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「ワイスピ」最新作、「フォースの覚醒」を抜いて史上最高の世界オープニング記録を達成

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ワイルド・スピード ICE BREAK」のNYプレミア(写真:Shutterstock/アフロ)

8作目を迎えても、「ワイルド・スピード」にガス欠の気配はなし。それどころか、これまで以上のスピードで、爆走を続けている。

先週末 公開された「ワイルド・スピード ICE BREAK」のオープニング世界興収は、史上最高記録の5億3,200万ドル 。これまで 記録を保持していた「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の 5億2,900万ドルを上回った。

シリーズ最高 だった7作目「ワイルド・スピード SKY MISSION」の3億9,200万ドルも大きく上回るが、その背景には中国がある。「ワイスピ」は中国でも大人気で、7作目は北米の3億5,300万ドルを抜く3億9,000万ドルを売り上げた。しかし、中国では遅れて公開されたため、世界公開初週末の数字には、入らなかったのだ。ユニバーサルが中国でなんとか8作目を同時公開にもっていこうとしたのは、このことも意識してのことだったと思われる。「フォースの覚醒」も中国では数週間後に公開されているので状況は同じだが、「スター・ウォーズ」は中国でぱっとしないので、いずれにしても、それほどは変わらない。

8作目の中国初公開週末興収は1億9,000万ドルで、外国映画としては史上最高記録。木曜深夜の先行上映売り上げも、金曜日の初日興収も、史上最高だった。映画はまた、インド、ポルトガル、南アフリカ、パキスタン、インドネシアなど19カ国でも史上最高オープニング記録を達成している。それ以外のすべての国でも、1位を獲得した。

一方、お膝元の北米では、7作目の1億4,700万ドルを下回る1億ドルに終わっている。しかし、これは予想されていたこと。7作目は、撮影中にポール・ウォーカーが亡くなったことで、追悼を送りたい人たち、あるいは単にどんなふうに映画が仕上がったのかという好奇心をもった人たちが押し寄せている。それに、前回より下とはいえ、シリーズ2番目であり、今年公開された作品においても、「美女と野獣」に次ぐ2番目のオープニング成績だ。シネマスコア社によると、観客はA評価をしており、満足度も高い。だが、「ワイスピ」シリーズが本国に増して海外で人気を高めていっているのは、疑いのない事実である。

予算4,000万ドルの国内向け映画から2億5,000万ドルの世界規模超大作へ

2001年に1作目が公開された時、16年後にこんなことになっていると予測していた人は、誰もいないだろう。1作目の予算は、ハリウッドにおいては中規模の4,000万ドル。L.A.で違法のストリート・カーレースに参加する若者たちを描く「ワイルド・スピード」は、ある種の層に受けるだろう、くらいの感じで作られたのだが、結果的に北米で1億4,400万ドルを売り上げ、スタジオを喜ばせた。北米外の興収は6,200万ドル。当時は圧倒的にアメリカ受けした作品だったのである。

ヒットを受けて2作目の製作が決まるが、ヴィン・ディーゼルが降板を表明。ディーゼルのドムとウォーカーのブライアンの人間関係が1作目の魅力だっただけに、2作目は評価も興行成績も落ちた。3作目では若返りを狙い、本人の意思に反してウォーカーが追い出される。結果は、シリーズ最悪の興行成績だった。

しかし、最後のディーゼルのカメオ出演に観客が反応したことが、まだ可能性はあることを示唆。4作目は、ディーゼルがプロデューサーの肩書きももらう条件で復帰し、ほかの3人のオリジナルキャストも呼び戻す。結果は大成功。その段階で次の6までのストーリーを決めていたため、その後は無理やり作られた続編ではなく、話はどんどんおもしろくなり、興行成績も伸びていく。7作目が作られた時にも、10までのストーリーが考えられている。ただ、7作目でウォーカーが亡くなったため、かなりの調整がされているはずだ。その間、制作費も上がり続け、7、8作目の予算は2億5,000万ドルに上っている。それでも十分に利益を得ているのだ。

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ここまでヒットしているなら今さらながら見たいという人へ

8作目の日本公開は、来週28日(金)。今まで1本も見ていないけれども、そんなにヒットしているなら見ておこうかと思う人には、最低でもいくつかは過去作品を見てから行くことをお勧めする。このシリーズは、単にカーアクションを見せるだけではなく、恋愛映画であり、人間関係の映画だからだ。

筆者の周囲でも、7作目の時はとくに、ウォーカーが亡くなった映画とあって過去6作をまったく見ないまま映画館に行き、「最後は泣くべきなわけ?」と、しらっとして言う人を何人か見た。あの最後に感動できないとしたら、あれがシリーズ5から自然に続くものということや(しかもそのラストを、ウォーカーが亡くなるという予測できないことが起こった後に作っているのだ)、シリーズ1に始まり、良い形で変革していったドムとブライアンの関係を知らないからである。ドムとレティ(ミシェル・ロドリゲス)の関係も、6あたりから突然見たら、ばかばかしく見えるかもしれない。もちろん、このシリーズには、車のスタントも含め、ばかばかしさはある。だが、ずっと見ていくと、そこもまたこのシリーズの魅力として、愛を感じていくのである。

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それでも7作も続けて見るのは辛いという人に、筆者は、まず1を 見て、2と3を飛ばし、4、5、6、7を見ることを提案する。2に出てきたキャラクターが5で戻ってきて今も活躍しているので、全部見られれば理想だが、2と3で「なんだ!やっぱりつまらないじゃないか!もうやめる」と言われるよりは、1から4へ移行してもらって、そのまま勢いづいてもらったほうがいいと思うからだ。 5からは、もうやめられなくなるはずである。

「ワイスピ」はカーアクションがすごい映画で知られてきた。だが、すごいカーアクションは、ここまでのレベルではないにしろ、ほかのハリウッド映画もいつだってやっている。

そんな中、このシリーズが16年も愛されてきて、今なおファンを増やしているのかの理由は、ほかにもたくさんあるのだ。それを知りたいのであれば、ぜひ、多少の予習をしていってほしい。こんな勉強ならいつだってやると思わせる、楽しすぎる学習になるはずだから。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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