台風10号は8月の台風に多い「ゆっくり北上」 広い範囲で長時間降る大雨に厳重警戒
8月の台風の移動速度
台風の移動は、主として、上空の風に流されて移動します。これに、台風が持っている性質、地球の自転の影響(風が強い発達している台風ほど大きくなる影響)でゆっくり北上する性質が加わって移動します。
台風が放物線を描くように日本に接近するのは、まず、低緯度では上空で吹いている偏東風に流されながら地球の自転の影響で北上するので、西北西進します(図1)。
そして、上空の風が弱い海域に達すると、地球の自転の影響でゆっくり北上し、上空で偏西風が吹いている緯度まで北上すると、偏西風に流されながら地球の自転の影響でゆっくり北上するため、東北東進します。
偏西風は偏東風より強い風ですので、緯度が低い所を西進する台風の速度より、緯度が高い所を東進する台風の速度の方が大きくなります。
一般的に、偏西風は、夏になると北海道の北へ弱まりながら北上しますので、日本付近は上空の風が弱くなり、台風は動きが遅くなり、時には迷走します。
秋になると偏西風が強まりながら南下してきますので、秋が深まるにつれて、日本付近の台風は、速度が速くなります。
筆者が昔調べた台風の速度の調査によると、北北西から北北東へ進む台風の北緯30度付近の平均速度は、5月頃は15ノット(時速30キロ)ですが、8月頃は10ノット(20キロ)と遅くなり、9月以降は再び15ノット(30キロ)に速まります(図2)。
一方、北東から東へ進む台風の北緯30度付近の平均速度は、8月頃は9ノット(15キロ)と、北北西から北北東へ進む台風より遅いのですが、秋が深まるにつれて平均速度が速くなり、10月は20ノット(35キロ)にもなります(図3)。
つまり、北緯30度付近の8月の台風の進行速度は平均で20キロ程度で、約半分の台風は、20キロより遅い台風ということができるでしょう。
そして、現在、非常に強い台風10号が奄美大島付近にあって動きが遅くなっています。
非常に強い台風10号の西日本への接近
奄美大島近海の非常に強い台風10号は、8月28日は発達しながら北上し、29日にかけて九州南部に非常に強い勢力で接近するおそれがあります(図4)。
台風10号が存在する奄美大島近海は海面水温が29度程度と、台風発達の目安とされる27度以上です。
このため、中心気圧925ヘクトパスカル、中心付近の最大風速50メートル、最大瞬間風速70メートルで屋久島に接近する見込みです。
気象庁が発表している3時間ごとの暴風域に入る確率で、一番大きな値となっている時間帯が台風10号の最接近する時間帯です。
これによると、現在暴風域に入っている奄美北部は100パーセントですが、8月28日昼過ぎ(12時から15時)までは、確率が50パーセント以上です。
そして、鹿児島県の鹿児島・日置は、29日昼前(9時から12時)が一番大きな値87パーセントですので、鹿児島市への台風10号の最接近は29日昼前ということができます(図5)。
そして、福岡の最接近は29日夜のはじめ頃から30日未明となっています。
暴風や高波、高潮、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に厳重に警戒してください。
九州南部や奄美では、28日夜にかけて、線状降水帯が発生して大雨災害発生の危険度が急激に高まる可能性があります。
また、台風10号は動きが遅いことから長時間にわたって、台風周辺の暖かくて湿った空気を日本列島に送り込んでいます。
そして北日本には、前線が顕在化しており、台風周辺だけでなく、広い範囲で大雨の可能性があります(タイトル画像)。
すでに、各地で大雨が降っており、これに加えて、8月28日から30日の3日間の雨は、西日本太平洋側から東海では600ミリ以上、九州1000ミリを超える可能性があると予想されています(図6)。
台風10号の動きがさらに遅くなると、1000ミリという記録的な雨にとどまらず、もっと増える懸念さえあります。
各地とも、最新の気象情報を入手し、厳重に警戒してください。
図1の出典:気象庁ホームページ。
図2、図3の出典:饒村曜(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計(第2報)進行速度、研究時報、気象庁。
図4、図6の出典:ウェザーマップ提供。
図5の出典:気象庁ホームページ。