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皮膚に突然現れる痛みを伴う発疹 - スイート症候群の原因と対処法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【スイート症候群って何?特徴的な症状と診断基準】

スイート症候群は、1964年にイギリスの医師ロバート・スイート博士によって初めて報告された比較的稀な皮膚疾患です。主な症状は、体の一部、特に上肢や顔、首などに突然現れる発赤した痛みを伴う発疹や結節です。発熱やだるさといった全身症状を伴うこともあります。

診断基準としては、典型的な皮膚症状に加え、発熱が38度以上あること、血液検査で好中球増多や炎症反応の上昇がみられることなどがあげられます。皮膚生検で真皮に好中球の浸潤が確認されれば、スイート症候群の可能性がさらに高まります。

ただし、症状は人によって様々で、大小の水疱ができる「水疱型」や蜂窩織炎に似た「蜂窩織炎型」など、典型例とは異なるタイプも報告されています。皮膚症状に加え、まれに眼や肺など他の臓器が侵されることもあり、注意が必要です。

【スイート症候群の原因と関連疾患】

スイート症候群の正確な原因はまだ解明されていませんが、免疫システムの異常が関与していると考えられています。がんや感染症、自己免疫疾患など、なんらかの基礎疾患がきっかけとなって過剰な炎症反応が起こり、皮膚症状が引き起こされるのではないかと推測されています。

実際、スイート症候群の患者さんの20~40%に血液がんが見つかっており、固形がんとの関連も指摘されています。また、溶連菌などの細菌感染症や、関節リウマチ、ベーチェット病といった自己免疫疾患に合併することもあります。妊娠を機にスイート症候群を発症した例も報告されています。

スイート症候群の発症には薬剤の関与も示唆されています。G-CSFという白血球を増やす薬や抗がん剤の一部が原因となる可能性があり、これらの薬を使用中の患者さんは注意が必要です。

【スイート症候群の治療法と予後】

スイート症候群の第一選択薬はステロイド薬です。多くの場合、内服ステロイドを使用することで皮疹は速やかに改善します。しかし、ステロイドが効きにくい患者さんや、長期使用による副作用が問題となる場合もあります。

最近の研究では、非ステロイド系の治療薬の有効性も報告されています。関節炎の治療に用いられるコルヒチンや、ヨウ化カリウムの内服が選択肢となる可能性があります。重症の難治例に対しては、免疫抑制剤や生物学的製剤の使用も検討されます。

スイート症候群自体は生命を脅かす病気ではありませんが、背景にあるがんなどの基礎疾患の予後に左右されます。また、まれに再発を繰り返したり、治療抵抗性で難治化する例もあるため、慎重なフォローアップが必要です。皮膚症状だけでなく全身状態にも気を配り、専門医と連携しながら適切な治療を継続していくことが肝要です。

参考文献:

1. Cohen, P. R. (2007). Sweet's syndrome--a comprehensive review of an acute febrile neutrophilic dermatosis. Orphanet journal of rare diseases, 2, 34.

2. Rochet, N. M., Chavan, R. N., Cappel, M. A., Wada, D. A., & Gibson, L. E. (2013). Sweet syndrome: clinical presentation, associations, and response to treatment in 77 patients. Journal of the American Academy of Dermatology, 69(4), 557–564.

3. Am J Clin Dermatol. 2022 May;23(3):301-318. doi: 10.1007/s40257-022-00673-4.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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