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日本式「子供たちによる学校掃除」海外の小学校に広がる「環境教育に」と英国でも評判に

木村正人在英国際ジャーナリスト
日本の「小学校のお掃除」文化は世界に広がるか(ペイレスイメージズ/アフロ)

英小学校長、テレビで日本の習慣知る

[ロンドン発]英イングランド南西部デボンにあるグローブ小学校(4~11歳、211人)で、教室への感謝の気持ちや環境保護の大切さを学ぶとともに学校予算を少しでも節約するため、5~11歳の子供たちが放課後に教室のお掃除を始めたそうです。

BBC放送をはじめ英メディアが一斉に報じました。

サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で試合終了後、日本のサポーターが自発的に観客席を掃除する様子が世界中にテレビ中継され、称賛を浴びました。しかし、小学校で子供たちに「お掃除」をさせる国は先進国ではほとんどありません。

グローブ小学校では3カ月前から毎日、放課後になると、志願した10人の子供たちが教室の掃除を始めます。ヒラリー・プリースト校長がテレビで日本の小学校では子供たちが自分たちで掃除をしていることを知ったのがきっかけでした。早速、コードレスの掃除機10台を購入しました。

教室を自分たちで掃除することを通じて子供たちにあまり散らかさない習慣を身に着けさせ、教室で学ぶことへの感謝の気持ちを学んでほしいという願いがプリースト校長にはあります。身近な習慣を通じて環境保護の大切さを学ぶ教育効果も期待しています。

グローブ小学校では管理人1人を雇っていますが、子供たちが教室の掃除をするようになったため、追加の管理人を雇ったり、作業時間を延長したりする必要がなくなりました。学校予算を節約できるようになったそうです。

「家庭で子供たちが掃除機をかけたいと言い出すかも」

プリースト校長は保護者にあてた9月5日付のニュースレターでこう記しています。

「子供たちが教室の掃除機について話すかもしれません。日本式に毎日、授業が終わったあと順番に掃除機を使って教室をきれいにすることにしました。子供たちが教室に感謝する気持ちや自分たちの身の回りは自分たちで片付ける習慣を養っていこうと思います」

「校舎全体を掃除する管理人のピーターを助けることにもなります。家庭でも子供たちが掃除機をかけたいと言い出すかもしれません。子供たちはやる気満々に見えます」

プリースト校長は英大衆紙デーリー・メールに「子供たちは新しい取り組みにとても積極的に取り組んでいます。お掃除の習慣を身につけることは家庭でも同じようにプラスに働くことを願っています」と話しています。4歳児は幼すぎるので掃除は免除されているそうです。

教育水準を査察する独立機関(オフステッド、教育基準局)によると、グローブ小学校の評価は2010年7月に、上から2番目の「グッド」から最上級の「アウトスタンディング」にランクアップされています。

シンガポールの小学校では2017年からトイレを除いて教室や廊下、食堂の清掃は子供たちが行うようになりました。

エジプトでは今年9月下旬に、教室の掃除や日直などの学科以外の日本式の教育を取り入れた「エジプト・日本学校」35校(小学校)が国際協力機構(JICA)の支援を受けて開校。JICAで研修を受けた先生たちが子供たちに掃除用具の使い方や手洗いを教えています。

W杯ではセネガル・サポーターもお掃除

サッカーのW杯ロシア大会で試合後、日本のサポーターはスタジアムに残された飲み物の空きコップや食べ物の容器をゴミ袋に回収し、清掃する姿が世界中に放送されました。日本のことわざにある「飛ぶ鳥跡を濁さず」を実践してみせました。

W杯ロシア大会で世界中から称賛された日本サポーターの後片付け(筆者撮影)
W杯ロシア大会で世界中から称賛された日本サポーターの後片付け(筆者撮影)

日本代表が1次リーグで対戦したセネガルのサポーターも観客席の掃除をして帰りましたが、海外では空きコップや食べ物の容器をちらかしていくのが普通なので、美談として大々的に取り上げられました。

近藤麻理恵さんの片付け本『人生がときめく片づけの魔法』が世界的に大ヒットしたことからも分かるように、日本人の「きれい好き」「清潔好き」は世界中の注目を集めています。

代表チームの長谷部誠主将(当時)は帰国後、報道陣にこう語っています。

「日本代表チームのスタッフは毎試合、ロッカールームをすべてきれいに片付けて帰る。日本代表スタッフを選手として誇りに思う。日本代表サポーターがスタジアムで試合後にごみ拾いをしてくれる」

「僕は普段海外に住んでいるので、日本代表でもいろんな国に行く機会があるが、日本ほど街がきれいな国はないのではと思っている。日本という場所、人は、素晴らしい精神を持っていると思う。1人の選手としてだけでなく、1人の日本人として誇りに思っている」

日本サポーターによる後片付けの起源について、プロサポーターの村上アシシ氏は筆者にこう解説してくれました。

「Jリーグのサポーターがクラブを支援するため、試合後の後片付けをしたのが始まりです。Jリーグのサポーターは国際試合でも同じように後片付けをするようになり、W杯で世界的に有名になりました」

子供に掃除させるのは「児童虐待」

「教師のノーベル賞」と呼ばれるグローバル・ティーチャー賞2018のトップ50に選ばれた滋賀県立米原高校の堀尾美央先生はSkypeを活用し、海外の学校との交流を実践しています。

レバノンの子供たちと交流した時「放課後に掃除をするのは本当か」と聞かれて、掃除風景をSkypeで生中継すると、次の日、レバノンでも生徒たちが教室を掃除したそうです。

子供たちの自主性を重んじる欧米諸国では、小学校で子供たちに掃除を強制するのは「児童虐待」と受け止められる恐れがあります。その一方で、日本のお掃除文化は、煩悩や雑念を消し去るため、自分の身の回りをきれいにする仏教の教えに由来するとも言われています。

小学校でのお掃除文化をめぐっては、何の疑問も持たずに先生の教えに従う子供たちを大量生産する教育システムに過ぎないのか、それとも環境を大切にする未来の世代を育てていく効果的な方法なのかは、さまざまな意見があると思います。

小学校での学習到達度を上げるためには、子供たちに規律を守らせる必要があります。「お掃除」は協調性を育み、公共マナーを身につける効果もあります。学級が崩壊した状態では、まともな教育を期待することはできません。

しかし、その一方で欧米の教育で重視される、権威や権力に対してもはっきりと「ノー」と言える態度や、教科書や先生の教えに疑問を持つ建設的な批判精神を幼い頃から身につけることも大切なのは言うまでもありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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