鉄道各社の新卒採用がコロナ禍で大きく減少へ 今後に与える影響は?
2022年4月入社の新卒採用を減らす動きが、鉄道各社で広がっている。当初計画ベースでみると、JR東日本は前年度比5割減の約700人、JR東海は2割減の約680人、JR西日本は約8割減の130人となっている。またJR九州は、2022年春の新卒採用を中止する。
首都圏の私鉄にもこの動きは広まっている。東急電鉄は駅係員や運転士などの募集は行わず、技術関連職の採用のみを行う。総合職は親会社の東急で行っている。京急電鉄は2021年度の半分に減らす計画で、小田急電鉄や京王電鉄にも同様の動きが広がっている。
鉄道事業は、長期的な見通しのもとで経営され、それに合わせて人材の育成も行わなければならないはずである。なぜ、減らすのか。
新卒者は「雇用の調整弁」
日本企業の場合、会社に必要な人員を新卒の採用の増減で調整する。鉄道各社もその例外ではない。まだ民間企業ではなく、公共企業体だった国鉄の時代も、経営実績が悪かった晩年は新卒採用を行わなかった。JRになってからもそれは続いた。そのせいか、JR各社は年齢構成がいびつになっている。国鉄末期の前に入った人がやたらと多く、その後は少ない。JRになってから数年たって新卒採用を大々的に行うようになったものの、「就職氷河期」で採用が減少。最近になって人手不足で採用を拡大していた。
鉄道各社では中途採用は行っているものの、あくまで基本は新卒採用であり、その増減で企業体の状況をはかる目安になっている。
また会社全体に必要な人員は、新卒採用の人数の増減でしか調節できない。大量に同質性の高い人材を採用するには、このチャンスしかないのだ。
しかし、経営状況が厳しくなると、採用を一気に減らさなくてはならない。それでこのような事態になった。
採用を減らすことの何が問題なのか
鉄道各社では、「技術の継承」が課題となってきた。いびつだった年齢構成の中で、これまで受け継がれてきた技術をどう継承するかが重要なテーマだった。また「人手不足」も課題となってきた。鉄道現場で働く人たちが不足し、残業なども行わなければならず、鉄道会社によっては連続勤務の日数が長く、疲弊して退職する人も多いと聞く。きょうのダイヤ改正での「終電繰り上げ」も、深夜時間帯の利用者がコロナ禍で減少したからではなく、それ以前から計画されていたものであり、保線作業などの人手が足りず、その作業時間を確保するためのものである。作業自体は機械化が進んでいるものの、機械をセットアップするのに時間がかかる。
ただでさえ少なくなっている鉄道各社の人員が、コロナ禍による経営の厳しさを背景にした採用抑制で、さらに足りなくなっていく。
むろん、新入社員は即戦力になるわけではない。研修を経て年数を重ね、成長してそれぞれの仕事で力を発揮するようになる。それを繰り返すことで、鉄道という組織は持続が可能になっていった。単純に経営の数字を見て採用を減らす、というわけにはいかない職場なのだ。
JRでは国鉄改革の時期、私鉄では1990年代から2000年代にかけての就職氷河期と、人を減らした結果、技術の継承や仕事の持続可能性が危機的な状況になっている。
鉄道会社の仕事内容も多角化し、私鉄の総合職などはほかのビジネスと同様のものが求められている。JRも鉄道を中心とした総合ビジネスに力を入れている。このように他社や他業界でも行われているような事業が鉄道会社でも中心となっている現状はあることは確かだ。
しかし鉄道は人手がかかるインフラ作業であり、自動化を進めるにしても長期的視野をもって行わなければならず、ショック療法の形で一気に人を減らそうとするのは、組織の持続可能性、安全の確保という点で問題がある。
鉄道会社を目指す人たち
鉄道会社に入社を目指す人たちは、ふつうの大学生や高校生、社会人だけではない。岩倉高校や昭和鉄道高校といった鉄道で働くことを目指して全国から集まってくる高校や、鉄道で働くことを目標にした専門学校もある。
鉄道で働くために、人生をかけてきた若い人たちである。
日本の場合、働く人は「会社員」であることを求められ、「職業人」であることは求められない傾向にある。鉄道会社の人で人事計画などを担当するのは「会社員」であるタイプの総合職である。ほかの業種でさえもそうだ。
「職業人」であろうと志す人たちの前で、「会社員」としての論理を説くのは、酷ではないか? 鉄道の、それも現場で働くことを目指して、勉強だけではなくマインドも整えてきた人たちに対しての説明として、「業績の悪化」というのは難しいのではないだろうか。