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日本のサイバーセキュリティエンジニア不足に、横浜のベンチャー企業が一石を投じたオンラインイベントとは

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
多様化するサイバー攻撃に対して、注目されるサイバーセキュリティ業界は急拡大中(写真:アフロ)

増え続けるサイバー攻撃の脅威

日本でもここ数年でサイバー攻撃という言葉が浸透してきている。2022年に医療機関がランサムウェアによるサイバー攻撃(ランサムウェアは、ウイルスに感染させて各データを暗号化する。元の状態に戻すための身代金を要求したり、最近では身代金を支払わない場合は世間に情報公開、顧客やビジネスパートナーへ暴露するといった脅迫など、進化を続けている)を受けたというニュースは記憶に新しく、その後も民間だけでなく政府機関も多様化するサイバー攻撃の対象になっている。

日本が抱えるサイバーセキュリティエンジニア不足問題

日本でも年々サイバー攻撃による被害は増えており、もはや企業や組織のサイバーセキュリティ対策は経営課題になっている。中でも最大の弱点とも言えるのがサイバーセキュリティエンジニアが少ないということ。

世界最大のサイバーセキュリティ専門家資格の非営利団体であるISC2の最新調査によると、サイバーセキュリティエンジニアの人材不足が一層深刻化していて、世界ではサイバーセキュリティエンジニアは470万人を上回るものの、さらに340万人は必要になると発表している。日本ではサイバーセキュリティエンジニアは39万人弱で5万6000人の不足とされている。

サイバーセキュリティ啓発イベントに殺到する就活生、転職希望者

株式会社GFD(本社:神奈川県横浜市、代表取締役:横溝芳郎)が昨日2023年9月23日に開催したオンラインイベントが話題になっている。

オンラインで開催されたサイバーセキュリティ啓発イベントの参加者は、これからIT業界やセキュリティ業界を目指す、または興味のある専門学生、大学生、さらにはセキュリティ業界への転職も視野に入れた現役のエンジニア、営業、マーケター、事務職に従事している社会人で、総勢70名ほどが集まった。

日本と世界のサイバーセキュリティ業界の違い

イベントに登壇したのは、複数の外資系テクノロジーベンダーでカントリーマネジャーを歴任し、現在はアンビシャスワークス合同会社を創業し、サイバーセキュリティを中心に海外の最新技術ベンダーの日本進出事業などを手掛ける新免 泰幸氏だ。

日本と海外のサイバーセキュリティ事情、これからの日本市場に必要なことを語る新免 泰幸氏(画像提供:株式会社GFD)
日本と海外のサイバーセキュリティ事情、これからの日本市場に必要なことを語る新免 泰幸氏(画像提供:株式会社GFD)

新免氏からは、日本と世界のサイバーセキュリティ市場、企業や人の意識の違い、注目される領域、今後の日本市場におけるサイバーセキュリティ業界、エンジニアの希少価値などが語られた。

セキュリティ対策を外部に委託しがちな日本と、企業が自分ごととして捉えてセキュリティ対策に予算を投じている海外との比較や海外企業がセキュリティプロダクトにかける開発費の大きさ、今後の日本市場におけるセキュリティエンジニアの希少価値、キャリアプランの幅は印象的だった。

アウトカムベースセキュリティ

イベントを主催した株式会社GFDからは現役セキュリティエンジニアの小澤 祐太氏が登壇して、今年になってイスラエルやアメリカの最先端のサイバーセキュリティプロダクトを実際に触れている目線で、業界全体の課題やこれからの日本市場に期待するアウトカムベースセキュリティという考え方について語った。

アウトカムベースセキュリティは、従来の流行りであったり、常識の中でとりあえず、やみくもに導入するようなセキュリティ対策ではなく、企業が自社の目指すビジネス成果(アウトカム)に合ったセキュリティ対策をするという考え方で、セキュリティ対策への投資が体力の問題でしにくい日本の中小企業にもインパクトのある話が語られた。

アウトカムベースセキュリティを語る現役サイバーセキュリティエンジニアの小澤 祐太氏(画像提供:株式会社GFD)
アウトカムベースセキュリティを語る現役サイバーセキュリティエンジニアの小澤 祐太氏(画像提供:株式会社GFD)

知らなかったサイバーセキュリティ業界の魅力

イベントに参加した学生からは、

IT業界という漠然とした世界を見ていたので、サイバーセキュリティ業界の魅力や今後の市場について理解ができて、就職活動を進める大きなヒントになった。

サイバー空間について意識が高まったイベント。キャリアを考えている今、セキュリティ業界で働くことも選択のひとつになった。もっと日本人もサイバーセキュリティのリテラシーが高まれば良いと感じた。

社会人と一緒に学べるイベントは初めてで、サイバーセキュリティ業界の理解に加えて、社会人との接点を持てたことも貴重な体験だった。

10年で10倍成長する業界の魅力

イベントに参加した社会人からは、

会社紹介や採用直結のイベントが多い中、業界の理解を深めることを目的としたイベントは貴重。社会人としても多くの学びがあった。

日本が抱える課題に対しての啓発イベントは初めて参加した。セキュリティ業界の理解は深まり、市場としてのポテンシャルがあり10年で10倍に成長する業界は他に見当たらないため、転職先としても魅力が大きい。

参加した学生、社会人からの反響も大きく、その声や満足度からセキュリティ業界への注目の高さも理解することができた。

日本の社会課題に一石を投じたい

今回、サイバーセキュリティ業界の理解促進のためにオンラインイベントを開催したと語る株式会社GFDで代表取締役社長を務める横溝 芳郎氏に話を伺った。

日本のサイバーセキュリティエンジニア不足に、一石を投じたオンラインイベントを開催した株式会社GFD代表取締役社長 横溝 芳郎氏(画像提供:株式会社GFD)
日本のサイバーセキュリティエンジニア不足に、一石を投じたオンラインイベントを開催した株式会社GFD代表取締役社長 横溝 芳郎氏(画像提供:株式会社GFD)

――今回なぜサイバーセキュリティの啓発をテーマにイベントを開催した?

横溝氏:我々はITインフラ・サイバーセキュリティ分野において分析・環境構築・教育までワンストップでソリューション提供することを強みとした、横浜のテクノロジーカンパニーですが、日本が抱える世界とのサイバーセキュリティに対する意識の遅れや人材不足は我々だけの力では解決できません。企業だけではなく行政や各団体、組織、未来を創る学生などさまざまな立場から課題に向き合う必要があります。まずはそこに対しての警鐘という意味でスモールイベントを想定していましたが、多くの方々にイベント参加して頂き、注目度の高さを痛感しました。

――啓発イベントを終えて得たことは?

横溝氏:我々は日本の社会課題の解決を念頭に置きながら横浜という街で大きな仕掛けを準備しています。その際には社外に沢山の協力者が必要と考えていますが、今回のイベント開催については、社会人をイベントに集客する為に大手人材紹介会社に協力支援を依頼しました。転職を主目的としたイベントでもない中で、イベントの趣旨に賛同して頂き、最後までご支援をくれた姿をみて、もっと大きな巻き込みをする我々の大きな自信と勇気になりました。

――今後もサイバーセキュリティ業界の啓発活動は継続する?

横溝氏:すでに横浜で横浜未来構想と題してコンソーシアム化や行政連携がスタートしていたり、我々自身もアメリカやイスラエルから最先端プロダクト、サービスをソーシングしてアウトカムベースセキュリティを実現できるように日本ではまだ浸透していない領域でも積極的に活動していこうと考えています。近く、様々な発表ができると思いますが、少しお待ちください(笑)

成長業界で働く魅力

昨日開催されたサイバーセキュリティ業界の啓発イベントは、これから社会を目指す就職活動生、新たな就業環境を探す転職希望者には大きな道しるべ、分岐点になったことは間違いない。視野の狭い中で決め込む夢や目の前にある世界ではなく、市場としてこれから成長する、この先の世の中から必要とされる業界、仕事なのかを理解することはキャリアの選択の幅を広げる。

コロナ禍では多くの就職活動や転職活動に関わるイベントが開催され、流行りとなったが、これからは業界の理解や未来・キャリアを考えるきっかけや啓発に繋がるイベントが必要なのではないだろうか。企業のCSR活動として増えていくことを期待したい。

はたらくを楽しもう。

【取材協力】

株式会社GFD

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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