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史上最高勝率を期待される藤本渚四段、黒星を喫して後退 銀河戦本戦で岡部怜央四段に敗れる

松本博文将棋ライター

 3月7日。第32期銀河戦本戦Dブロック3回戦▲岡部怜央四段(24歳)-△藤本渚四段(18歳)戦が放映されました。(対局日=1月9日、先行配信日=3月2日)

 棋譜は公式ページにて公開されています。

 パラマス式トーナメントでおこなわれる銀河戦本戦。藤本四段は1回戦で西山朋佳女流四冠(現女流三冠)、2回戦で西川和宏六段に勝ち。3回戦に進み、岡部四段と当たりました。

 岡部四段と藤本四段は公式戦は初手合。準公式戦のABEMAトーナメントでは昨年1度対戦し、岡部四段が勝っています。

 本局は岡部四段先手。藤本四段が角筋を止め、定跡形をはずれた相居飛車の序盤となりました。

 16手目。藤本四段は横歩を取ります。先手陣の急所の歩を取るメリットがある一方、飛車を元に戻すのに手を損するため、バランスは取れています。

 藤本陣の陣形整備が遅れ、居玉のままのところで、岡部四段は積極的に動いていきます。しかし藤本四段も地力が発揮される乱戦は歓迎というタイプ。両者の力がぶつかり合う、観る側にとっては面白い中盤戦となりました。

 両者ともに30秒未満で決断よく指さなければならない終盤戦。87手目、岡部四段は駒の数が足りていない前線に、思い切りよく金を出ていきます。

「うひょー! えっ!?」「うわー!」

 そう驚く解説の伊藤真吾六段。岡部四段は飛車を損する思い切った攻めに出ました。

 コンピュータ将棋(AI)が示す形勢は藤本四段よし。しかし秒読みの終盤で、勝ち切るのはそう簡単ではありません。

 93手目。岡部四段は歩頭に銀を打ち、相手玉に迫ります。銀を取ってくれれば相手玉を詰まして勝ち。自玉も相当あぶないのは承知の上で、相手に下駄を預ける勝負手を放ちました。

 94手目。藤本四段は「9」まで読まれたあと、桂を成り捨てて王手をかけます。この瞬間、形勢は逆転。あぶないようでも、この順では岡部玉は詰みません。

 正解手は代わりに角を成り捨てる手で、そう指せれば藤本四段の勝ち筋でした。しかしそれは非常に難度の高い手。評価値の推移の上では「大逆転」であっても、秒読みの中の人間同士の戦いで、その角捨てを逃してしまったとしても、仕方がないところかもしれません。

 藤本四段は岡部玉に厳しい追及を続けていきます。しかし岡部四段は正確に応じ続け、つかまりません。

 ついに逃げ切って、手番が回ってきた岡部四段。117手目、藤本玉の横から王手で飛車を打ちます。これで藤本玉は詰み。藤本四段が投了し、大熱戦に幕がおろされました。

 岡部四段は4回戦に進出し、杉本和陽五段と対戦します。

 藤井聡太八冠とともに、史上最高勝率記録の更新が期待されている藤本四段。今年度成績は46勝8敗(勝率0.852)となりました。

 記録を更新するためにはもう1敗もできない状況の藤本四段。3月8日の王位戦リーグ、佐々木大地七段戦に勝てば、中原誠五段(現16世名人)が1967年度に記録した47勝8敗(勝率0.855)とまったく同成績となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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