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妊娠中にコロナに感染したら? 最新データから見えるいくつもの「リスク」

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:イメージマート)

妊娠中のコロナウイルス感染症の影響についてわかっていること

米国CDC(疾病予防管理センター)のウェブサイト(2022年3月3日に最終更新)では、妊娠中または妊娠が最近分かった女性に向けて、コロナウイルス感染症に関する情報提供をしています。この内容は、現在のところほぼ世界的な共通見解となっています。(文献1)

・全体的なリスクは低いものの、妊娠している人や最近妊娠した人は、妊娠していない人に比べてCOVID-19による重症化のリスクが高くなります。

・妊娠中にCOVID-19を発症した場合、早産(37週未満での出産)や死産のリスクが高くなり、その他の妊娠合併症のリスクも高くなる可能性があります。

・基礎疾患や年齢などのリスク因子の影響により、妊娠中または出産後の時期(出産後42日間以内など)に重篤なCOVID-19を発症するリスクがさらに高まります。

また、2022年2月に公開された米国産婦人科学会(ACOG)の公式雑誌に掲載された総説では、以下のように「妊娠とコロナウイルス感染症」について具体的にまとめられています。(文献2)

・非妊婦と比較して、妊婦はコロナウイルス感染により集中治療室(ICU)に入る可能性が3倍高く(1000例あたり10.5 vs 3.9)、人工呼吸器を使用する可能性が2.9倍高く(1000例あたり2.9 vs 1.1)、死亡する可能性が1.7倍高い(1000例あたり 1.5 vs 1.2)。

・コロナウイルス感染は早産が増えることにも強く関連しており、それに伴う新生児合併症のリスクが増す。

・妊娠中に入院を要する重症化の危険因子として、黒人、高齢(35歳以上)、過体重または肥満、慢性肺疾患、慢性高血圧、妊娠糖尿病などの基礎疾患が関連している。

そして、mRNAワクチンは妊婦に対しても高い発症・重症化予防効果があることが明らかとなっています。(文献2)

また、mRNAワクチンの安全性についても、多くのデータにより確かめられています(ワクチン接種と妊娠初期の流産、早産、低出生体重児、形態異常、新生児入院、新生児死亡の発生率に関連性は認められていません)。(文献3,4)

日本のデータでわかっていることは?

ここまでご紹介したデータは全て海外のものでした。

それでは、日本においてコロナウイルス感染症に罹った妊婦のデータからはどのようなことがわかっているのでしょうか。

日本産科婦人科学会の公式ウェブサイトに、「日本におけるCOVID-19妊婦の現状~妊婦レジストリの解析結果(2022年6月7日付報告)」が6月9日に掲載されました(どなたでも無料で閲覧できます)。

この報告の内容の一部を解説します。

*本レジストリに携わっている全ての関係者の方に感謝申し上げます。

(1) 感染妊婦の重症度

2020年1月1日〜2022年5月5日までに本レジストリに登録された感染妊婦967人(66施設)の重症度の割合は、軽症 73%、中等症 I 13%、中等症 II 12%、重症 1.3%でした。

なお、「中等症 I」は「呼吸困難や肺炎の所見がある」 、「中等症 II」は「酸素投与が必要」、「重症」は「集中治療室への入室または人工呼吸器が必要」な状態を指しています。

軽症者が大半を占めているとはいえ、妊娠中は平時から呼吸しにくい状態であり、身体への負荷には注意が必要だと考えられます。また、酸素が必要な中等症 II 以上の妊婦が約13%と決して稀ではないことも把握しておかなければなりません。

(2) 感染者における早産の発生

中等症 IIまたは重症の妊婦では、診断後に早産が大きく増加していました。

具体的には、出産までの経過を追えた418人のうち早産となったのは66人(約16%)でしたが、中等症 IIまたは重症の妊婦では約46%が早産となっており、軽症または中等症 Iの妊婦と比べ4倍以上の早産率でした。

コロナウイルス感染症に罹った妊婦では早産率が高まるというデータは海外からも報告されていましたが、周産期医療レベルが高い日本においても、同様の状況であることが明らかとなりました。

(3) 母体重症化リスク

母体年齢が31歳以上、妊娠前のBMI(体格指数)が25以上、妊娠21週以降の感染、および呼吸器疾患などの併存疾患は、重症化しやすくなる要因でした。

この結果も、これまでに海外から報告されていたデータとほぼ同様のものでした。現在妊娠中またはこれから妊娠の可能性がある女性は念頭に置いておき、適宜主治医と相談していきましょう。

(4) ワクチンによる予防効果

ワクチン接種歴が明らかな感染妊婦661人のうち、86%が一度も接種していませんでした。また、中等症 II・重症だった妊婦81人のうち100%が、中等症 I のうち95%が未接種者だったことが明らかとなりました。

つまり、感染した妊婦の大多数がワクチン未接種者であり、ワクチン接種者では「中等症 II 以上となった事例はなかった」ということになります。これは英国など海外からの報告とも一致しており、これまでの論文で示されてきた「ワクチン接種による重症化予防効果」を裏付ける結果と考えられます。

なお、本結果にはデルタ・オミクロンの違いによる影響を考慮する必要があるため、さらなる解析が必要だと記載されています。

今後も妊娠中の感染には注意を払いましょう

日本でも徐々に人々の活動性が増しており、6月10日には条件付きではありますが外国人観光客の受け入れを再開しました。

感染者数が今後急速に増加する可能性はゼロではなく、感染予防を念頭においた日常生活はまだ必要でしょう。

特に、妊婦は「ハイリスク者」として各国が定めており、積極的なワクチン接種や感染予防行動が推奨されています。

また、いわゆる「ヘルスリテラシー」が高い妊産婦では、コロナウイルスへの感染予防行動を積極的に取りやすいとされています。(文献5)

適切に情報や知識をアップデートし、今後も感染に備えつつ、皆さまが妊娠生活を健康的に送っていただけるよう心より願っています。

参考文献:

1. CDC. Pregnant and Recently Pregnant People. At Increased Risk for Severe Illness from COVID-19.

2. Am J Obstet Gynecol. 2022 Feb;226(2):177-186.

3. N Engl J Med 2021; 385:2008-2010

4. JAMA Pediatr. 2022 Feb 10.

5. J Matern Fetal Neonatal Med. 2022 Jun 1:1-7.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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