TSRがオッシャースレーベン8時間で優勝!鈴鹿8耐での逆転タイトルの可能性は?
6月9日(日)にドイツのオッシャースレーベンでオートバイの耐久シリーズFIM世界耐久選手権・第4戦「オッシャースレーベン8時間レース」が開催され、日本国籍のチーム「F.C.C. TSR Honda France」(ジョシュ・フック/フレディ・フォーレイ/マイク・ディメッリオ:ホンダCBR1000RR SP2)がサバイバルレースを制して優勝した。TSRは2018-19シーズンの開幕戦「ボルドール24時間レース」に続く2勝目。ランキング3位で最終戦・鈴鹿8時間レース(7月28日決勝)に挑む。
完璧なレースをしたTSR
2回の24時間レースを含む全5戦で争われるFIM世界耐久選手権(EWC)で、TSRはボルドール24時間、オッシャースレーベン8時間で優勝、さらに第3戦スロバキアリンク8時間でも3位表彰台を獲得するという活躍ぶりだ。
しかしながら、好成績とは裏腹にTSRは第2戦「ル・マン24時間レース」では序盤からマイク・ディメッリオが転倒。修復して追い上げるも、安定したライディングで耐久ライダーとして評価が高いフレディ・フォーレイも転倒し、マシンを大きく破損。その後も修復して完走するが、大量ポイントを獲得できる24時間レースの決勝では、16時間経過した時点での8位を走行していた時に与えられた3点のみの獲得にとどまった。
【TSRの今季の成績】
・Rd1. ボルドール24時間
予選 2位/決勝 優勝
・Rd2. ルマン24時間
予選 7位/決勝 35位
・Rd3 スロバキアリンク8時間
予選 2位/決勝 3位
・Rd4 オッシャースレーベン8時間
予選 6位/決勝 優勝
獲得ポイント:109
ル・マンでのポイント取りこぼしが重くのしかかる形となり、最終戦を前に首位の「SRC KAWASAKI France」とは23点差。最終戦・鈴鹿8耐ではポイントが通常の8時間レースの1.5倍になるが、23点の開きは大きく、ライバルの成績次第という他力本願な状況であることは間違いない。それほどに24時間レースでの取りこぼしが大きなダメージを与えるのがFIM世界耐久選手権の難しさだ。
鈴鹿は大量得点獲得が難しい
逆転の難しさに拍車をかけるのが、鈴鹿8耐の特殊な位置付けだ。オートバイメーカーのお膝元である日本開催の鈴鹿8耐には各メーカーが特別なマシンを用意し、それ相応の実力を持った有名ライダーを起用する「ワークスチーム」(=ファクトリーチーム)がスポット参戦。鈴鹿だけに参戦するワークスチームにもEWCクラスの年間ポイントが与えられるので厄介だ。
一方、ヨーロッパが主戦場のEWC年間参戦チームにとって鈴鹿は完全にアウェー。マシンの性能がケタ違いのワークスマシンに太刀打ちできないどころか、路面のキャラクターが全く異なる鈴鹿サーキットでは事前テストもなくブッツケ本番で挑むチームが多い。そのため、彼らは淡々とレースを走り、サバイバルレースになった局面では10位以内の完走を目指すというのが現実的な戦法となる。
そんな中で、TSRには例年、ホンダから鈴鹿8耐専用のワークス級のマシンが貸与されるため、EWC年間参戦チームの中では優位な立場に居るのは確かだ。
TSRは2017年までは年間参戦するレギュラーライダーに代えてホンダが推薦する有力ライダーを鈴鹿8耐で起用していたが、2017-18シーズンからはレギュラーライダーで戦うようになった。今季は元MotoGPライダーのマイク・ディメッリオの加入でTSRはライダーの実力値が昨年よりも上昇しているが、優勝ありきで戦うワークスチームとは違い、まず完走ありきでチャンピオンを目指すEWC年間参戦チームでは根本的に戦い方が異なる。TSRの戦法は後者になり、5位以内での完走が現実的な目標となるだろう。
TSRのライバルの動向は?
鈴鹿8耐を前にランキング首位は「SRC KAWASAKI France」の132点。2位に「SUZUKI Endurance Racing Team」(通称SERT=サート)の127点。そして3位が「F.C.C. TSR Honda France」の109点だ。
ちなみに「SRC KAWASAKI France」はカワサキのフランス現地法人が運営するチームで、14回というカワサキのル・マン24時間メーカー最多勝記録を支えるトップチーム。しかし、活動予算は少なく、ヨーロッパのマーケットのみが対象の活動であるため、鈴鹿8耐には基本的には参戦しない(最後の参戦は2016年)。テレビ中継のインタビューで「我々は鈴鹿に行く予算は組んでいない。鈴鹿に行くかどうかはカワサキ次第だ」とアピールとも取れるコメントを監督が述べていたが、果たして鈴鹿にやってくるのだろうか。
2位の「SERT」は今季でチームの要であるドミニク・メリアン監督が引退を表明しており、鈴鹿8耐は彼のフェアウェルレースとなる。まさにフランスの耐久レースの顔とも言えるドミニクの引退はシリーズにとって歴史的なトピックスとなり、ポイント差を考えると最も鈴鹿で注目を集めるのは「SERT」になるだろう。
そして、3位のTSRは昨シーズン、日本国籍チーム初のEWCチャンピオンに輝いたことで、ホンダ陣営の中ではこれまで以上に存在感が増している。逆転チャンピオンに向けてはバックアップも昨年以上に大きいと考えられる。8時間レースに関しては鈴鹿8耐を見据えて新型を昨シーズンから導入している。マシンの実力は十分だ。
予選ポイントを得られるかが鍵
チャンピオンを争うと考えられる上記3チームの直近の鈴鹿8耐を見てみよう。
「SRC KAWASAKI」は2016年に予選21位(平均タイム:2分10秒601)、決勝はリタイア。「SERT」は2018年に予選17位(平均タイム:2分10秒203)、決勝12位。それに対して「F.C.C. TSR Honda France」は予選12位(平均タイム:2分9秒092)、決勝5位。やはり地の利を活かしたTSRはライバルに対して優位にレースを進めそうだ。
タラレバの話をしても仕方がないが、仮に今年も上記の順位でゴールしたと仮定するとSRCが132点、SERTが140.5点、TSRが134.5点となり、SERTがチャンピオンという計算になる。つまりはTSRは5位に入ってもSRCとSERTが10位前後でフィニッシュすれば逆転は難しい。
そこで重要になってくるのが今季から導入された予選でのエキストラポイント。ポールポジションに5点、2位に4点、3位に3点、4位に2点、5位に1点が与えられる。鈴鹿8耐では、この大会だけ実施される上位10台が対象の特別予選「トップ10トライアル」が存在し、エキストラポイントを得るには3人または2人のライダーの平均タイムで争う公式予選で上位10位に入る実力を有する必要がある。現実的にはトップ5に食い込む力を持つのはTSRだけで、ここで1点でも取ることができれば、選手権ポイントの結果に大きな影響を与えることができる。
TSRにはスプリントレースの経験が豊富なマイク・ディメッリオがいるので、彼の速さと今季の全日本ロードレースでも見られるホンダCBR1000RR SP2の圧倒的なポテンシャルが予選エキストラポイント獲得に向けて、大きな武器になるかもしれない。彼が常々、「鈴鹿8耐が楽しみだ。僕はこのレースで勝つのが夢」と語っている背景にはホンダがもたらすワークス級マシンへの期待が込められているのだろう。
果たして、タイトルを獲るのは鈴鹿参戦を目指して調整中の「SRC」か、ドミニク監督の引退レースとなる「SERT」か、連覇を目指す「TSR」か? 総合優勝と共にFIM世界耐久選手権のチャンピオン争いにも注目したい。