「将来は廃墟に」タワマン・クライシスは本当か。修繕費が足りない報道の内実
大規模修繕で積立金が不足し、膨大な追加費用が集められて大変、将来は廃墟になる……タワマンという呼び名が定着しつつある超高層マンションに、ネガティブな報道が頻発している。「タワマン・クライシス(タワーマンションの危機)」とでもいうべき報道が増えたのは、昨年から。それまでの3年ほど頻発していた「マンション大暴落」の予測報道に代わって、最新の“流行語”になっている印象だ。
「マンション大暴落」と同様、一部マスコミが騒いでいるだけともいえるのだが、「大暴落」のときのように、信じ込んでしまう人がいないとは限らない。
タワマンに将来はない、と金持ちはサッサと逃げ出し、ババをつかまされるのはがんばってタワマンを購入して住み続けている普通の人たち、とまで言われると、タワマンに住んでいる人たちは心中穏やかではいられない。いつかはタワマンを買いたい、と夢見ている人たちも気になるところだ。
果たして、本当に「タワマン・クライシス」は起きるのか。冷静に考察したい。
大規模修繕の積立金が足りないのは、昭和時代から多くのマンションに起きていた
今、騒がれている「タワマン・クライシス」のうち、大きいのが大規模修繕の費用が足りないというもの。タワマンに住むと、10数年ごとに行う大規模修繕の費用が不足し、追加金を徴収されることになる。その金額が莫大だ、とされる問題である。
じつは、この修繕積立金不足は昭和の時代から多くのマンションで起きていた。当時、マンションを売りやすくする目的で修繕積立金を低く設定するケースがあり、結局、それでは足りないという問題が生じたのである。
これを避けるため、現在は購入時にまとまった額の修繕積積立基金を預け、毎月の修繕積立金とともに大規模修繕に備える。そして、5年ごととか10年ごとに毎月の修繕積立金の金額を上げたり、定期的に一時金を集める方式がタワマンを含めすべてのマンションで多くなっている。
段階的に修繕積立金を上げるのは、建物が古くなるに従い、修繕費用が高くなるからだ。それは、木造や軽量鉄骨造の一戸建てでも同様。古くなればなるほど、建物を維持していくのにお金がかかる。
それは、当然のことだろう。
タワマンの修繕費用は、高額だが……
もちろん、タワマンは巨大な建物であるため、大規模修繕の費用は高額で、億単位の金額となる。それだけに、不足が生じると、問題は深刻とされる。が、費用が高くなる一方でタワマンは住戸数が多く、大規模修繕費用を分担する人数も多い。一般に、マンションは総戸数200戸以上で「大規模」と呼ばれるが、タワマンは総戸数500戸以上がざらで、1000戸を超えるケースもある。億単位の費用といっても、各住戸の負担は一般のマンションと大差がない。
タワマンだからといって、修繕積立金が高額になり、高額でも不足が生じやすいわけではないのだ。
次に疑問として浮かぶのは、タワマンの大規模修繕は一般のマンションと比べて費用が割高になるのだろうか、ということ。割高であれば、マンションの中でもタワマンにだけ危機が生じることに得心がゆく。が、ここでも「そうとはいえないのでは」と思える事実がある。
一般のマンションの場合、大規模修繕は建物周囲に足場を組む。これに対し、タワマンは背が高いので、足場を組むことができず、ゴンドラを屋上から下ろして作業を行う。このゴンドラ設置費用が高い、と説明されることがある。
しかし、実際には、一般のマンション大規模修繕において足場を組む費用の高さが問題になり、屋上からゴンドラを下ろすほうが安いのでそちらのほうがよいのではないか、と検討されることが多い。ゴンドラは足場を組むよりコストがかかるとはいえないのだ。
ただし、タワマンの形状が複雑だと、ゴンドラに特殊な加工が必要になり、費用が高くなることもある。確かにそのようなケースもあるが、大部分のタワマンは、上から下までシンプルな形状になっており、加工なしでゴンドラを下ろしやすい。大規模修繕のことを考えた建物形状になっているわけだ。
日本一複雑な形のタワマンで、「大規模修繕費用の追加金なし」
例外的に複雑な形をしているタワマンの例として、埼玉県川口市で大京が分譲した「エルザタワー55」がある。55階建てで、上部と中間部、下部で形状が異なり、これ以上複雑な形のタワマンは他にないだろう、と思われる個性的形状だ。
その「エルザタワー55」では、2015年から2年がかりでゴンドラを利用した大規模修繕が行われた。ゴンドラ作業の場合、天候によって作業ができないことなどがあり、修繕の期間が長引いた。が、費用は修繕積立金だけでまかなわれ、追加金は発生しなかった。
同マンションの場合、コンサルタント会社の助けを借りて建物診断を受けた上で、修繕工事を請け負う施工業者の選定、効率のよい施工方法を定めた。
タワマンの大規模修繕では、必ず追加金が発生する、というわけではないのだ。
エルザタワー55を分譲した大京系列の管理会社・大京アステージでは、これまでタワマンの大規模修繕を20件近く手助けした実績があるのだが、追加金が発生したケースは1件もない。ただし、3割ほどのケースで費用の借り入れが行われている。「やっぱり、足りなかったのか」といわれそうだが、そうではない。
修繕に必要な費用は積み立てられていた。が、すべて使い切ってしまうと、修繕後に建物に支障が起きたときに対応できなくなる。だから、備えを残して、その分を借り入れたわけだ。
追加金の徴収なし、は、これまで22棟のタワマン(正確にいうと、タワー形状ではない超高層マンションも含む)の大規模修繕を助けた住友不動産建物サービスでも同様。今回の私の取材で、「タワマンで大規模修繕の費用が足りず、追加金が集められた」という事実をつかむことはできなかった。
ただし、工事費用の見積もりをとったら、あまりの高さに驚いた、というケースは多かった。高い見積もりが出たのは、まずはタワマンを施工した建設会社に見積もりを依頼するケースが多いためと推測された。
タワマンは、高度の建設技術が求められるため、スーパーゼネコンを中心にする大手建設会社によって建設される。その大手建設会社に、修繕工事の見積もりをとれば、どうしても金額は高くなる。
大手建設会社が修繕工事を直接行うとは考えにくく、下請けに出すのが一般的。すると、大手建設会社のマージンが発生して大規模修繕費用の見積もりが高くなる、ということなのだろう。
そこで、マンション管理組合は大手建設会社への依頼をあきらめ、修繕の専門会社に工事を依頼。その際、しっかりした管理会社やコンサルタント会社の助けを借りる。「しっかりした管理会社やコンサルタント会社」とは、建築と設計のプロがいて、建物診断や修繕工事の監理ができるところを指す。
そのようなやり方で、タワマンの大規模修繕は予算内で実行できている。それが、タワマンにおける大規模修繕の内実なのである。