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子供の震災関連死を止めよう!“幼児返り”する子とストレスを抱える大人たちー熊本大地震から5カ月

河合薫健康社会学者(Ph.D)

熊本大震災から5カ月。報道がめっきり少なくなってしまったけど、現地では依然として困難な状況が続いている、いや、むしろ深刻になった、といってもいいかもしれない。心の復興が、より深刻になっているのだ。

先日、熊本県合志で10歳未満の子供が震災関連死に認定された。熊本地震で直接死を含めて子供の被害者が出たのは初めてである。

「震災ストレスはドミノ倒し」ーー、という記事を震災直後にイベントなどの“自粛狩り”が行われる中、こちらにも寄稿したが、今の時期は「ドミノ倒し真っ只中」といっても過言ではない。

震災前の日常が壊れ、住み慣れた家に「いつ帰れるかわからない」という不安が、日々の暮らしに“ストレスの雨”を降らしているのだ。

「周りの人とはなるべく関わらないようにしています。……いろいろと聞かれるのがしんどくて」

こう語るのは自宅が半壊し、現在、市内で賃貸住まいをしているお子さん2人を持つ女性である(全壊ではなかったので仮設住宅に入居できなかった)。

最低限の家財道具しかないので、必然的に外食をする機会が増えた。洗濯物を干す場所も狭いためコインランドリーを利用。周りの人たちとの交流もない。「家どうなったの? ローンは? 助成金は?」といった質問責めばかりで、答える気力も失せてしまったという。

本当は新しい地域に溶け込んでみたい。本当は子どものために家で料理がしたい。本当は家で洗濯をし、太陽の光で乾かしたい……。

だが、物理的な状況に加え、心理的にも「やりたい。やらなきゃ。でも、できない。また、できなかった」とネガティブスパイラルに入り込む。

震災前の“当たり前”の日常が避難生活とともになくなり、ストレスの雨にびしょ濡れになっていたのである。

それだけではない。

子たちにも変化が起きた。“幼児返り”がひどくなってきたのである。

「震災直後にもあったのですが、あの頃よりひどいです。下の子に授乳していると、4歳のお姉ちゃんもくっついてくるんです。保育園に行っているのですが、友だちの名前も全く覚えない。どんどんと状態が悪くなっていくようで……、心配でなりません」

ストレス症状は、直後より少し時間を置いてから顕在化する。

大人たちの場合は、睡眠障害や抑うつ状態に陥ったりイライラすることが増え、身体に変化が起きる。子どもは夜泣きやおねしょをするなど“幼児返り”するケースが多い。同様の傾向は、阪神淡路大震災のときにも報告されていて、半年〜1年がもっとも顕著になるとされている。

そこでこちらをごらんいただきたい。

これは震災ストレスを3つのフェーズに分けたものだが、心の復興にはそれぞれの時期に適切な対処をする必要がある。

震災ストレス
震災ストレス

今は中間期にあたり、

  • 日常のストレスを溜めない
  • 治癒力を高める

の2点を、日々の暮らしの中で実践することが重要である。

人には「いかなる困難な状況でも対処していこう!」とする、ストレス対処力が宿る。

ストレスは人生の「雨」。ストレス対処力は、“ストレス雨”をしのぐ“傘”を持つことで高めることができる。

雨を吐き出し、傘を見つける作業を繰り返し行っていけば、自ずと治癒力としての「ストレス対処力」が回復し、高まっていく。

そこで役立つのが、「書く」という作業だ。

一日の終わりに、

  • 「今日のモヤモヤ」
  • 「今日のハッピー」
  • 「明日はど~する?」

の3つを書くだけでいい。

「今日のモヤモヤ」は凹んだこと、頭にきたこと、悲しかったこと、つまらなかったこと、イライラしたことなど、なんでもいい。気分がマイナス方向にひっぱられたことを、

「今日のハッピー」は嬉しかったこと、楽しかったこと、ホワッとしたこと、ホッとしたことなど、なんでもいいので一日の「小さな幸せ」探しを、

「明日どーする」は、「これだけはやろう!」と、明日の小さな目標を書く。

この「モヤモヤメモ」を寝る前に書くと……、

  • ネガティブな感情がポジティブに変わる。
  • 自分の周りにある“傘”に気付く
  • 書き続けることで「ストレスの雨」に対処する力が高まる

といった効用が期待できる。

これは「Writing Method」と呼ばれる手法に認知行動療法を交えたもので(著者開発)、1,000人を対象にした調査でその効果が認められている。(Kawai, K., Yamazaki, Y., Nakayama, K.; Development and formative evaluation of a Web-based stress management program to promote Psychological Well-being,Japanese Journal of Health and Human Ecology, 2007.7., 73(4), 137-152.)

東日本大震災のときには、仮設で暮す方々に試していただいたが、大変評判はよかった。

メンタルが向上するだけでなく、次第に人間のもつストレスに対峙するためのポジティブな心理的機能が向上し、個人のストレス対処力が高まるのである。

そもそも書くことは、カタルシス効果をもたらす。カタルシスとは、ギリシャ語で「浄化」や「排泄」を意味する言葉。古代ギリシャの医学では、病的な体液を体外へ排出することをカタルシスと呼び、精神分析の世界では、無意識層に抑圧されている心のしこりを外部に表出させることで病状を消失させる治療法を意味した。

自分の感情を書き出すことで、心の中に閉じ込められていたネガティブな感情(=悲しみ、怒り、憎しみ、恐れ、不安など)が吐き出され、スッキリとした気分を味わうことができる。医学的にも重宝され、危機管理法と呼ばれるトラウマを抜け出す治療法の一つとして使われていた。

愚痴を聞いてもらうだけでスッキリしたという経験は誰もがしたことがあると思うが、日常の「モヤモヤ」の中には、人に言えないことも多い。そこで「書く」ことが効果を発揮するのだ。 

モヤモヤメモを毎日のルーティンとして続けていけば、次第に傘が増え、多少の雨でもしのげる「ストレス対処力」が高まっていく。お子さんがいらっしゃる方はお子さんと一緒にやってみるのもいい。夕飯の団欒の時間などを活用すれば、親子のコミュニケーションツールとしても利用できる。

今回、ひとりでも多くの熊本の被災地の方たちが「ストレス対処力」を取り戻せるよう、「心の防災手帳 河合薫のモヤモヤメモ」というHPを開設した。「モヤモヤメモ」の詳しい使い方、理論的根拠を紹介しているほか、さらには「モヤモヤメモ」の用紙を無償でダウンロードできるようになっている。

モヤモヤメモは一般の方たちにも効果があるので、是非、使って効果を実感して欲しい。

そして、被災地の方たちは「モヤモヤメモ」にアクセスする余裕もないほど疲弊している方も多いので、これを読んだみなさんのお知り合いが熊本にいらしたら、被災地に広めていただきたいと願っています。

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健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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