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昌子源が大舞台に強い理由。

二宮寿朗スポーツライター
ベルギー戦の前日会見に出席。西野朗監督の期待も高い。(写真:ロイター/アフロ)

 大舞台を踏むことで急激に伸びる若手がいる。

 25歳のセンターバック、昌子源がまさに当てはまる。吉田麻也の相棒としてコロンビア戦、セネガル戦で堂々と「世界」と渡り合い、チームに安定感をもたらした。

 コロンビア戦では一人少ないとはいえ、吉田や周囲との連係でラダメル・ファルカオを封じ込めた。グッと経験値を引き上げて臨んだセネガル戦ではエムバイ・ニアングと激しいバトルを繰り広げた。前半こそ手を焼いたように見えたが、時間が経つにつれてその立場は逆転していった印象だ。

 先発メンバーでは柴崎岳と並んで最年少で、唯一の国内組、そして初めてのワールドカップ。

 でも気負いというものがない。セネガル戦後も冷静にゲームを振り返る彼がいた。

「(自分は)狙われていましたね。僕がボールを持てば(相手は)スイッチをオンにするタイミングやったと思うし、でもそれは最初の段階で気づいてはいました。まあ、そりゃそうやろとは思いますよ。麻也くんより俺のほうが(狙いやすい)だし、(左センターバックだが)利き足は左じゃない。チームメイトにも『俺にボールが入れば(相手はプレスに)来るから、シンプルに預けたい。(長友)佑都くんにパスを出すと連続で(プレスに)行きやすい。出来るだけ1個前に飛ばしたい』と伝えていました。ドリブルで上がったり、早めにボールを預けて次のポジションを取ったり、自分のなかでもいろいろやってみようとは思っていました」

 昌子にボールを持たせてターゲットにするセネガルの守備を機能させなかったことが、2度追いつく同点劇に結びついた。またしてもグッグッと経験値を引き上げたのだった。

 昌子には大舞台に強い印象がある。

 2016年12月のクラブワールドカップ決勝、レアル・マドリーとの一戦。後半42分、クリスティアーノ・ロナウドとの1対1勝負になり、間合いを詰めてから右足でボールを突いて難を逃れた場面があった。対応を間違っていれば、シュートまで持っていかれたに違いない。実に落ち着いていた。

 この大会を境に、代表復帰を果たして先発機会を増やしていくようになる。そして昨年8月、アジア最終予選のヤマ場となったホームのオーストラリア戦も、好パフォーマンスを披露している。

 なぜ大舞台に強いのかをこのオーストラリア戦の後、本人に尋ねてみたことがある。

「自分でも大事な試合では結果を残してきているつもりです。過去に一番、緊張したと言ったら2012年のヤマザキナビスコカップ決勝(対清水エスパルス)ですね。全然試合に出ていなかった僕が左サイドバックで先発して、凄く緊張したことを覚えています。僕にとっては生きるか死ぬかの戦い。失敗したら当分、出番はないだろうし、うまくいけばチャンスをつかめることになりますから。

 そしてオーストラリア戦も不安のほうが強かったとは思います。負けたら地獄とまではいかないとしても、そういう表現が正しいじゃないですか。もしオーストラリアに負けても(次の)サウジアラビア戦で取り返せると思って臨んだら、もっと楽な気持ちになったのかもしれない。でもそういう考えを一切、持たなかった。『絶対にこのオーストラリア戦で決めてやる』って思っていましたから。不安はありましたけど、後がないという気持ちで臨んだのは正解でしたね」

 不安と緊張。

 しかし押しつぶされかねないこの要素を、昌子はポジティブに処理できる。

「実は大きな試合の前夜に眠れなかったことってないんですよ。オーストラリア戦のときぐらいですよ、あんまり眠れんかったのは」

 心掛けているのは「普段どおり」。鹿島アントラーズでやっていることを、代表でもできるだけ同じようにやる。同じように過ごす。彼はそうやって、不安と緊張をプラスアルファの力に変えてきた。

 さてワールドカップではどうなのだろうか?

 ロシアの地で聞いてみた。笑顔の昌子は言った。

「めっちゃ、眠れてます(笑)。それも昼寝もバリバリです(笑×2)」

 不安とか緊張は?

 続けて質問すると、ゆっくりと首を振る。

「(不安や緊張よりも)普通に試合をやっている感覚で、あんまりワールドカップやからどうっていうのが自分のなかにないんですよ。どうしてこんなに落ち着いてやれているのか、自分でも不思議なんです。鹿島でやっているように2手先、3手先を考えてプレーできているし、冷静にやれているかなって。でもワールドカップやぞ、特別やぞと思えてないというのは、ちょっと損しているんですかね(笑×3)」

 Jリーグでタイトルが懸かった試合、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)、クラブワールドカップ、そしてアジア最終予選などを乗り越えてきて、今の境地がある。不安も緊張も、「普段どおり」を乱すものにはならない。普段の延長線上という意識が、冷静の源流にある。周りの日本代表メンバーから比べれば経験の数そのものはまだまだ少ないが、一つひとつの経験を大切にステップアップの踏み台としてきたからこそだ。

 

 数時間後に控える強豪ベルギーとの決勝トーナメント1回戦。2試合で4ゴールを挙げている190センチ、93キロのストライカー、ロメル・ルカクと対峙することになる。高さ、強さ、速さと抜群の身体能力を誇る。

 食い止めるのは難儀だが、それでもやらなければ日本に勝利はない。

 そう、伸びまくりの若きセンターバックは大舞台に強い。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター

1972年、愛媛県出身。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、2006年に退社。文藝春秋社「Sports Graphic Number」編集部を経て独立。著書に「岡田武史というリーダー」(ベスト新書)「闘争人~松田直樹物語」「松田直樹を忘れない」(ともに三栄書房)「サッカー日本代表勝つ準備」(共著、実業之日本社)「中村俊輔サッカー覚書」(共著、文藝春秋)「鉄人の思考法」(集英社)「ベイスターズ再建録」(双葉社)がある。近著に「我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語」。スポーツメディア「SPOAL」(スポール)編集長。

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