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なぜバルサはデ・ヨングの“移籍の可能性”を残しているのか?ユナイテッドの魅力的なオファーと苦渋の決断

森田泰史スポーツライター
バルセロナでプレーするデ・ヨング(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

不透明な未来に、不安が残る。

現在、難しい状況に置かれているのがバルセロナであり、フレンキー・デ・ヨングだ。バルセロナは先のソシオ臨時総会でバルサライセンシング&マーチャンダイジング(BLM) 社の49%の売却、テレビ放映権の一部売却で、ソシオの合意を得た。

これは起死回生の一手になると思われた。だがデ・ヨングの移籍の可能性が消滅したわけではない。

■デ・ヨングと恩師の存在

バルセロナは前述のBLMとテレビ放映権の一部売却で、7億ユーロ(約980億円)程度の収入を見込んでいる。しかしながら現時点では、ソシオの承認を得ただけだ。実際に売却がなされたということではない。2021−22シーズンを赤字で終えないために、バルセロナは年度末の6月30日までに行動を起こす必要がある。

「ビッグプレーヤーを売らなければいけなくなったら、我々にはその覚悟がある」と以前ジョアン・ラポルタ会長は語っていた。

アヤックスで中心選手だったデ・ヨング
アヤックスで中心選手だったデ・ヨング写真:なかしまだいすけ/アフロ

デ・ヨングには、マンチェスター・ユナイテッドが強い関心を示している。エリック・テン・ハーグ監督が新たに指揮官ポストに就いたユナイテッドが、デ・ヨングに触手を伸ばそうとしている。

来季に向け補強に動くユナイテッド
来季に向け補強に動くユナイテッド写真:ロイター/アフロ

「お金の問題ではない。問題は、良い選手を求めている監督が、彼を望んでいることだ」とはマンチェスター・ユナイテッドC E Oのリチャード・アーノルドの言葉である。

「(フットボールダイレクターの)ジョン・マータフは午前6時から午後10時まで働いている。合意にこぎ着けるために、だ。我々には2億ポンドの資金がある。我々のマネージャーはバルセロナにいる。デ・ヨング獲得に向け、全力を尽くしている」

デ・ヨングは2019年夏に移籍金固定額7500万ユーロ(約105億円)+ボーナス1100万ユーロ(約15億円)でアヤックスからバルセロナに移籍した。アヤックス時代にテン・ハーグ監督の指導を受け、2018−19シーズンには快進撃を続けた「ヤング・アヤックス」の中心選手としてチャンピオンズリーグのベスト4進出に貢献している。

ユナイテッドは現在、移籍金固定額6000万ユーロ(約84億円)+ボーナスというオファーを準備しているようだ。バルセロナにとって、それが魅力的なオファーであるのは間違いない。

アヤックス を率いていたテン・ハーグ監督
アヤックス を率いていたテン・ハーグ監督写真:ロイター/アフロ

もうひとつ、バルセロナが考えなければならないポイントがある。サラリーキャップだ。

冬の時点でラ・リーガによって発表されたサラリーキャップにおいて、バルセロナの額はマイナス1億4400万ユーロ(約201億円)というものだった。唯一、マイナスの数字を出していた。

その点とデ・ヨングの年俸1100万ユーロ(推定)に顧みて、移籍の可能性はまだ除外できない。

■バルセロナのDNA

デ・ヨングはアヤックスのカンテラ出身選手だ。

ヨハン・クライフの活躍以降、アヤックス 、バルセロナ、そしてオランダ代表は深い繋がりを持つようになった。

ヨハン・ニースケンス、フランク・デ・ブール、ロナルド・デ・ブール、ミハエル・ライツィハー、ボロ・ゼンデン、マルク・オーフェルマウス、パトリック・クライファート、ジオ・ファン・ブロンクホルスト、フィリップ・コクー...。多くの選手がバルセロナの成功のために尽力した。

そういった意味で、デ・ヨングには大きな成功が期待されていた。

ただ、バルセロナでは厳しい競争が待っていた。まず、アンカーには、セルヒオ・ブスケッツという不動の存在がいる。【4−3−3】の中盤の底に位置するブスケッツが、巧みなポジショニングで相手の守備をブロックして、なおかつ攻撃時にボールの循環をよくするというタスクを完璧にこなしている。

デ・ヨングはオランダ代表で、アンカーでプレーしている。しかしながら、バルセロナではインサイドハーフのポジションが与えられている。リオネル・メッシが在籍していた頃は、右のインサイドハーフで2列目から飛び出す役割を担うなど、チームのために奮闘してきた。

ボール奪取を試みるブスケッツとペドリ
ボール奪取を試みるブスケッツとペドリ写真:ロイター/アフロ

一方、この数年、バルセロナで若手選手とカンテラーノが台頭してきた。筆頭はペドリ・ゴンサレスとガビである。

2019年夏に17歳でバルセロナに加入したペドリは、瞬く間にレギュラーの座を奪取した。インサイドハーフを主戦場として、卓越した技術とプレービジョンで攻撃を司る選手に成長した。

バルセロナのカンテラーノであるガビは、2021−22シーズンにトップデビューを飾った。昨年10月にはスペインA代表デビューを飾り、17歳62歳の最年少出場記録を更新。ルイス・エンリケ監督に気に入られ、以後、スペイン代表にも定着している。

■レヴァンドフスキ獲得の検討

バルセロナは今夏の移籍市場でロベルト・レヴァンドフスキの獲得を検討している。

他方で、サディオ・マネが、リヴァプールからバイエルン・ミュンヘンへの移籍に迫っている。2023年夏までバイエルンとの契約を残すレヴァンドフスキをバルセロナが獲得するのは簡単ではない。しかしマネの移籍が、それを後押しする可能性がある。

ただ、いずれにせよ、バルセロナにはストライカーを獲得するための資金が必要だ。

バルセロナで換金の対象―つまり相応の移籍金を積まれ移籍の可能性がある選手―というのは、限られている。ペドリ、ガビ、ロナウド・アラウホ、アンス・ファティらがそこには挙げられる。だが若手選手とカンテラーノを放出することは難しい。事実、彼らとは契約延長を結んだばかり(ガビとは契約延長間近)で、その際に10億ユーロ(約1400億円)という破格の契約解除が設定されている。

デヨングは「バルサ愛」の強い選手だ。バルセロニスタからも好かれている。しかしーー、クラブの台所事情が、移籍には複雑に絡んでいる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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