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ハリルJの1トップ問題。 「最終決断」は大迫、杉本、それとも……?

杉山茂樹スポーツライター
ブンデスリーガ、1FCケルンでプレーする大迫勇也(写真:アフロ)

 ロシアW杯に挑むハリルジャパン。ここでは最後に、1トップの人選について検証する――。

◆代表入りの可能性(2~3枠)

80%=大迫勇也(ケルン/ドイツ)

60%=杉本健勇(セレッソ大阪)

30%=川又堅碁(ジュビロ磐田)

25%=岡崎慎司(レスター/イングランド)

20%=金崎夢生(鹿島アントラーズ)

20%=興梠慎三(浦和レッズ)

15%=その他(サプライズ選出)

 メインの使用布陣が4-2-3-1から4-3-3に変化したハリルジャパン。しかしFWは、いずれも3人編成の1トップ型で変わらず、だ。

 試合の頭から2トップを採用したのは、2016年3月24日にホームで行なわれたW杯アジア2次予選vsアフガニスタン(中盤ダイヤモンド型4-4-2)に限られる。試合の途中から、2トップに変化したケースもほぼなく、今後も1トップを既定の路線と考えるべきだろう。

 同じ1トップでも、4-2-3-1と4-3-3では、その役割は微妙に変化する。仲間が遠いのは、後者だ。

 4-2-3-1の1トップ下(「3」の真ん中)より、4-3-3のインサイドハーフのほうが、1トップからの距離は遠い。したがって、4-3-3の1トップには、ひとりでボールを収める力を備えたポスト型の選手のほうがハマる。

 2016年10月11日に行なわれたW杯アジア最終予選、アウェーのオーストラリア戦(1-1)。4-2-3-1から4-3-3へ移行するきっかけとなった試合は、これだった。

 ハリルホジッチはこの試合で4-3-3を選択し、1トップに本田圭佑(パチューカ/メキシコ)を据えた。

 本田を1トップ(0トップ)に置く4-3-3で想起するのは、2010年南アフリカ杯本大会に臨んだ岡田ジャパンだ。岡田武史監督が窮余の一策として繰り出したこの作戦が奏功。まさかのベスト16入りを果たす原動力になったことは、記憶に新しい。

 2010年から6年経った2016年にも、時の代表監督は同じ作戦を用いたのだった。

 4-2-3-1からの移行という点でも共通するうえに、その4-2-3-1で1トップを務めていた選手が、岡崎慎司(レスター/イングランド)だったという点でも一致する。これは、本田のポストプレーが、岡崎のそれを凌(しの)ぐことを意味する。

 しかし本田の1トップは、ハリルジャパンではこのオーストラリア戦が最初で最後になった。次戦のオマーン戦(親善試合)以降、4-3-3の1トップには大迫勇也(ケルン/ドイツ)が座ることになった。

 4-2-3-1の使用頻度は、これを機に減少。岡崎がスタメンを飾るケースも同様に激減した。そして岡崎は、2017年9月のW杯アジア最終予選、アウェーのサウジアラビア戦を最後に、代表チームに招集されなくなった。

 岡崎に復活の目はあるのかと問われれば、苦しいと言わざるを得ない。まもなく32歳を迎える年齢的な問題、1トップとの適合性に加え、多機能性が減退したこともその大きな理由だ。

 もともとザックジャパン時代には、むしろ4-2-3-1の「3」の右で出場する機会のほうが多かったほどだが、所属チーム(マインツおよびレスター)でセンターFW型の選手として活躍してしまったことと、それは大きな関係がある。運のなさを感じずにはいられない。

 本田の1トップ(0トップ)がオーストラリア戦限りで終わってしまったのに対し、大迫の1トップが今なお健在なのは、単純に大迫のほうがボールの収まりがいいからだ。本田の衰えを示す事例と言ってもいい。2011年のアジアカップでは、4、5人に囲まれてもボールを失わなかったほどだったが……。

 それはともかく、ハリルホジッチが布陣をその後、4-3-3メインに切り替えたことも、大迫のプレースタイルと、相性がいいことを実感したからに他ならない。ファーストチョイスは、よって大迫になる。

 しかし問題なのは、その得点力だ。今季、所属のケルンで挙げたゴールは、出場した1414分に対し、わずか2(3月11日現在)。この数字はいくら何でも少なすぎる。持ち味を発揮するならFWとしてではなく、4-2-3-1の1トップ下(「3」の真ん中)のほうが、いいのではないかという気にさえなる。

 得点力を考えると、昨季のJリーグで得点王争いを演じた国内組に目が移る。

 23ゴールを挙げて得点王に輝いた小林悠は、ウイング(サイドアタッカー)編でも触れたとおり、所属の川崎フロンターレでは今季、4-2-3-1の「3」の右でプレーする。1トップでも、ウイングでも、どちらも可能という点でポイントは高くなる。

 得点ランキング2位(22点)の杉本健勇(セレッソ大阪)は、他の選手にはない高さ(身長187cm)がある。存在がわかりやすいので、ターゲットになり得る。ポストプレーもまずまずだ。

 急にブレイクした選手は翌シーズン、落ち込むことがよくあるが、杉本は今季も高いレベルを維持している様子。ハリルホジッチが4-3-3を継続していくならば、大迫を脅かす一番手になりそうだ。

 得点ランキング3位(20点)の興梠慎三(浦和レッズ)、5位(12点)の金崎夢生(鹿島アントラーズ)は厳しいだろう。主流となる4-3-3の1トップとの相性がいいとは言えないからだ。

 興梠の場合は、今季の浦和でのプレーに表れている。堀孝史監督が採用する布陣は、ハリルホジッチと同じ4-3-3。その1トップに興梠はうまくハマっていないのだ。

 相手DFを背にしながらプレーするタイプではない。身長も175cmとけっして高くはない。ターゲットにはなりにくい。2人の”シャドー”が近い距離で構えていたペトロヴィッチ時代の3-4-2-1のほうが、興梠には断然、マッチしていた。

 金崎も所属チームのサッカーと関係する。鹿島の基本布陣は中盤フラット型4-4-2。金崎はその2トップの一角としてプレーするが、2人のうちの1人なので、サイドに流れたり、開いたりする。真ん中に張るプレーを、もう1人のFWに任せようとする傾向がある。

 ここが、ハリルホジッチのニーズと合致しない点だ。彼が1トップに求めていることは、サイドに開かずに真ん中にいること、だ。

 そうした意味では、得点ランキング4位(14得点)の川又堅碁(ジュビロ磐田)のほうが適している。追加招集という形で招集された昨年末の東アジアE-1選手権では、3試合すべて交代出場ながら、1トップにふさわしいプレーを見せた。

 わかりやすかったのは、先発した金崎と交代で入った第1戦。収まりがよかったのはどちらかと言えば、川又だった。

 とはいえ、金崎、興梠の肩を持つわけではないが、ハリルジャパンにはオプションの中に2トップの戦い方がないことに疑問を感じる。2トップの一角ならば、両者に加え、岡崎、さらには武藤嘉紀(マインツ)も浮上する。

 3FWの1トップ型であっても、相手リードで迎えた終盤は、4FWの2トップ型に変えて臨まなければならないシーンも出てくるはずなのだが……。

 限られた枠の中で、いかに多くの選択肢を持たせるか。その数と監督の優秀度は比例の関係にある。

 また、このポジションには毎度、サプライズ選出が発生する。2006年大会の巻誠一郎、2010年大会の矢野貴章は、本大会ではウイングで起用された。2014年大会の大久保嘉人は1トップで堂々スタメンを飾った。

 最終選考の段階で、調子がいい選手、当たっている選手が滑り込んでも、なんら不思議はない。その指標となる今季のJリーグの得点ランキングには、W杯のメンバー発表まで目を凝(こ)らして注目したいものだ。

(集英社 webSportiva 3月13日掲載)

※3月15日に発表された欧州遠征メンバー(23日マリ戦、27日ウクライナ戦)には、大迫勇也、杉本健勇、小林悠(この欄では右ウイングの候補として紹介した)の3人が、センターフォワードの候補として選ばれた。

第4回・サイドアタッカー(ウイング)編はこちら>>

第3回・守備的MF編はこちら>>

第2回・攻撃的(高めの)MF編はこちら>>

第1回・センターバック編はこちら>>

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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