープンしてます。どちらが効率が良く、津々浦々で接種できるかは明らかですね。

今までは、新しいワクチンということで、医師側もアナフィラキシーなどのリスクに対して慎重だったところがありました。しかし、高齢者への集団接種で慣れてくれば、自分の診療所で接種できるという医師が必ず増えてきます。大きな市や町では、その流れを読んで、上手に乗り換えていってください。たとえば、ワクチン接種が進んでいる和歌山市では、大きな会場での集団接種は行っておらず、市内280カ所のクリニックでの個別接種としています。

もちろん、個別接種だけでは追いつかないところもあるはずで、市町村や都道府県による集団接種は必要でしょう。ただし、間違っても、集団接種だけで最後までやり遂げようとは考えないこと。インフルエンザワクチンは、毎年、全国で約2500万接種を3ヵ月ぐらいで終わらせてきたんです。そういうポテンシャルが、皆さんの地域医療にあることを思い出してください。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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