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なぜ保険業界は「ブラック営業」を生み出しやすいのか?

横山信弘経営コラムニスト
保険営業は常に新しいお客様を探し続けている。(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■「不適切販売」という表現が不適切

「それは不適切販売ではない、ブラック営業だ」

6月に発覚した日本郵便、かんぽ生命の問題は、よく「不適切販売」という言葉を使って報道されています。しかし、これは「ブラック営業」と呼んだほうがわかりやすく、適切です。

なぜなら「不適切」という表現は、とてもソフトに聞こえるからです。たとえば「不適切な発言」と「パワハラ発言」とでは、受ける印象がまるで違う。

「私は不適切な発言をしたかもしれないが、決してパワハラだとは思っていない」

と弁明する人がいるように、

「不適切な販売はしたかもしれないが、決してお客様を騙そうとしただなんて、思っていない」

と、今回の事案でも弁明する人が出てきそうだからです。

しかし、実態は違います。この問題が発覚してから、とても「不適切販売」とは言えない事柄がドンドン明るみに出ています。

たとえば、契約中の保険を別の保険(たとえば養老保険)に乗り換える際、旧契約の継続を提案され、保険料を二重に払わされた事例は2万件を超えています。

これは、お客様に不利益となる乗り換え勧誘です。「不適切」どころではない保険業法違反。まさにブラック営業と言えるでしょう。

■「ブラック営業」とは?

私は「営業の基本(日本実業出版社)」という書籍で、営業の分類を細かく記述しています。

例を挙げると「B2B営業」「B2C営業」「案件型営業」「ルート型営業」「訪問営業」「対面営業」「提案営業」「ソリューション営業」「コンサルティング営業」……など。それぞれの言葉の定義とスタイルを記しました。このように対象顧客や手法、スタイルによって、営業はいくつかに分類できるものです。

とはいえ、分類上はこう分けられても、営業の定義はすべて同じ。営業は「お客様の利益を支援し、正当な対価をいただく仕事」です。(※「営業の基本」参照)

ですから、お客様の利益にならないような商品を提案したり、不当な対価をいただこうとする行為は、営業ではありません。

にもかかわらず、営業と名乗って、そのような行為をする人が後を絶ちません。そのため「営業=押し売り」「営業=キツイ」という印象を持つ人が、年々増えているのが事実です。

昨今の風潮では「ノルマ=悪」と決めつける人まで出てくる始末。

ですから、私は「ブラック営業」という言葉を、明確に定義したい。営業というのは、多くの企業においてなくてならない職種ですし、マジメに営業をしている人たちを色眼鏡で見てほしくないからです。

ここで、あらためて「ブラック営業」という言葉を定義付けると、

「ノルマ達成のためなら、お客様の不利益となる商材でも平気で販売する営業」

ということになるでしょう。

もちろん、今回の日本郵便、かんぽ生命の不適切販売は「ブラック営業」です。お客様の利益にならない商品を提案し、不当な対価をいただいていたからです。

クリーンなイメージのある郵便局が、ブラック営業をしていたわけですから、世間に与える影響は計り知れないと言えるでしょう。

■ なぜ保険業界は「ブラック営業」を生み出しやすいのか

さて本題です。新規の契約をとることで「販売手数料」が手に入る保険業界は、実のところ「ブラック営業」を生み出しやすい。それは、なぜか。保険は、何度も買いなおす商品ではないからです。

既存のお客様と信頼関係を構築し、そのお客様から常にご注文をいただけるようにできれば、営業は目標を安定して達成できるようになります。

しかし、保険業界のビジネスモデルはそれを許さない。

ひとつ契約をとっても、次から次へと新しいお客様を探し、販売していかなければいけないのです。

しかも、想像できると思いますが、「まだ保険に加入していない人」を探すのは至難の業。新社会人になった人と偶然知り合わない限りは、保険の「乗り換え」を提案することになるものです。ところが、保険なんて、それほど差別化できる商品ではありません。

減るものでもないし、壊れるものでもない。色褪せるものでもない。

ですから、別の保険に乗り換えてと提案されても、お客様の大半はメリットを感じません。

たとえ、お客様にとってメリットのある保険を提案されたとしても、結婚、出産、入学、就職……といった、何らかのライフイベントでもない限り、保険を乗り換えるうえで必要な、面倒くさい手続きをしようとは思わないものです。

それでも強引に「販売手数料」欲しさに、あの手この手を使って乗り換えをさせようとするから、ブラック営業になってしまうのです。

■「ブラック営業」を生み出しやすい業界

保険業界の他に、ブラック営業を生み出しやすいのは住宅業界でしょう。構造は同じ。ひとりのお客様からのリピートオーダーを、ほぼ見込めないからです。

したがって、いつも住宅営業は新規のお客様を探すことになります。契約してくれたお客様に手厚くフォローしても時間の無駄、戸建て住宅でもマンションでも売ったもん勝ち、という思考になりやすいのです。

自動車業界も同じ匂いがします。住宅や保険よりは、買い替え需要がありますが、4年や5年、長い場合は10年ぐらい待たなくはなりません。自分の営業目標達成のため、お客様の利益以前に、いかにうまいこと「売りぬけるか」を考える営業はいるのです。

これら、保険、住宅、自動車業界の共通点は、営業目標が「個数」になっていることです。これは、全業界の営業から考えると、とても特殊な考え方です。

普通、目標の単位は「金額」です。代表例は「売上」。もしくは「粗利」など。

ところが先述した業界は、保険の場合だと「契約数」、住宅だと「戸数」、自動車だと「台数」。こういった「個数」が営業目標になっている会社が大半です。

「金額」ではなく「個数」を目標にすると、営業マネジメントはしやすいでしょう。しかし営業担当者からすると、プレッシャーが凄い。できる営業とできない営業との比較がわかりやすいため、追い込まれて「ブラック営業」に走る人も出てくるのだと思います。

■「自爆営業」も引き起こす

2013年の年末、「日本郵政では自爆営業が横行している」という報道が大々的にされました。販売ノルマ達成のために日本郵政の社員たちが商品を自費で買い取っているという事態が、取沙汰されたのです。

保険、住宅、自動車業界で、この「自爆営業」は日常茶飯事。

保険営業が、自分自身の保険を乗り換えるのは、よくやる手です。住宅営業も、自動車営業も、自社の製品を実費で買うことはあるでしょう。

家族や親族、知人などにお願いして買ってもらうことも、あります。自分自身の利益になるかどうかは別として、今の保険を解約して乗り換える人もいます。

しかし、本来これは正しい営業行為ではありません。

一般的な企業では、どうでしょうか。

「金型」「工作機械」「化学製品」「研磨加工技術」「包装資材」「AIコールセンター」……。

私が昨今、支援した企業の取扱製品(例)です。どれも営業本人が、自費で買い取れないような商品ばかり。

日本の企業数は430万にものぼります。それらのほとんどの企業は自費で買い取ることのできないような商品を取り扱っています。「自爆営業したくてもできない」というのが現実です。

ですから、地道にお客様との信頼関係を構築して、お客様の真の利益は何かを知り、正しく提案する。この原理原則をやりつづけることになります。

昔も今も、営業活動は変わりません。

地道にコツコツやることが最もオーソドックスで、正当なやり方です。保険業界も同じ。お客様から、繰り返しリピートオーダーはもらえないかもしれませんが、正しく信頼関係を構築することで、別のお客様を「紹介」してもらうことはできます。

お客様のことを考え、誠実に応対すること。このことこそが、すべての営業に共通する、長く安定して結果を出しつづける秘訣です。保険はすべての人間にとって大事な商品ですから、業界のイメージをクリーンにするためにも、保険営業の方々には頑張ってもらいたいと思います。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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