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ジョンソン首相の瀬戸際作戦「首相官邸に籠城してエリザベス女王に解雇させる」:イギリス・ブレグジットで

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
休暇のためスコットランドのバルモラル城に滞在するエリザベス女王。今年の夏。(写真:REX/アフロ)

イギリスでは、「合意なきEU離脱」への危機感が高まっている。

ジョンソン首相は、EUからの離脱延期に決して合意せず、いざとなったら首相官邸に籠城して、エリザベス女王に自らをあえて解任させるつもりだという。英『サンデー・タイムズ』が報じた。

先月英下院では、「EU離脱延期法」が成立した。ジョンソン首相が「絶対にどんなことがあっても10月31日に離脱する」というので、くいとめるために議会で法律をつくったのだ。

内容は、EUとの離脱合意案が10月19日までに議会で承認されず、合意なき離脱も認められなかった場合、ジョンソン首相は3カ月の離脱延期をEUに求めなければならないーーというものである。

目下英下院では、野党が、このような事態になった場合に内閣不信任案を提出する予定で動いている。可決されたら、いわゆる「国民統一政府」(a government of national unity)と呼ぶべきものをつくり、EUに対して延長申請をするつもりである。

誰をジョンソン首相の代わりにするかで、既にもめ始めている。一番の候補は、あの「せいしゅくに〜、静粛にぃ!」で有名になったベーコウ下院議長であるが、労働党のコービン党首にするべきという意見があり、野党はまとまらない。

そんな中、「警察が首相の逮捕状をもってダウニング街10番地(首相官邸)のドアにやってこない限り、ジョンソン首相は去ることはないだろう」と、上級筋が「サンデー・タイムズ」に語ったというのだ。

絶対にジョンソン首相は首相官邸を出ていかない。何がなんでも10月31日のハローウィンの日にEUを離脱する。出て行かせるには、エリザベス女王が首相をあえて解任する必要がある。そして逮捕状が出されて警察が来ない限り、立ち去らないーーということのようだ。

93歳の女王は、政治の最前線に関わらないよう距離をおくようにつとめてきたのに、渦中に引き込まれるかもしれない。

ジョンソン首相は「国民投票の結果を実現するためだ」と主張するだろうし、議会は「国民が選んだ議員が決めたことだ」と主張するだろう。板挟みになったエリザベス女王が決断しなくてはならなくなるのだろうか。

首相を守れば、議会に背き、「合意なき離脱」にGOサインを与えたのと実質上同じになる。議会に従えば、国民投票の結果に背いたかのようになり、EU残留を選んだようになりかねない。

英メディアの報道によると、6日日曜日スコットランドのクラーク・カーク教会を訪れた女王は、不機嫌そうに見えたという。

その他、EUとの合意を引き出す「瀬戸際外交」として、ジョンソン首相は、「EU批判の急先鋒」と言われるハンガリーのオルバン首相に期待しているという。英『テレグラフ』が報じた。

離脱延期は、EUの欧州理事会(首脳会議)で満場一致で可決されなくてはならない。27加盟国のうち、1カ国1首脳でも了承しなければ、拒否権と同じになって成立しないのだ。これだと「EUがイギリスを離脱させた」ということになってしまう。これはEU側としては避けたいのだ。

また他にも、EUのプロジェクトを妨害する、例えばEUでは向こう7年の予算案の成立が控えているが、これをジョンソン首相が拒否する姿勢を見せることでEUに巨大な頭痛を引き起こし、EUに合意を迫る可能性はあるという。

ボリスの活躍(?)から目が離せない。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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