Yahoo!ニュース

米国務省内で「ナチスのカギ十字の落書き」東京五輪の関係者解任後に世界で広がる反ユダヤ主義

佐藤仁学術研究員・著述家
国務省のエレベーターに落書きされたカギ十字(Axios提供)

東京五輪での関係者解任を機に増加している反ユダヤ主義

2021年7月28日にアメリカの国務省のエレベーターの中に、ナチスドイツのシンボルだったカギ十字が彫られていたのが発見された。日本では若い子らがSNSで絵文字で「卍(まんじ)」などをよく使っているが、欧米ではタブーの象徴でもあるナチスドイツのカギ十字が国務省のエレベーターに彫られていたことから、ホロコーストを再燃させるといった声が上がっている。

東京五輪の関係者が過去にホロコーストを揶揄していたことで解任された。サイモン・ウィーゼンタール・センターが7月21日に抗議文を発表したことから世界中で報道されていた。ホワイトハウスでの記者会見でもジェン・サキ報道官が「解任は正しい判断です。小林氏の当時のコメントは攻撃的で全く同意できません。(ホロコーストを過去に揶揄したことは許されませんが、それによって)バイデン大統領夫人の五輪開会式参加を取りやめることはありません」と見解を発表していた。

だが、反ユダヤ主義者やホロコースト否定論者は、あのようなパフォーマンスを支持している。反ユダヤ主義者やホロコースト否定論者は、今回の五輪関係者の解任の報道をうけて「ホロコーストなんてなかったのだから、解任はおかしい」と発言したり「ユダヤが世界を支配している」といった陰謀論を持ち出してくるなど、東京五輪の関係者が解任されてから、反ユダヤ主義やホロコースト否定論がネットでも多く投稿されている。

日本では馴染みがないが、欧米や中東諸国では現在でも反ユダヤ主義が根強い。第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコーストだが、欧米や中東では「ホロコーストはなかった」といったホロコースト否定論も多い。さらに、ナチスのカギ十字をユダヤ人墓地に落書きするといった事件も以前から起きている。このように、東京五輪での関係者解任のニュースをうけて、世界的に反ユダヤ主義の風潮が吹き荒れているなかでの、国務省のエレベーターでのカギ十字の落書き事件が起きた。

ユダヤ系のブリンケン国務長官「アメリカにも、国務省内にも反ユダヤ主義が入り込む余地は一切ありません」

ブリンケン国務長官自身は戦後アメリカで生まれたのでホロコーストは経験していないが、ユダヤ系であるためホロコーストと反ユダヤ主義には非常に敏感である。

今回の国務省のエレベーターでの落書きについて、国務省職員全員にメールを送った。ブリンケン国務長官は「落書きは既に消しました。現在、犯人を調査しています。この痛々しく辛い出来事から、反ユダヤ主義が昔のことではないことを思い出させます。まだ世界中に、そしてアメリカで、しかも身近なところに反ユダヤ主義があります。非常に忌々しいことです。アメリカにも、国務省内にも反ユダヤ主義が入り込む余地は一切ありません。一致団結して反ユダヤ主義と闘っていきましょう。私たちは過去の歴史からもよく知っているように反ユダヤ主義のような差別があるところでは、民族主義や性差別、同性愛差別、外国人排斥につながっていきます。このようなイデオロギーはアメリカにも私たちの職場にもあるべきではありません。そして、ユダヤ人の同僚の皆さんへ、皆さんの業務はとても素晴らしく、皆さんと一緒に仕事できることをを誇りに思っています」と呼びかけていた。

また米国最大のユダヤ人団体の名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League: ADL)も今回の国務省でのカギ十字事件を踏まえて、CEOのジョナサン・グリーンブラット氏は「国務省での反ユダヤ主義の強い攻撃的なカギ十字を見て、とても腹立たしいです。世界規模で反ユダヤ主義が台頭してきています。このような行動に対しては強い抗議だけでなくアクションも起こして対抗していかなくてはなりません」と語気を強めて訴えていた。

▼米国最大のユダヤ人団体の名誉毀損防止同盟のCEOの投稿

▼イスラエルのメディアのジャーナリストのバラク・ラヴィッド氏が国務省職員に送ったメールを公開

▼ユダヤ人墓地にナチスのカギ十字の落書きがされる事件

写真:ロイター/アフロ

写真:ロイター/アフロ

▼ブリンケン国務長官

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事