矢部太郎扮する技術者に蹴りを入れる軍隊長はこの人!「あの蹴り方はちょっと変更がありました」
川を一本挟んで戦闘状態にある町を舞台に、川の向こう側にいるまったく知らない敵とぼんやりと戦うひとりの兵士と、戦争下にある住人たちの毎日がブラック・ユーモアたっぷりに描かれる現在公開中の映画「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」。
痛烈な反戦映画にも、オフビートなコメディにもとれるが、実は社会風刺と娯楽性が同居した大エンターテイメント作といいたい本作については、先に池田暁監督のインタビュー(第一回・第二回・第三回)をお届けした。
それに続き、池田監督が絶大な信頼を寄せ、作品のひとつの基軸であり指針となった存在の俳優2人へのインタビュー。よこえとも子(前編・後編)に続いて、矢部太郎演じる技術者らに蹴りを見舞う軍の金村隊長役で鮮烈な印象を残す友松栄にご登場いただき、話を訊く。(全二回)
もう芝居を辞めようと思いかけていたときに、出会った池田監督
友松は池田暁監督作品の常連俳優。初期の段階から出演している、いわば池田監督が信頼を寄せる俳優でもある。その出会いをこう振り返る。
「もともと、地元の社会人劇団で活動していたんですけど、どうしても地方だと限られた演劇の情報しか入ってこない。
それで演劇の勉強をしようと東京に出ることにしました。
ただ、当初は、東京で成功するというよりも、演劇のノウハウを吸収して地元に持って帰ろうというのが主目的で。
で、20代後半から30代頭くらいにかけて劇団に所属していたんですけど、やっているうちにもうちょっと心が折れたといいますか……。
もう芝居を辞めようと思いかけていたときに、たまたま出会ったのが池田監督でした。
出会ったきっかけは、池田さんの知り合いの役者さん、西山啓介さんとたまたま僕が一緒の舞台に出ていて。
なんか急に彼に『監督を紹介したい』と言われて、会ったのが池田監督でした(笑)」
『主役をやってもらいたい』と突然言われて、びっくりしました
そうした流れがあって、池田監督の作品に出演するようになる。
2013年の池田監督作品「山守クリップ工場の辺り」では、主演を務めることになる。
本作は、いまに続く池田監督の独自の演出・作品スタイルを決定づけた1作。
PFFアワード2013審査員特別受賞に輝いたほか、バンクーバー映画祭やロッテルダム映画祭でも受賞を果たしている。
「俳優として身の振り方を考えた時期に池田監督と出会って、出演させていただくことになりました。
池田監督の作品が、僕にとって初めての出演した映像作品でもあります。
でも、その後、また声がかかるとは思ってなかったんですよ。1度限りで終わりだろうなと。
だから、『山守クリップ工場の辺り』で再び呼ばれたときはびっくりしました。
しかも『主役をやってもらいたい』と突然言われて、びっくりしました。
聞き直しました。『僕なんかで大丈夫なんですか』と。映像作品への出演経験もまだ浅く、演劇でも主役なんてやったことなかったらですから」
このとき、池田監督ならではの独特のセリフ回しや所作は、どう感じたのだろうか?
「僕が演じた小暮のみならず、ほかの役に関しても、それぞれに体内時計といいますか。各人に流れている時間のようなものが池田監督には明確にある。
だから、僕がちょっと速く動いただけで『速いです』とか、ちょっとふらついただけで『まっすぐ歩くように』と池田監督に指摘される。
でも、それはぜんぜん型にはめられて窮屈とかそうことはないんです。
むしろ、徹底していくと『ああ、小暮はこういう性格なんだ』とか感じて、どんどん役がなじんでくる。
一度、なじんでしまうと『ああ、こういう人間なんだ』という感覚になって、自分の中に定着するんですよね」
池田監督ならではのシュールな笑いやブラックなものの見方は大好き
では、池田監督ならではの作品世界は演者として一観客としてどう感じているだろう?
「僕は池田監督ならではのシュールな笑いやブラックなものの見方は大好きです。
この作品世界に、自分が演者としていれることはとてもうれしく思っています」
先で伝えたように今回の「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」には、前段としてパイロット版が存在。
そのプロット版から、引き続く形で、よこえとも子と友松は出演している。
「引き続き出演が決まったことは素直にうれしかったです。
ただ、パイロット版に出演したメンバーが全員、『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』に出演というわけではなかった。
なので、正直、心が痛いところもありました。彼らの想いも背負って頑張らないといけないと思いました」
友松が演じた金村は、キャラクターとしてはパイロット版から変わらなかったという。
「人物の設定としてはあまり大きな変更はなかったと思います。
ただ、蹴り方に関してはちょっと変更がありましたね(笑)」
ひとつ恋愛映画にも通ずるんじゃないかと個人的には思った
パイロット版から、長編映画となった脚本の第一印象をこう明かす。
「戦争ということが大枠にあったり、ある意味、日本社会の縮図が描かれていたりと、いろいろと驚いたところはあったんです。
中でも、とりわけ驚いたのは恋愛要素といいますか。
これ、もしかしたら池田監督に怒られるかもしれないですけど、僕の中では、ヒロインっぽい人が出てきたことが一番びっくりしたんですよ。
(池田監督作品に出てきましたけど)今まであんまり恋愛の要素はおそらく一切入っていなかった。
実際はヒロインが登場するわけではなく、対岸とのやりとりで感じられるわけですけど、これはひとつ恋愛映画にも通ずるんじゃないかと個人的には思ったんです。
で実際に池田監督に聞いてみたら、『いや、そんなことはない』って否定されたんですけどね(笑)。
でも、そういうことも含めていままでの揺るぎない池田監督のオリジナルな作品世界を感じさせながらも、新たな風のようなものも入った脚本だと思いました」
池田監督がインタビューで答えているように本作は、太平洋戦争について描いたわけではない。
ただ、コミカルな演出を施しながらも、戦争の本質を鋭く浮かび上がらせる。
また、見えない敵への疑心暗鬼、権力者の暴挙と隠蔽体質、それを許す社会の無関心など、いまの日本社会が透けて見えてくるところがある。
「これまでの池田監督の作品は、なにか架空の町の人々という小さなコミュニティーの世界の中に、あらゆる国につながる、いわゆる普遍性を見出すようなところがあったと思います。
ただ、今回は、ちょっと違うといいますか。
いつもと同じように架空の町の人々の小さなコミュニティなんですけど、背景のビジョンが全世界を見据えている感じがある。
だから、これまでにないスケールの大きさを感じて、どんな作品になるのか気持ちが高ぶりました」
(※第二回に続く)
「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」
監督・脚本・編集・絵:池田 暁
出演:前原滉、今野浩喜、中島広稀、清水尚弥、橋本マナミ、矢部太郎、
片桐はいり、きたろう、嶋田久作、竹中直人、石橋蓮司ほか
東京シネマ・チュプキ・タバタにて8/31(火)まで公開、
長野・上田映劇にて8/28(土)〜9/10(金)公開
ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト