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生活保護をためらわないで、失業疾患は社会の被災者、#生活保護はみんなの権利 #DaiGoさん差別発言

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
厚生労働省「生活保護は国民の権利」メッセ―ジ

 「メンタリスト」を名乗るDaigoさんが、Youtubeでホームレスの人や生活保護受給者を差別する主張をする動画を配信し、批判を集めています(毎日新聞8月13日報道)。

この事件で私が恐れるのは、若い世代で失業・減収、あるいは心身の疾患になっている人を中心に生活保護をためらってしまう人が出てくることです。

生活保護への差別発言が罪深いのは、本来であれば生活保護を利用できていた人たちが差別をおそれ、利用せず、より深刻な状況になってしまいかねないためです。

1.生活保護はみんなの権利で国の責務

厚生労働省もTwitterとHPで「ためらわず相談」を推奨

 生活保護の利用は、いわれなき差別の対象になるようなことではなく、日本に住む人々のあたりまえの権利であり、みんなの権利です。

 日本の義務教育を受けた人は、憲法25条に「生存権」が定められていることが記憶にある人も多いでしょう。

生活保護制度は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現するための手段だと学校で教わるはずです。

 しかし憲法第25条のポイントは、国が生活保護を含む社会福祉、社会保障等の向上に責務を負うことでもあるのです。

日本国憲法第25条

第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上

及び増進に努めなければならない。

 すなわち、生活保護は、国の責務でもあります。

 国が税を徴収し生活保護制度を運用するからこそ、困った人のために助け合う仕組みが持続可能なものになっているのです。

 厚生労働省も、国民の生存権に対し責務を負っているからこそ、「生活保護の申請は国民の権利です」「ためらわずにご相談ください」という積極的なメッセージをホームページに示しています。

 また本日8月13日に厚生労働省Twitterでも、以下のメッセージが発出されました。

【生活保護を申請したい方へ】

「生活保護の申請は国民の権利です。」

生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください。相談先は、お住まいの自治体の福祉事務所までご連絡をお願いします。

2. 失業・減収や心身の疾患は自己責任ではなく「社会の被災者」

 生活保護をためらうみなさんの中には、失業や減収、あるいは心身の疾患・不調は自分が悪いのだと思っている人がいると思います。

 それは「自己責任論の呪い」にとらわれている状況かもしれません。

 本当にあなただけが悪いのでしょうか?

 コロナ禍による失業・減収だけでなく、生活が苦しくなるのはあなたの責任ではなく、コロナ前から弱い立場の人々に冷たく厳しい日本という国が、日本に住む人を苦しい状況に追い込む構造を作ってきたからです。

障害や病気があったり、心身の不調で働くことができなくなった状態は、自己責任ではなく「社会の被災者」になっていると考えてください。

 若い世代は、職場や上司の暴言・暴力等のパワハラや長時間労働などによって、心身の疾患を持ってしまった方が生活保護受給につながるケースがあります。

 あまりにひどい職場なのに、仕事ができない自分が悪いと自分を責めてしまう方もいることに心が痛むケースもあります。

 これこそが「自己責任論の呪い」です。

 働く人(雇用者)を使いつぶす長時間労働をせざるをえない状況に追い込んだり、パワハラ上司を放置する企業・事業所の責任である問題を、働く人の自己責任として責任転嫁する発想が「自己責任論」です。

 家族の暴言や暴力でも同様の状況に追い込まれる場合も少なくありません。

 そうではなく、失業や減収、職場や家族によって心身の疾患に追い込まれている状態は「社会の被災者」になっている状態です。

 誰も好き好んで雇用者を使いつぶす人権侵害する企業で働いたり、虐待を続ける家族に生まれるわけではありません。

 地震や台風(自然災害)に遭うのと同じように、それは社会を生きていくうえで予測できない災害(社会災害)だととらえることで、被災者が支援につながり、心身の傷や不調を癒したり、療養を続けたり、可能であれば生活を再建していくということが可能になるのです。

3.いまいる市区町村にまずは相談を

自治体が生活保護を受けさせない水際作戦は減少しているが、心配なら弁護士会や支援団体に相談を

 生活に困っている、不安だ、生活保護を受けてみようかと思われる場合には、住民票とは違うところにいたとしても、いまいる市区町村の福祉事務所にまずは相談をしてください。

 東京都の生活保護相談窓口リストはこちらになります。

 東京都以外でも「横浜市 生活保護」等で検索をかけると、福祉事務所の連絡先が出てきます。

 また自治体が生活保護を受けさせない水際作戦は減少していますが、それで心が折れる方もいます。

 自治体の申請担当者のみなさまも、お忙しくおつかれだと思いますが。困って相談にあらわれた人たちに対し、生活保護から排除するような冷たい言動を絶対にしないでください。

同じ社会を生きる人の命がかかっています、どうぞお願い申し上げます。

 相談窓口で申請書は渡せないと言われることがありますが、日本弁護士会のアドバイスどおり「保護を申請しますので申請書をください」と言ってください。申請自体を拒否する権限は福祉事務所にはありません。

日本弁護士会「知っていますか生活保護のこと」p.7
日本弁護士会「知っていますか生活保護のこと」p.7

 ひとりで心配だという場合には、いまいる近くの弁護士会支援団体に相談をしてください。

 弁護士への相談や生活保護の同行支援をしてくれる団体もあります。

 最後にもういちど伝えます。

 生活保護は、誰もが「社会の被災者」になりうる日本で、国の責務であり、みんなの権利なのです。

 生活保護をためらわないでください。

 あなたが生活保護を利用し生きることが、同じ社会を生きる私にとってとても大切なことなのです。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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