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これからは「部下育成」より「上司育成」のほうが、よほど大事である

横山信弘経営コラムニスト
部下は上司を育成し、上司の成長を願わなければならない時代?(写真:アフロ)

世間では「部下育成」「部下育成」と言うけれど

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。企業の目標を達成させるためにはミドルマネジャーを鍛えることが、まず何よりも先にすることです。部長、課長と呼ばれる人たちのマネジメントスキルが低ければ、組織で目標を達成させることなどできないからです。

世間では、やたらと「部下育成」が大事と言いますが、それより「マネジャー教育」が第一です。なぜなら「マネジメント」を正しく学んで役職に就いている人がほとんどいないからです。概念的には理解しているかもしれません。しかし、どのように仮説を立て、計画を立案し、部下たちに行動させ、成果を出させるか。どのようなツールを使って可視化し、効率的にマネジメントサイクルをまわすべきか。ほとんどのミドルマネジャーは自分の言葉として語ることができません。(教科書的なことは言えても)正しいトレーニングを受けて体得している人が圧倒的に少ないからです。

なぜ上司は行動できないのか?

人間の思考プログラムは過去の体験の「インパクト×回数」でできあがっています。したがって、過去の体験量が多いほど思考プログラムは強固になり、自分の考え、価値観などを変えることが難しくなっていきます。

「最近の若い子はダメだな」

とつぶやく上司は、典型的なパターンです。「最近の若い子はダメ」という先入観、思考パターンが脳にできあがっているため、そのようなフィルターでしか若い人を観察できないのです。物事を「事実」でとらえず、バイアスのかかった「意見」で意思決定する人に、正しいマネジメントサイクルをまわして成果を出すことは難しい。

スマートフォンが登場してまだ10年です。本格的に普及しはじめたのが8年ほど前。世の中の変化スピードは恐ろしいものがあります。今後、AIやロボットの技術がどんどん進化し、さらに劇的に外部環境は変化していくことでしょう。

医療技術が進化して寿命が延びるのは確実で、70歳、80歳になっても働くのがあたりまえの時代がやってきます。50歳でもあと20年以上は働かなければならない。そのスピードに、今の「上司」と呼ばれている人たちはついていけるのか、現場でコンサルティングをしていると、かなり疑問を感じます。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

今こそ「上司育成」が必要!

「部下育成」もいいですが、今こそ「上司育成」です。25歳の部下が、55歳の上司を育成することは困難でしょう。しかし、35歳の部下が45歳の上司を、45歳の部下が55歳の上司を、育成・教育・啓蒙することはできますし、今後はしていかなければなりません。

従来であれば、上司と部下の会話は以下のようになるはずです。

部下:「新しい企画をお持ちしました。ぜひチャレンジしていきましょう」

上司:「おいおい。こんな企画、本当にうまくいくのか? 焦らなくてもいいだろう。急くことはない。もっとどっしり構えていればいいんだ」

部下:「しかし部長、3年後の事業計画を達成するためには、今からやっていくべきです」

上司:「3年後の事業計画と言ったって、社長が決めた話だろう。いつその計画が変わるかわからない、というのに」

部下:「現状のままでは業績を維持することはできません。社長があれほど強く訴えていたじゃありませんか」

上司:「俺が言うことに文句があるのか? 君は黙って俺の言うことを聞いていればいいんだ。焦るなって」

しかし、今後は部下が上司をカウンセリングするかのように育成していくことが重要です。

部下:「新しい企画をお持ちしました。ぜひチャレンジしていきましょう」

上司:「おいおい。こんな企画、本当にうまくいくのか? 焦らなくてもいいだろう。急くことはない。もっとどっしり構えていればいいんだ」

部下:「部長、3年後の事業計画を達成するためには、今からやっていくべきです。こちらを見てください。社長が強い気持ちで作られた方針書です。私たちもそれに賛同しています。部長もあの経営会議のとき、うなずいていたじゃありませんか」

上司:「そりゃあ、そうだが……。3年後の事業計画と言ったって」

部下:「部長、現状のままでは業績を維持することはできません。わかっているじゃありませんか。部長のお力が必要なんです。若い人たちもやる気になっています。組織を変えていきましょう」

上司:「う、うーん」

部下:「若手と一緒に、今後の行動計画をつくりました。部長の名前もあります。私がメインでやりますから、部長はこのKGI達成のために、このような行動をしていただけませんか」

上司:「おいおい、俺が現場に行ってやるのか」

部下:「部長以外に誰ができるんですか。みんな期待していますから。あとですね、この部署との調整もお願いできないでしょうか。すでに先方の課長とは、話をつけていますから」

上司:「わかったよ」

部下:「ありがとうございます。それでは、こちらで進めていきますね」

大事なことは、相手が「自分よりもあらゆる面でスキルが高く、組織の付加価値を高められる力のある上司」だと思わないことです。そう思い込んでしまうと、上司が言っていることは必ず正しいというバイアスがかかってしまい、反論できなくなります。無理やり反論しようとすると感情的になってしまうのです。

表現が悪いですが、相手を「年老いた親」というぐらいの温かい気持ちで、諭すように接することです。そしてまだまだ働いて活躍してもらうために、上司も「成長」してくれないといけません。ですから、長い目で「育成」するぐらいの気持ちでコミュニケーションをとるのです。

「なぜ上司を自分が育成しなければならないんだ」と思ってはいけません。どうせ「部下」の数も相対的に減っていきます。少子高齢化の時代なのですから。以前は「部下6名」だったのが、これからは「部下3名、上司3名」という時代になっていくだけ。育成する対象人数は同じ「6名」です。

「部下育成」をしているだけでは、組織は変わっていきません。中堅社員は「上司育成」も頭に入れるべき時代がやってきます。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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