Yahoo!ニュース

CL4強ほぼ確実のレアル、バルサ。 大勝の陰に「落とし穴」はないか

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第1戦。4試合のうち一番の接戦は、サンチェスピスファンで行なわれたセビージャ対バイエルンだった。

 セビージャが善戦した一戦となるが、予算規模で大きく上回る相手に対し、いいサッカーで対抗する好チームを、近年、CLで見かける機会は減っている。番狂わせも減っている。ビッグクラブのサッカーに穴がなくなり、つまり強者がそのまま好チーム化したことで、ダークホースにつけ入る余地が減ったことがその理由だ。

 それだけにセビージャは貴重な存在に見えた。1-2。第1戦に敗れはしたが、健闘したと言っていい。バイエルンにとっては苦戦だ。泡を食った理由は、決勝トーナメント1回戦でパリ・サンジェルマンがレアル・マドリードに敗れた理由と似ている。

 ブンデスリーガもフランスリーグ同様、永らく1強状態が続く。彼らは、普段の国内リーグで緩い環境に身を置いている。フランスリーグにレアル・マドリード級がいないのと似た理屈で、ブンデスリーガにもセビージャ的な好チームが存在しない。普段、簡単に力でねじ伏せられる相手とばかり戦っているハンディを、サンチェスピスファンの試合に見た気がした。

 2014~15シーズンのCL準決勝でバルセロナと対戦したバイエルンは、その第1戦を0-3で落とし、通算スコア3-5で敗れている。敗因はその1戦目の戦いにあった。強豪との対戦に慣れていない。久々の対戦に面食らったという感じだった。

 今回の印象もそれに近い。巧い選手は、巧い選手に弱い。巧い選手に技巧を発揮されると平常心を失うと言われるが、実際、セビージャのテクニカルなプレーに、バイエルンの選手はしばしば慌てていた。

 アウェーで何とか勝利をモノにしたので、そのベスト4入りは見えている。となれば、次はいよいよ真の強豪との対戦だ。セビージャ戦を通し、ブンデスリーガには存在しないチームとの対戦に慣れたのであれば、収穫だ。

 その他の3試合は、いずれも3点差がつく一方的なスコアになった。ユベントス0-3レアル・マドリード。バルセロナ4-1ローマ。リバプール3-0マンチェスター・シティ。力的に見て、次戦になんとか逆転の目が残されているのはマンチェスター・シティだろう。20%ほどチャンスは残されている。

 欧州では2つ以上のチームでCLの優勝を飾ることが、歴史に名を刻む名将の条件とされる。1チームだけで太鼓判を押すことはできない。バルサで2度、CLを制しているジョゼップ・グアルディオラにとって、今回はバイエルン時代に続いて訪れた絶好機だった。

 グアルディオラのバイエルン時代、特に準決勝でバルサに敗れた前述の2014~15シーズンは、CL優勝の本命に推されていた。今季もしかり。準々決勝の前日まで、どのブックメーカーも、僅差ではあるが、レアル・マドリード、バルサではなくマンCを推していた。今回もグアルディオラは大魚を逃すことになるのか。

 ちなみにブックメーカー大手のウィリアムヒル社は、マンチェスター・シティが次戦でリバプールに3-0で勝つ倍率は12倍、4-0の倍率は21倍と読んでいる。

 グアルディオラが対戦したがっているハズのレアル・マドリードとバルサは、ユベントス、ローマのイタリア勢相手に大差をつけた。だが、それぞれにラッキーな面があった。

 バルサの場合は4点中、2点が相手のオウンゴール。レアル・マドリードの場合は、後半21分、ユーベに退場者が出たことだ。それがなければ点差は縮んでいた可能性がある。

 レアル・マドリードとバルサ。ウィリアムヒル社の予想では、両者の優勝倍率はともに3.25倍で、バイエルンの4倍を抑え、本命の座を分け合っている。

 とはいえ、主役はどちらなのかといえばレアル・マドリードだ。チャンピオンズカップ時代、1973~74シーズンから3連覇したバイエルン以来、42年ぶりの快挙達成なるか。これこそが今季最大の焦点だ。国内リーグで現在首位に立つバルサがレアル・マドリードにそれを許せば、たとえ国内リーグで優勝しても喜びは大きく萎む。

 両者がともにベスト4入りしたならば、決勝対決の期待も膨らむ。揃ってベスト4に残ったのは過去に6回。このうち準決勝で対戦したケースは2回(2001~02、2010~11)あるが、決勝対決は一度もない。早くも組み合わせ抽選の結果が気になる。

 それぞれ問題点がないわけではない。レアル・マドリードについて言えば、開始3分、クリスティアーノ・ロナウドのゴールで先制した後は、ユーベに支配を許すことになった。アウェーゴールを奪った余裕には見えなかった。てこずった原因は、C・ロナウド、カリム・ベンゼマの2トップ下に、イスコを据えた4-3-1-2の布陣と深い関係があるように見えた。

 言い換えれば、それはアンカーにカゼミーロ、その斜め前方にトニ・クロースとルカ・モドリッチを配置した中盤ダイヤモンド型4-4-2だ。これがユーベの4-2-3-1とマッチアップすれば、サイドアタッカーの数で劣るレアル・マドリードは、モドリッチとクロースが両サイドに開かざるを得なくなる。2人が4-3-3のインサイドハーフを任された際には起こりにくい不安定さが、イスコを2トップ下に据えることで露呈するのである。

 だが、耐えている間にC・ロナウドの超スーパーゴールが決まり2-0に。その直後、パウロ・ディバラが退場するという試合展開に恵まれた感なきにしもあらず、だ。

 後半30分、ジネディーヌ・ジダン監督はマルコ・アセンシオと交代でイスコをベンチに下げ、同時に布陣を4-3-3に変更したが、こちらの方が穴はできにくい。

 とはいえ開始3分、C・ロナウドの先制点は、そのイスコが左の深い位置から折り返したボールを流し込んだものだった。2トップ下の位置から左サイドに流れ、そこでテクニックを発揮した、まさにイスコなしには語れないゴールだった。

 再現性が高いのはどちらか。確率論の問題になるが、4-3-3でいくのか4-3-1-2でいくのか。これは意外に大きな問題だ。

 一方のバルサは、国内リーグで失点が少なく、守備は安定したと言われるが、CLの準決勝以降ではどうなのか。

 ネイマールの穴は埋まっていない。彼を欠いたことで2トップのサッカーに変わり、攻撃の破壊力は魅力とともに低下している。優勝しそうなイメージが湧いてこないのだ。より改善の可能性が高いのはレアル・マドリードと見る。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

たかがサッカー。されどサッカー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

杉山茂樹の最近の記事