北欧ノルウェーの幼稚園・保育園 現場から聞こえる課題
ノルウェーでは、日本語でいう「幼稚園」と「保育園」の区別はなく、バーネハーゲ(barnehage)という言葉で統一されています。誤解を避けるため、この記事では「子ども園」という言葉を使います。
首都オスロでは、オスロ・メトロポリタン大学にて、「大都市会議」が開催されました。大きな規模の街での都市開発などを議論するカンファレンスです。
大都市での子ども園を舞台に起きている「緊張」がテーマとなったセッションでは、研究者らが現在取り組んでいる調査などを発表しました。
オスロメトロポリタン大学の労働研究機関で働くインガル・ブラットバックさんは、子ども園がある地域がメディアによってどのように報道されているか、環境が子どもの成長に影響を与えるだけではなく、どのような家族が結果として街を出入りして移動するかを説明しました。オスロでは、地域によって経済格差があることが以前から指摘されています。
同大学の子ども園教育学の専門家であるセシリエ・トゥンさんは、移民(外国人)の子どもが増加する中、「ノルウェー人とは」というひとつの答えが存在しない問いが、子どものアイデンティティーを揺らがしていると指摘。
「ノルウェーで生まれ育ったのに、ノルウェー人として認められない」。この国では、移民背景や外見などが原因で、自己のアイデンティティーが揺らぐという議論が何年も続いています。原因となる周囲の偏見は、子ども園からすでに始まっていることが示唆されました。
オスロの子ども園で勤務するサハヤタセン・カイタンピライさんは、子どもたちが着る衣服が引き起こす問題点を指摘し、会場では大きな注目を集めました。
「洋服というのは、天気のために着るだけではなく、それ以上のものです。ノルウェーは裕福な国で、オスロは地域ごとに分断されています。結果、ある緊張感を生み、社会格差を生んでいます」と話す同氏。
30年間、子どもたちと携わってきた経験から、子どもの私服が、周囲からの注目を集め、社会的ステイタスを得るための「シンボル」となっている問題点を指摘します。
また、子ども服というマーケットが、お金稼ぎができる「ビッグ・ビジネス」になっており、このような市場が子ども園に存在していることに、「いつまで私たちは見てみないふりをするのか?」と疑問を投げかけました。
ノルウェーでは登山などの自然アクティビティで着るアウトドアウェアが、同じように社会的ステイタスを意味するものになっているとして、メディアで議論されています。
子ども園や小学校レベルでは、おもちゃによるジェンダーの役割、誕生日会に招待されるかどうかで発生するいじめ問題は、世間で話題となったことがあります。
しかし、子ども園の私服に関しては、私もニュースとしては聞いたことがありません。
この声に、参加者たちはうなずき、「そもそも、子どもに服を買って着せているのは保護者であり、大人の責任は?」、「服には子どもたちをその場になじませる効果もあれば、除外する効果もある」という声もあがりました。
会場にはオスロ市議会の責任者も訪れ、「子ども園という場所は、子どもが社会の共同体として、社会になじむための場所」であることを強調。
気を付けなければ、「私たちの子ども」、「あの人たちの子ども」と、簡単に無意識での分断化が起きること。マイノリティの保護者は学校での面談を欠席しがちであること。このような様々な側面を改善していくことで、特定の人が社会の網から外れることを防いでいきたいということが話されました。
課題解決の第一歩は、まずはその課題が存在することを認識することから始まります。現場には大学関係の研究者が多いため、議論をメディアなどにもっていく必要性も取り上げられました。
Photo&Text: Asaki Abumi