30年前から始まった「暴風域に入る確率」、台風11号による石垣島の9月3日夜遅くは100パーセント
台風11号が先島諸島へ
非常に強い台風11号が北上しはじめ、沖縄県の宮古島や石垣島などの先島諸島にかなり接近する見込みです(図1)。
台風進路予報は変わりますので、台風進路予報は最新のものをお使いください。
台風の速度が遅いため、先島諸島では長時間にわたって暴風が吹く可能性がありますので、厳重な警戒をお願いします。
台風11号が進む東シナ海は、海面水温が台風が発達する目安となる27度以上と高く、急速には衰えずに対馬海峡に向かって進む見込みです。
なお、台風の南西側に海面水温が27度以下となっている海域がありますが、これは台風11号がこの場所で停滞して海の水をかきまぜたための水温低下です。
台風の北側の活発な雨雲の範囲は狭いのですが、台風の東側から南側には発達した雲の塊が広がっています(図2)。
このため、台風11号が通過した後も、発達した雲の塊によって大雨の可能性がありますので油断できません。
秋雨前線
雨に心配なのは、台風の東側から南側の発達した雲の塊だけではありません。
本州付近には秋雨前線が停滞し、この前線に向かって台風周辺の暖かくて湿った空気が北上し、大気が非常に不安定となって所々で猛烈な雨が降っています(図3)。
9月2日昼過ぎには静岡県浜北で1時間に118ミリ、浜松市南部付近で約110ミリ、磐田市付近で約120ミリの記録的な大雨を観測し、気象庁は記録的短時間大雨情報を発表しています。
また、9月2日の夜のはじめ頃にも滋賀県甲賀市付近で1時間に約90ミリ、東近江市付近で約90ミリ、日野町付近で約90ミリの記録的な大雨を観測し、気象庁は記録的短時間大雨情報を発表しています。
このような状態はしばらく続きますので、台風から離れている場所でも、急に降る猛烈な雨に警戒が必要です。
暴風域に入る確率
気象庁では、5日(120時間)以内に台風の暴風域に入る確率が0.5%以上である地域に対し、「暴風域に入る確率」を発表しています。
暴風域に入る確率には、面的情報と時系列情報の2種類があり、このうち、面的情報は、72時間先までの確率の分布によって、暴風域に入る可能性が高い場所を地図上に表示したものです(タイトル画像参照)。
時系列予報は、全国の約370の区域を対象として、5日(120時間)先までの3時間ごとの暴風域に入る確率と、24、48、72、96、120時間先までの暴風域に入る確率の積算値のを示したものです(図4)。
2種類があります。
これによると、石垣市では9月3日の夜遅く(21~24時)と4日の未明(0~3時)が一番高くて100パーセントとなっており、この頃に台風11号が最接近すると考えられます。
また、確率が50パーセント以上となるのは、9月3月昼前(9~12時)から4日昼前までと、丸一日、暴風域に入る可能性が高いことを示しています。
先島諸島付近を通過する頃は、北上をはじめたばかりで速度がでていないからです。
長時間の暴風や強い雨に警戒が必要です。
また、長崎県長崎地区で暴風域に入る確率が一番高いのは9月6日明け方(3~6時)の45パーセント、下対馬で暴風域に入る確率が一番高いのも9月6日明け方で65パーセントです。
暴風域に入る確率は、台風の予報円の大きさを考慮して計算されていますので、一般的に情報の発表時刻から先の時間になるほど予報円が大きくなり、広い地域に低く確率が予報されます。
このため台風が離れている長崎地区や下対馬では、今後、台風が接近することで確率が高くなると考えられます。確率のピーク値の増えてきた場合は、それだけ危険度が増しているという判断もできます。
九州北部は、台風11号の最接近が明け方と、被害が拡大し易い時間帯ですので、最新の台風情報に注意し、早めの避難が必要です。
予報円採用で「暴風確率」の計算が可能に
台風の進路予報に予報円が最初に使われたのは昭和57年(1982年)6月の台風5号からです。
戦後の日本は、大きな台風災害が相次ぎ、死者が4桁(1, 000名以上)の大惨事となるのが珍しくありませんでした。それを何とか減らせないかと様々な努力がなされてきました。
台風予報の扇形表示もその1つです。台風の24時間先予報において、気象庁では、台風の進行方向だけでも予報しようと、昭和56年(1981年)までの約30年間、誤差幅をつけた「扇形表示(進行速度は難しいので一本の線上に表示)」を使っていました。
しかし、扇形表示は、最初から大きな欠点を持っていました。それは、その形から、進行方向の誤差が全くないかのような印象を与え、「台風はまだ来ないだろう」と人々に誤った判断をさせてしまったことです。
そこで考えられたのが、「予報円」を用いた表示方法です。台風の予報誤差には,進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると,両方の誤差ほぼ等しい分布となっています(図5)。
精度の良い予報になればなるほど予報位置の回りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。
予報の精度を簡単に表すには、一定の割合が含まれる円の大小で表わす方法(図4のA)で、もう一つは、予報位置の回りに一定の大きさの円を描き、この円内にどれくらいの予報が含まれているかで表わす方法(図4のB)です。
気象庁の発表する予報円表示の予報円は,表示の簡明さ、情報伝達のわかりやすさ等を考え合わせ、前者の方法を採用しています。
予報誤差が正規分布であると仮定し、予報円の大きさを平均誤差に対応させると円内には約68パーセントが入ります。
ただ、予報円採用当時の予報誤差はまだまだ大きく、70パーセントとすると、大きな予報円になりすぎることなどから60パーセントが採用されました。
しかし、予報精度が向上した平成9年(1997年)6月1日からは、70パーセントに引き上げられ、予報円の大きさは、ほぼ予報誤差に対応するようになっています。
台風の進路予報が予報円になったことにより、台風による暴風確率の計算が可能になりました。
気象庁予報課で暴風域に入る確率の発表へ向けての検討が始まったには、平成3年(1991年)4月からです。
そして、最初の発表は、平成4年(1992年)の台風3号からです(図6)。
この台風は、石垣島付近にあった時の中心気圧は950ヘクトパスカル、最大風速40メートルで、南西諸島を暴風域に巻き込み、北上とともに日本の南海上に停滞していた梅雨前線を活発化させています。
ただ、この時の暴風域に入る確率は、全国の代表的な29地点について、初期時刻から12時間後、24時間後、48時間後までに暴風域に入る確率を計算したもので、カタカナの電報で報道機関等へ送られましたが、発表側も利用者側も活用方法がよくわからず、ほとんど利用されませんでした(表)。
「暴風域に入る確率」の情報は、提供が始まった30年前と比べると隔世の感がある進歩があります。
気象庁ホームページで、自分の住んでいる地域の「暴風域に入る確率」を、こまめにチェックしてみてください。意外と使える情報です。
タイトル画像、図3、図4、図6の出典:気象庁ホームページ。
図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。
図5の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。
表の出典:気象庁資料。