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「クレイジー」な安倍政権の「成長戦略」に世界から厳しい視線―石炭火力の輸出や新設、温暖化を促進

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ベトナムを訪問した安倍首相。首脳会談では石炭火力発電への投資も話し合われた。(写真:ロイター/アフロ)

安倍政権の成長戦略の一環である「インフラ輸出戦略」の下、日本の官民が世界各地で石炭火力発電所の計画・建設を進めている。今月のアジア各国外遊でも、安倍首相はベトナムでの石炭火力発電への経済協力を約束した。だが、昨年11月に世界的な地球温暖化防止の取り組みである「パリ協定」が発効するなど、温室効果ガス排出削減が国際的な目標となる中で、それに逆行する日本の動きには、厳しい視線が向けられているという。今月22日、東京都日野市で行われた講演で、共同通信編集委員の井田徹治さんが語った。

〇世界の流れに逆行する日本の石炭火力発電推進

講演する井田さん
講演する井田さん

異常気象が毎年世界各地で猛威をふるい、沖縄やオーストラリアなどでサンゴが広範囲で死滅、2014年から昨年と3年連続で世界平均気温が観測史上最高を更新し続けるなど、地球温暖化の脅威は、いよいよ現実のものとなっている。国連加盟国数を超える196の国と地域が、パリ協定に参加、昨年11月に発効したことも、世界的に温暖化への危機感が高まっていることが背景にあるだろう。そんな中、世界の流れと逆行しているのが、安倍政権だ。昨年11月、モロッコのマラケシュで開催されたCOP22(国連気候変動枠組条約第22回締約国会議)を現場取材した井田徹治さん(共同通信編集委員)はこう指摘する。

「COP22の国際交渉では、日本は全く存在感を出せませんでした。唯一、注目されたのが、『化石賞』の受賞。これは、世界のNGOが、温暖化交渉を妨げる国に批判を込めて贈る賞です。日本の受賞理由は、“クレイジーな数の石炭火力発電を途上国に輸出している”というものでした」。

安倍政権は、「高効率型」石炭火力発電所の輸出を、その成長戦略の柱の一つとして推進。インドやフィリピン、ベトナム、インドネシア、トルコなどで石炭火力発電に関する経済協力を実施、或いは協議している。だが、世界の温暖化対策の最優先課題は、大量のCO2(二酸化炭素)を排出する石炭火力発電をやめることなのだ。

井田さんの講演資料より。石炭火力発電を推進する日本に世界からは厳しい視線
井田さんの講演資料より。石炭火力発電を推進する日本に世界からは厳しい視線

「日本が輸出したい高効率型の石炭火力発電も、天然ガス火力発電に比べて、約2倍のCO2を排出してしまう。ですから、世界のエネルギー関連の投資では、石炭火力発電からの投資の引き上げや、今後、投資をしないとするなどの投資の流れが大きく変わっているのです。具体的な例で言えば、米国の石油産業を支えたロックフェラー財団ですら、石炭をはじめとする化石燃料からの撤退を宣言しましたし、米国最大手の石炭企業ピーボディ・エナジー社も昨年、倒産しました」(井田さん)。  

安倍政権の石炭火力発電への異常な情熱は、国内政策にも際立っているが、そこにも海外からの厳しい視線が向けられている。

「今後の国内の新設される発電施設として、48基もの石炭火力発電が計画されています。こうしたこともあり、ドイツの環境シンクタンクがランク付けする各国の温暖化対策ランキングで、日本は58カ国中下から2番目の57位。下にあるのは産油国のサウジアラビアだけという状況です。日本が環境先進国であるということは、完全に過去の話となってしまいました」(井田さん)。

〇「トランプに便乗」は間違い、脱化石燃料の流れは止まらない

日本の電力での石炭火力の割合は増え続けている。『エネルギー白書2016』より。
日本の電力での石炭火力の割合は増え続けている。『エネルギー白書2016』より。

井田さんは「日本の政界や産業界、そして一部のメディアにも、日本の温暖化対策の遅れを、温暖化対策に後ろ向きとされるドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことに便乗するかたちで、正当化しようとする傾向がありますが、世界の脱化石燃料の流れは止まらないでしょう」と言う。

「米国では、すごい勢いで太陽光発電が普及しています。それは、発電コストが大幅に下がったからで、経済性で太陽光が、石炭などの化石燃料より優位になりつつあるからです。この流れは、トランプ大統領の政権下でも大きくは変わらないでしょう」(井田さん)。

長年「高コスト」と言われ続けてきた太陽光発電だが、技術革新や普及拡大に伴い、世界的に発電コストが低下。米国でも、石炭火力発電所の発電コストの1キロワット/時あたり6~15セントであるのに対し、太陽光発電は最安で4セントを切る状況になっている(セント=1.14円)。

井田さんは「これからは日本で言われているような『低炭素社会』ではなく、『脱炭素社会』に世界は向かっていくでしょう」と強調する。世界の潮流から背を背け、一部の企業のためだけの政策を取る安倍政権。このままでは、温暖化対策でドラスティックに激変するエネルギー革命に日本が乗り遅れることになりかねない。

〇東京をトップランナーに温暖化対策を

国全体としては、非常に低い評価の日本の温暖化対策。だが、自治体レベルでは東京都の取り組みは「世界でも最も進んでいるものの一つ」と井田さんは言う。

排出量取引についての東京都の動画

「(CO2排出量を各企業ごとに制限枠を決め、それより削減/オーバーした排出分を市場で売買する)排出量取引を国に先駆けて導入するなど、東京都の取り組みは先駆的で国際的に高く評価されています。その他にも、京都府や横浜市、北海道のニセコ町なども非常に前向きです。国としての政策もより良いものにしていかないといけませんが、国だけをアテにしないで、自治体から率先してできることをやっていくことが大事です」(井田さん)。  

安倍政権の時代錯誤の政策を変えるためにも、各地域の人々がボトムアップで変革を促していくことが必要なのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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