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イマドキ珍しいシンプルさが魅力のルノー・トゥインゴGT

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は全て筆者撮影
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 ルノーが同社のコンパクトカーである「トゥインゴ」に追加したスポーツモデルの「GT」は、イマドキ珍しいくらいにシンプルなスポーツモデルである。だが、最新の電子制御デバイスが当たり前となり、運転支援システムを備えているのが当たり前となってきている現代のクルマの中にあって、シンプルである意味プリミティブなトゥインゴGTは、返って魅力的に見えたりもするのである。

「スマート」とは兄弟

 ベースとなったルノー・トゥインゴは、ダイムラーのコンパクトカー・ブランドである「スマート」とメカニズムを共用して送り出されるモデルである。ルノーとダイムラーはこの他にも、商用車のルノー・カングーとメルセデス・ベンツ シタンを共用している。またルノーとアライアンス関係にある日産はダイムラーと、メルセデス・ベンツGLAとインフィニティQ30を共用したり、日産スカイラインにメルセデス・ベンツ製エンジンを搭載するなどもしている。トゥインゴとスマートはそうしたアライアンスの流れの中から生まれたモデルである。

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 ユニークなのはその成り立ちで、駆動方式はRRという聞きなれないものを採用する。RRとはリアエンジン/リア駆動で、これはドイツのポルシェ911なども採用する稀有なレイアウトだ。そもそもこのRRレイアウトは、スマートが極めて短い全長の中で安全性を考えた時にエンジンをリアに搭載することでフロント部分のクラッシャブルゾーンを確保するため(といってもそれだけが理由ではないが)に採用されたものでもある。だからスマートやルノー・トゥインゴは、リアのハッチを開けると床面が思ったより高い位置にある。そしてその下にエンジンを抱え込んでいるのである。

昨年発売された限定車がカタログモデルへ昇格

 そんなRRレイアウトを持つトゥインゴをベースとして、ルノーF1やその他レース活動のワークスであるルノースポールが手がけたのがこのトゥインゴGTである。実はこのトゥインゴGTは2017年に限定車として200台が販売されており、すぐに完売したモデル。その時から将来的にカタログモデルとなることがアナウンスされていたが、それが今回のモデルということだ。

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 トゥインゴGTに搭載されるエンジンは、0.9Lの直列3気筒ターボ。スペックはノーマルでは最高出力90ps、最大トルク135Nmとなるが、GTでは109ps/170Nmにまで性能アップされている。そして組み合わせられるトランスミッションは、昨年の限定車の時は5速MTのみの設定だったが、今回からは6速のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)であるEDC(エフィシェントデュアルクラッチ:ルノーとしての呼称)も用意されるようになった。

 実際に試乗した印象は動画を参考にしていただきたいが、補足をしておくと動力性能は0−100km/h加速タイムが6速MTで9.6秒。EDCで10.4秒と、MTの方が優れた数値を実現する。最近のクルマではMTとDCTでは機械がクラッチ操作を行なうDCTの方が軒並みタイムは速いのだが、トゥインゴGTではもともとの馬力がそう大きくないためか、MTとDCTでは軽量なMTの方が速いという。実際車両重量は、MTが1010kgでEDCが1040kgと30kgの差があるのだ。

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 しかしながら体感では、実はEDCの方がパワフルに感じる。というのは、MTの場合はエンジンを回して高回転でギアをつないでいくと、現代の小排気量ターボゆえに回転に頭打ち感が出てしまう。このため、加速がもっさりと感じるのだ。しかしEDCの場合はクラッチ操作がない上に、エンジン回転が頭打ちになる前にシフトアップしていってくれるため、ターボの力強さや加速そのものに途切れが感じられず、返って頼もしい感覚に溢れていると感じるわけだ。

スポーツモデルだが、気軽さが信条

 と、細かい話はさておき、トゥインゴGTは走らせていると、とてもシンプルで楽しく気持ち良い1台である。スポーツモデルとはいえ、数値からも動力性能値からも、決して速いクルマではないことは明白。しかもルノースポールが手がけた足回りとはいっても、過剰にハードなものではなく、街中での快適性を犠牲にしないギリギリのところに仕立てられているので、気軽な感じで乗れるものにもなっている。

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 つまりトゥインゴGTはスポーツモデルではあるのだが、その性能や仕立てがほどほどであるために、決してスポーティさを存分に感じられるというのではなく、気軽に気持ちよく走れる1台、と考えていただくのが良い。で、なんだスポーティじゃないのか、とガッカリする方もいるかもしれないが、そうではなくこの「そこそこ」の気持ち良い走りが返って魅力的なのだ。

最新鋭のモデルにはない、操る感覚

 回転に頭打ち感はあるもののMTを駆っていると、最近では感じたことのない「クルマを操っている感覚」や「エンジンを使い切っている感覚」を存分に味わえる。またコンパクトであるがゆえに、自身の操作がクルマの動きに即座に反映されていることも感じ取れる。また運転支援システム等もないので、ハッキリとこのクルマは自分自身が運転しているという実感が強く伝わってくる。

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 そうして走っていると、なんだかクルマを初めて運転した時の感動を思い出すような、あんな感じの楽しさがどこからか湧いてくるのだ。そしてこれは作りがシンプルだからこそ感じられる感覚なのだろう。特に最近はかなりの部分を機械任せにできるクルマに乗る機会が多いので、こうしたモデルは実に魅力的に感じる。

 クルマは自分で運転したい、という向きは是非一度試してみてほしい1台。価格は5速MTが229万円。EDCが239万円となっている。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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