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新型コロナウイルスへの感染リスクの考え方

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

GoTo中止が遅かったとか、4人以上の会食は良くないとか、いろいろ言われてますが、感染対策の基本が守られていなければ、どんなシステムの議論も意味をなしません。

それはすなわち、

  • 人が集まる場所に入るときは、マスクを着用すること
  • 公共のモノに触れたときは、手を洗うか消毒すること
  • 発熱などの症状を認めるときは、外出を自粛すること

です。

これら3つの原則が守られるだけでも、(封じ込められるとまでは言いませんが)流行の勢いは収まっていくと私は思っています。逆に、これらが守られていなければ、GoToを中止しても流行は拡大し続けるでしょう。

ただし、規律権力的な「感染対策」については、できるだけ避けるべきだと思ってます。たとえば、「外出自粛」や「マスク着用」の違反に罰則を設けている国がありますが、私自身はそれには反対の立場です。なぜかというと、実は罰則を設けるというのは、生活様式を変える以上に大きな変化なんですね。

外からのリスクに直面した私たちが自主的に家の中に入って鍵をかけるのか、あるいは政府・権力によって家に入れられて外から鍵をかけられるのかという違い。私たちの国は、リスクに対して自己管理ができる社会であってほしい。まあ、ギリギリのところに立ってますね。

そして、もうひとつ、罰則をつけてでも「社会は護られなければならない」という前提も受け入れがたく、それなら「どのような社会が護られるべきか」との問いを立てたくなります。つまり、社会における感染対策とは、「個々がリスクを理解したうえでの自己管理の重ね合わせ」であってほしいと思うのです。

と、前置きはこれくらいにして、それぞれに検討いただきたい感染リスクについて、例示する形でリスト化するならば、おおむね下図のようになります。専門家によって異論はあるかもしれませんが、大きく外れた意見はないでしょう。冒頭で述べた3つの原則を前提として、さらにリスクを自己管理するうえでの参考としていただけると幸いです。

筆者作図
筆者作図

まず、他人の家にあがりこむことは、互いにとって大きなリスクとなります。たまに見かけるテレビショーでは、家庭内での感染対策を解説してたりしますが、「そんなもんで予防できるなら、病院でこんなに苦労しないよな」と呟いています。

リアルに感染者が玄関先にいるのなら、感染するリスクを許容するか、帰っていただくかしかないのです。すぐに個室隔離するならまだしも、食卓を囲んだり、風呂を共用したりしながら、マスクや手指衛生のみで防げると信じるべきではありません。リスクが軽減される可能性はありますが、それでも暮らしを共有していては守りきれません。

宴席の場において、感染者が目の前に座っていたとします。酒を酌み交わしながら、それでも感染しないで済む方法を私は知りません。アルコールは私たちを饒舌にし、大声を出させ、そして密接にします。そこで感染するかどうかは、ほぼ「偶然」に支配されます。感染を回避する確実な方法とは、宴会への誘いを断ることだけです。

カラオケで歌えば、大量の飛沫やエアロゾルが発生します。ただし、マスクを着けたり、換気を徹底したりすることで、多少は感染予防できる可能性はあります。デイサービスでは、とりわけカラオケが人気なのは分かってます。ただ、歌う人をアクリル板で覆ったとしても、結局、皆で合唱すれば意味がありません(そうなりますよね)。

レストランでの食事については、それが短時間であり、会話も少なければ、リスクは低くなるかもしれません。アルコールを伴う宴会ほどのリスクはないでしょうが、あくまで確率の問題です。少なくとも、マスク会食のような「努力」で何とかなるものではありません。

一方、野外で楽しめて、接触のないスポーツであれば、会食と比すれば感染リスクは低くなっていきます。ジョギングやロードバイクなど、野外で行うけれど呼気は荒くなるスポーツでは、むしろマスクを着用しない方が安全です。ただ、並走による感染リスクは考えられませんが、誰かの真後ろを走り続けない方がよいかもしれません。

ゴルフ自体での感染リスクは低いと思われますが、ラウンド後に会食をすれば、元も子もありません。ただし、キャディさんが感染していたら、クラブのやり取りで感染する可能性はあります。あと、カートのハンドル、取っ手にも注意が必要です。年配者にはハンドルを握らせないのが安心でしょう。

ショッピングモール、図書館、水族館、映画館・・・、公共の屋内であっても一定の換気がなされていて、皆がマスクを着けていれば、それほど感染リスクを心配する必要はありません。マスクを着けられない理由がある方は、会話や咳、くしゃみのときにハンカチを口元にあてていただければと思います。

なお、通常、屋外でのマスク着用は不要ですが、念のため、症状がある人は着用してください(できれば外出しない)。また、初詣の混雑など、状況によっては屋外でもマスク着用が求められることがあります。ただし、公共の場への出入り口、トイレなどで公共物に触れたあとは、アルコールによる手指衛生を心掛けてください。

最後に、家族とのイベントは・・・ もはや暮らしという「一蓮托生」の関係にあるので、一緒にホテルに泊まろうが、レストランで食べようが、追加的な感染リスクを考える必要はありません。彼氏や彼女といった、とくに親しい友人関係においても同様です。ただし、公共の場におけるマスク着用や手指衛生は前提です。

まあ、親しかろうが、親しくなかろうが、かけがえのない、あるいは今しかないイベントもあるでしょう。それを線上にプロットすることはできません。そして、誰かの人生を犠牲にしてまでも、護られるべき社会に私たちは暮らしているのか・・・ という問いは、やはり残されています。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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