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【キャリアの分岐点】プロのミュージシャン志望から大手を経て、日本の技術継承とDXで起業をした背景とは

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
Tecrhyme 代表取締役 杉浦大介さん|写真提供:株式会社Tecrhyme

コロナ禍で働くことに対する意識や価値観の変化、テレワーク・リモートワークの拡大で働き方の多様化、自律的なキャリアデザイン、副業が複業文化へ進化したことで、キャリアの選択肢としての起業に注目が集まっている。実際にコロナ禍においてコンサルタントやフリーランスとして独立したり、スタートアップを立ち上げる人は増えていて、厳しい経済状況の中、必要に迫られて起業した人も中にはいるが、パンデミックの影響による働くことに対する意識や価値観の変化で起業を決意した人も少なくない。事業者の廃業や完全リモートワーク化に伴うテナント撤退で空き物件が増えたこと、起業に向けた資金繰り支援が充実するなど起業しやすい環境があったことが背景にあるものの、想いをカタチにする為に起業の選択をあえてコロナ禍で踏み切る人も多い。

日本の技術には価値がある

今回注目するのは、日本の技術を復権することで日本を元気にしたいという想いをもとに2023年3月に起業した杉浦大介さんです。熱量の高い起業に至るまでにどんなキャリアの分岐点があったのか詳しく話を伺った。

――学生時代、ビジネスに興味はあった?

杉浦さん|正直、大学進学したのは音楽を4年間自由にやりたかったから…(笑)。

名古屋の大学では部活で音楽を選択して大学3年生から本格的にバンド活動をして、ライブハウスなどでも活動するほどでした。本格的にプロのミュージシャンとして生きていこうと大学を意図的に留年した後に、バンドっぽいですが方向性の違いで解散して、別のバントを結成し、そちらでは自分たちでは最高の音楽だと認識していましたが、ニッチすぎて現実的に考えるとこれでは食っていけないと考えるようになっていきました。

好きなことを仕事にしなくても良い

その頃、音楽ショップでアルバイトをしていたのですが、ちょっとした自分のアイディアが成果となり、認められた経験があります。そこで好きなことを仕事にする必要が本当にあるのか?と考えました。音楽が好きだから仕事にしなければいけないという概念に支配されていて気が付かなかったのですが、自分のアイディア、クリエイティブが認められることが嬉しいと感じるのであって、そのツールは音楽でなくても良いのかもしれないと。そんな価値観の変化が分岐点となって就職活動をして空調メーカーに入社しました。

プロのミュージシャンを目指して本格的にバンド活動をしていた杉浦大介さん|写真提供:株式会社Tecrhyme
プロのミュージシャンを目指して本格的にバンド活動をしていた杉浦大介さん|写真提供:株式会社Tecrhyme

――大学卒業後に入社した会社での学びは?

大学卒業後、入社した空調メーカーでは営業として家電量販店を回り、担当商品の販売、販売スタッフの採用・教育を主業務としていました。ただ、営業や採用・教育に関わっていなかったら気付かなかったのですが、とある店舗で採用した学生は勿論知識も全然なくて、家電量販店にいる重鎮のような年配の販売スタッフさんのようには接客はできません。ところが、お客様や自社商品以外のスタッフとの関わり方が純粋で積極性もあり、店舗・組織の雰囲気を目に見えるように明るく変革したのです。

人で組織が変わる不思議

その姿を見て採用業務の楽しさ、難しさ、不思議さに魅力を感じて本格的に採用や組織に関わりたいと思い、転職を決意してデンソーテクノ株式会社という技術の会社へ未経験ですが、人事として転職をしました。

――大手企業に未経験の人事職として入社して得たコトは?

前職との大きな違いは、社員の大半が技術者で圧倒的にロジカルな集団であるということ。前職で通用していた感覚や抽象度の高いコミュニケーションは全く通用しなかったですね。いわゆるロジカルコミュニケーションを意識して学びました。また人事という仕事は現場社員との関わりが重要になりますが、技術者の気持ちを理解出来ていない人事は少なくないです。私はご縁があって、とにかく技術を理解して、技術者の気持ち、思考を理解する為にヒアリングだけでなく人間関係構築をし続けました。結果、現場からの信頼を得ることができて、採用業務だけでなく、制度・人員計画・親会社との調整業務など幅広く経験することができました。

自分のアイディア・クリエイティブが価値となり成果を生む

デンソーテクノ株式会社では従来の採用手法を大きく変革し、5年間で理系学生にとって親会社(株式会社デンソー)にも匹敵する人気企業に押し上げることができました(東海地区理系人気ランキング4位)。理系学生が思わず行きたくなる、楽しく学びのあるコンテンツ作り、学生リクルーター制度の立ち上げを通じ、親会社、大手メーカーと競合しても優先順位をあげ、勝てる採用活動という仕組みを構築できました。

デンソーテクノ時代、学生や転職希望者に数多くのセミナーを開催した杉浦大介さん|写真提供:株式会社Tecrhyme
デンソーテクノ時代、学生や転職希望者に数多くのセミナーを開催した杉浦大介さん|写真提供:株式会社Tecrhyme

キャリア採用においても、媒体やエージェントの最適化や効果的活用の施策を実行し、リーダークラス以上のエンジニア採用の仕組みを構築。採用の仕組みを構築してから、最適配置の仕組み、新人の導入研修企画、社員のキャリアを軸にした異動制度、既存社員の意識変革教育企画、人事制度改定プロジェクト、中期人員計画、技術者の能力分布やリソーセス最適化へ向けた社員の見える化、親会社との新たなリソース分担方針策定などに関わりました。

大手企業からベンチャーまで経験したことで今がある

本当に多くの経験をできたことで、今度は外から組織を変えるということに価値を感じて、起業を意識しながらベンチャーで支社の立ち上げや本社でCOOを経験することで、経営が技術を理解していないケースの多さやそこで起こる組織崩壊、一方で中小企業であっても、専門性の高い企業の支援をできる姿を目の当たりにして、改めて日本の技術の強さなどを痛感し、これまでのキャリアを活かして技術を持つ企業に特化して、人事変革を支援したいという想いで起業を決意しました。

――まだコロナ禍で世の中が落ち着いていない時期になぜ起業?

今年2023年3月に起業して株式会社Tecrhymeを設立しました。コロナ禍で日本の中小企業、特に技術を持っている企業は業績不振、採用難、後継者問題、技術継承課題等で苦しんでいるケースを沢山見てきましたが、しばらく同じような状況は続くと思います。だからこそ、自分ができることを今すぐカタチにしたいと考えたので、時期は意識しなかったです。

キャリアの棚卸しが起業する大きなヒント

起業をする数年前から、これまでのキャリアの中でも特にエンジニア系の企業向けコンサルティングをカタチにすることを模索していました。製造、IT、IoT、開発設計・製造請負、設備保守、建築、鉄鋼等、幅広い業種・分野でコンサルタントとしてキャリアを積み、採用だけでなく、入社後の育成~組織づくりの再現性などについて、エンジニアを抱える技術系企業特有の課題に対する解決のノウハウを身に付けてきました。採用は、集めるだけの採用ではなく、将来の定着・活躍をゴールにおき、社員、組織、会社を変える活動として独自のアプローチを開発。また、育成は、エンジニアなどの専門職を計画的にプロに育成する為の、育成体系構築や、各種ポータブルスキル研修や、行動の習慣化研修などを体系化して、さらに、人事制度の構築や制度の運用整備、企業のノウハウをIT化、DXを進めるなどの経営や事業開発も含め、経営から人事、組織開発までトータルでコンサルティングができるように実績づくりやノウハウを準備をしました。

――新会社でユニークな研修を開発したのは何故?

技術をもった人(エンジニア)のキャリアの中で、壁になるケースとして多いのはプレイングマネジャーになった際に必要になる複雑なコミュニケーション。ここにフォーカスした研修を見たことがなく、通常のアプローチではエンジニアには理解されないだろうと考えていた時に元サッカー日本代表の羽生直剛さんに出会い、スポーツ(サッカー)を通じて、ピープルマネジメントに必要なスキルを開発したいと考えました。

出会いをビジネスに繋げるアイディア

羽生さんとの出会いで元サッカー日本代表だ、すごい!という感情だけでなく、何か一緒にできることがないか?と意識はしていました。そこでアイディアが出て実際に研修プログラムまで仕上がったのがCLATという研修です。常にアンテナを張っていることが起業して事業拡大していく際には重要だと思います。結果的に、エンジニアだけでなくあらゆる社会人の交流が研修の中にある他流試合が実現され、受講者は多くの刺激をうけることができます。

元サッカー日本代表の羽生直剛さん(左)、株式会社Tecrhyme 代表取締役 杉浦大介さんが共同開発したリーダーシップ研修CLAT|写真提供:株式会社Tecrhyme
元サッカー日本代表の羽生直剛さん(左)、株式会社Tecrhyme 代表取締役 杉浦大介さんが共同開発したリーダーシップ研修CLAT|写真提供:株式会社Tecrhyme

――これからの想いは?

これまで、技術者が多く働く事業会社で組織変革をした経験と、コンサルタントとして、同じく技術者を抱えていらっしゃる企業様でのコンサルティングを通じ、技術系人事マネジメントの重要性と、一方で、多くの企業がそこにある種のあきらめが存在している事実も目にしてきました。ただしどんな企業であっても、そこに光を当て、変化が目に見える状況になった時に、その企業に在籍する社員のパフォーマンスが最大化され、企業力として圧倒的に強くなる様を見ながら、技術のある企業が強くなることの意義を感じてまいりました。

30年で技術者は本当に成果を出し続けてきた

失われた30年と言われる日本の経済的低迷が叫ばれておりますが、私はこの30年、技術者は本当に成果を出し続けてきたのではないかと考えています。例えば自動車における燃費規制や排気規制の問題。世界の基準があがったとしても、その問題に解を出し続けている技術者の存在をどこまで社会がご理解いただいているだろうか。そもそもなぜ日本は電気をこんなに安全に使えるのか。世界でも類を見ない停電をしない国であることをどれくらいの人々が知っているのだろうか?

それらの裏側には、多くの卓越した技術を持つ技術者たちがいる。もはや上の会社、下の会社などとブランドを競っていても仕方がなく、多くの企業がそれぞれ固有の専門技術を磨き、つなぎ合わせて、新しい価値を生み出していかねばならない時代でもあります。

ただし、残念ながらこれら我が国の財産である技術が失われていく時代にも突入してしまっているのです。そんな技術者や技術者を抱える企業に光を当て、技術を可視化し、再現性ある人事メソドロジーで、世の中の為、企業の為、技術者の為に貢献してまいります。

――杉浦さんにとってキャリアの分岐点は?

私にとってのキャリアの分岐点は、本質的な技術者との出会いです。多くの技術者とコミュニケーションをしたことで、日本の技術は世界に誇れる価値があると確信をしました。一方で、その技術が失われようとしている課題や、そもそも技術者が抱える悩みやもっとこうすればキャリア形成をHappyにできるという事実を理解することができました。

その結果、自分はこの先の見えない時代に思い切って起業をしましたし、技術者の成長に繋がる研修CLATの開発、これまで職人と同じように技術が若者に継承されない問題を解決するための技術継承とDXを同時に行う事業も無事スタートして多くの企業様からご相談を頂けています。

まだ起業して半年ではありますが、日本の技術を復権させるべく技術者を支えたいと考えています。また、社会課題とも言える大手メーカーのミドルシニアの活用やアスリートのセカンドキャリアなどこれまでのキャリアで培ったことを少しアップデートすれば支援できる領域は積極的にチャレンジしたいと考えています。

日本の技術には価値があると信じ、技術継承とDXを同時に行う事業で起業をした杉浦大介さん|写真提供:株式会社Tecrhyme
日本の技術には価値があると信じ、技術継承とDXを同時に行う事業で起業をした杉浦大介さん|写真提供:株式会社Tecrhyme

キャリア(人生)の分岐点は出会いと言葉ときっかけ

学生の時に描いた未来とは全く違う今を歩む社会人が圧倒的に多い時代です。特にコロナ禍で働くこと、生きることの価値観が大きく変わった今、キャリアの考え方も選択肢は増えて良いわけで、都度訪れる人との出会い、人からもらう言葉、何らかのきっかけを見失わないようにして、それぞれと向き合うことで、新たな道が開けるはずです。それが、キャリア(人生)の分岐点となり、人生を豊かにするのかもしれない。

経済複雑度(他国では作っていないモノを輸出している度合い)NO.1の日本だからこそ、失ってはいけない技術を継承することの根底から支えようとしている杉浦さんの今後のチャレンジにも注目したい。

はたらくを楽しもう。

【杉浦大介さん】

株式会社Tecrhyme 代表取締役

1978年愛知県生まれ。

南山大学経営学部経営学科卒。

大学時代にプロのミュージシャンを志すも挫折。大手空調メーカーにて営業からキャリアをスタート。量販店ヘルパーの人事にかかわったところで人事に目覚め、大手自動車部品開発会社(デンソーテクノ株式会社)への人事として転職。これが転機となり、同社で人事変革を推進した。その後、ベンチャー企業でCOOとしてTecrhymeの原型となる技術系人事コンサルティング事業を開始。これまで1500社以上の経営者・人事責任者への講演活動、150社以上のコンサルティングを実施。

2021年|書籍「理系の[採用・活かし方]トリセツを出版。

2023年3月|株式会社Tecrhymeを設立。

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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