「活弁付き新作無声映画」を全国へ届けたい!目指すは令和の喜劇女優、辻凪子が新たな挑戦へ
これまで数々の映画やテレビドラマなどに出演し、役者として確実に着実に存在感を増している辻凪子。
目指すは「令和の喜劇女優」「世界一のコメディエンヌ」と公言し、学生時代から映画監督としても活動する彼女が、いま大いなるチャレンジに踏み出している。
それは2年越しで完成させた、辻凪子監督・主演、大森くみこ弁士による活弁付きの新作無声映画「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」の全国巡業公演。
なぜ、いま無声映画なのか?あまりなじみのない活弁なのか?
この映画を自ら各地を訪れ、「全国津々浦々まで届けたい」という願いを叶えるべく、クラウドファンディングを現在絶賛実施中の彼女に訊く。(全三回)
活弁を「もっと知ってほしい!」と活弁公演を実施。ほぼ大入りに!
連載第一回(第一回はこちら)は、今回のクラウドファンディングの経緯についてが主になったが、ここからは少しさかのぼっての話を。
前回も触れたが、この度、2年越しに完成させ、全国巡業公開を目指す辻凪子監督・主演、大森くみこ弁士による活弁付きの新作無声映画「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」は映画を作るにあたりクラウドファンディングを実施。最終的に2,693,707円の支援を受け、制作が始動し、映画は完成に至った。
その間に、辻と大森は活弁を「もっと知ってほしい!」ということで、活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」を実施。
2020年10月3日に京都みなみ会館を皮切りに、おもちゃ映画ミュージアム(京都)、元町映画館(兵庫)、シネ・ヌーヴォ(大阪)、ユーロライブ(東京)、シネマスコーレ(愛知)、クロスパルにいがた(新潟)という7カ所の劇場で行い、ほぼ大入りという反響を得た。
この公演は今回の活弁付きの新作無声映画「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」の全国巡業公演へつながるものになった。
この公演をやろうと考えたきっかけをこう明かす。
「前回お話しした通りに、活弁付きの新作無声映画を作ろうとなったわけですけど、にしても、まず活弁を見たことがない人がいるということで。
わたしと大森さんとプロデューサーの岡本さんと打ち合わせしたときに『活弁という形で昔は映画が上映されていたことは多くの人が知っているかもしれない。でも、実際に生で見たことがある人は限られているよね』という話になったんです。
ならば、映画を作る前にプロモーションも兼ねて『活弁』を知ってもらう機会をもったほうがいいのではないかということになりました。
そうして実現したのが活弁公演『ジャムの月世界活弁旅行』でした」
とにかくみなさんに活弁を知ってもらって、楽しんでもらえたらとの一心で
公演ではこういう目標を立てたという。
「活弁を初めて観る人にとってもっと馴染みやすいものにしたくて、昔から続く活弁というスタイルを踏襲しながらも、プログラムは工夫を凝らし、よりポップに、よりエンターテインメント感を増すようにして、楽しんでいただけるものを目指しました。
活弁と活弁の合間に『お客様と一緒に月世界旅行に行こう』というジョルジュ・メリエスをオマージュしたストーリー仕立ての小芝居を入れたり、公演を行ったその土地ならではのご当地ネタを仕込んだりと、とにかくみなさんに活弁を知ってもらって、楽しんでもらえたらとの一心で公演には臨みました」
この公演では、大森はもとより辻自身も弁士となって活弁にチャレンジした。
「大森さんはバスター・キートンの『キートンの探偵学入門』という作品の活弁をやって、わたしはジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』という15分くらいの作品の弁士を務めました。
初めてのチャレンジで、はじめはドキドキでしたけど、すごくいい経験になりましたね。
それから、わたしが大学4回生のときに阪元裕吾監督とともに作った『ぱん。』というコメディ映画があるんですけど、この作品をあえて無声映画にして、『活弁をしてみたらどうなるか?』というのをやってみたんです。
わたしと大森さんとのかけあいの活弁でやったんですけど、まったく別の作品に生まれ変わったといいますか。
活弁バージョンにしてみたら新たな違う作品のようになった。
それこそ、活弁には映画に新たな魅力を生み出すような可能性があるんじゃないかなと思って、おもしろかったです」
『活弁』にはまだまだ新たな可能性がある
この公演によってひとつ手ごたえのようなものを得たという。
「おかげさまでほとんどの公演が大入りで、『活弁』にはまだまだ新たな可能性があると思いました。
『活弁』をみてみたいと興味をもってくださる人がいることを実感できたことがうれしかったです。
それからありがたいことに公演のお客さんの反応もすごく良かったんです。
7都道府県で公演したのですが、子どもも会場には多くきてくれました。
それで、子どもたちがもうすっごい爆笑してくれて、それにつられるように大人も笑ってみたいなことになって。
楽しんでいただけている空気をひしひしとじることができて、ほんとうに幸せでした。
あと、うれしかったのは名古屋のシネマスコーレさんに行ったときのこと。
ミニシアターはどこもコロナ禍で苦境にありますけど、劇場の方が『1年ぶりに満席になりました』ととても喜んでくださった。
このことが個人としてすごくうれしかったです。
というのも、ミニシアターには、わたしは学生からお世話になりっぱなしといいますか。
わたしの大学時代の学生映画や自主映画を、ミニシアターさんは上映してくれてきた。
コロナ禍でミニシアターがすごい苦しんでるのを知っていたので、何か力になれないかという思いがずっとあったんです。
ですから、この活弁公演はほとんど満席になってくれたので、各劇場さんにほんの少しだけ恩返しができたかなと思っています。
話を戻しますと、ちょっと盛っているかもしれないのですが(苦笑)、ほんとうにお客さんの反応は良くてすごく盛り上がったんです。
これはわたしの見解になりますけど、ふつうに映画館で映画を見るよりも、活弁がプラスされるとおもしろさが倍増する、単に映画を見るよりも2倍3倍と楽しんだ気分になれる、そういう可能性が活弁にはあるのではないかと体感しました。
活弁には、音楽のライブのような魅力があるとういか。
活弁士の語りに観客のみなさんがダイレクトに反応して、それによって映像の体感温度もグッとアップして、心に直接伝わってくるような感覚がある。
音楽のライブのようにものすごい臨場感が生まれて、ほんとうに会場全体がひとつのなる瞬間がある。
体験型のアトラクションのような感覚になれるところがあるので、観客のみなさんが自分の感情をそのまま出せるというか。
たとえば絶叫系アトラクションにのったら、もう乗った人は自然と叫ぶし声が出る。
活弁はそういう感覚に近いところがある。
日本の観客のみなさんはちょっと控え目で映画館でコメディ映画をみてもそこまで爆笑したりしないじゃないですか。
周囲を気にして思いきり笑いたくても笑い声も抑えめにするところがある。
でも、活弁だとそのリミットが外れる感じで、心から大笑いしたり、喜んだり、自然と拍手がでたりとなっていた。
その光景を目の当たりにして、改めてわたし自身が『活弁っておもしろい』と思ったし、これからやろうとしている活弁付き新作映画にも手ごたえを感じました。
きっといい作品を作れば、確実に見てもらえる確信を持てた公演になりました。
まあ、そのあとに、いざ作ろうとなると、『こりゃえらいもんに挑むことになったぞ』と気づくんですけどね(笑)」
(※第三回に続く)
「I AM JAM ピザの惑星危機一髪!」
監督・脚本・主演:辻凪子
活動写真弁士:大森くみこ
出演:間寛平、塚地武雅、石田剛太、酒井善史、角田貴志
公式サイト https://www.iamjam-movie.com/
11/25(金)より京都みなみ会館先行上映、12/3(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
写真はすべて(C)2020 活弁映画『I AM JAM』製作プロジェクト