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7月11日は「ラーメンの日」 韓国では「煮立てて」食べる! BTSも好きな「ソースで和える」麺も

オンガネジャパン提供

7月11日は日本記念日協会が公式に認める「ラーメンの日」。

ご存知でした?

「7」をれんげに見立て、「11」を箸に見立てた。

まあまだまだ歴史は浅く、それが始まったのは2017年から。一般社団法人日本ラーメン協会が記念日協会へ申請登録し、正式に「7月11日=ラーメンの日」となった。もう一つの理由は、ラーメンを最初に食べた人物とされる水戸黄門(水戸光圀公)の誕生日(新暦・1628年7月11日)からだという。

というわけでここでは「日本のラーメンをより立体的に知るために」、一つの事例を。

韓国のラーメン。

そこには、日本発祥のインスタント麺が別の文化圏で発展していく「アナザーストーリー」がある。

そのルーツが日本にあることは間違いない。

1963年9月15日に韓国初の即席麺が発売となった。日本で初めてインスタントラーメンが発売されたのが1958年8月25日だったから、その5年後の出来事だ。当時、日本での企業研修中に「明星ラーメン」に感銘を受けた韓国の食品会社社長が、それをそのまま自国に輸入したのだった。

もうひとつ、ルーツが日本である証がある。韓国語ではラーメンを「ラミョン」という。「ミョン」は麺(もしくは面)の韓国語読み。じゃあ「ラ」は何なのかと言うと…「日本のラーメンから」という説が有力だ。なぜなら「拉麺」の「拉」を韓国語で読むと「ナッ」となるからだ。

そうではあっても…2018年にはラーメン消費量が世界一にまでなった。その流れから、いまや「マンドゥ(韓国餃子)」などと並び、「韓国ラーメン」をKフードとして世界に売り出そうとしている。

いったいなぜ? 

ラーメンの「概念」がちょっと違う

「韓国と比べて、日本にはラーメンの種類が少ないでしょう?」

筆者の25年来の日韓の往来のなかで、韓国の友人から幾度もそういった話を聞いたことがある。

「何言ってんの? 日本のほうがはるかに多いでしょ?」

と言い返してきた。韓国でのラーメン(ラミョン)はすべてインスタント麺で、スープが基本的に辛い。麺の太さや味付けが少しずつ異なるものが豊富に売られている。インスタント(即席)麺であってこそ「ラーメン」。だから韓国人は「韓国のラーメンは種類が多い」と考える。

一方日本は麺の種類が豊富だ。ゆで麺とインスタントがあり、前者は太麺、細麺、縮れ麺など多種多様。スープの種類もしょうゆ、塩、味噌、とんこつなど豊富だ。それらがご当地ラーメンとして魅力を発揮している。

そういった風習は韓国人にとってはなかなか「想像のつかないもの」。あるいは「生麺は別もの」。だから「ラーメンの種類は韓国のほうが多い」という話になる。

調理法の表現まで違う

そして韓国ではこのインスタント麺が日本とは違う「発展」を遂げていった。

日本のラーメンの麺は「ゆでる」

韓国のラーメンの面は「煮込む」

本当に調理する時の単語が違う。

韓国語では「クリダ(煮込む)」という。「サルッタ」(茹でる)という単語もあるが、ラーメンを作る時にこの単語は使わない。

なぜか。麺が太いからだ。

左側が韓国の「サリ麺」、右が日本でも一般的に広く知られるインスタント麺。左の韓国が明らかに太い。筆者撮影
左側が韓国の「サリ麺」、右が日本でも一般的に広く知られるインスタント麺。左の韓国が明らかに太い。筆者撮影

韓国国内市場第2位の「オトゥギ」の麺を輸入し、鍋の具材などとして楽しむ「サリ麺」(韓国の「麺だけ」を売っている!)を日本で販売する「チョイスジャパン」の関係者は言う。

「やっぱり、太麺でコシが強くもっちりですね。そこが日本と違う味わい、という点にも惹かれ日本で商品化しました。シコシコ、ツルツルの食感ですよ。煮込んでも伸びにくいので鍋物にも最適です」

実際に近年の韓国メディアでは「どこの麺が一番太いか」そして「麺が丸形か四角型か」といった点が報じられている。最も太い製品は「2.26ミリで平均の2.10ミリより0.16ミリ太い」(韓国の「食品飲料新聞」)のだそう。

朝鮮戦争後の韓国の「事情」 

韓国のインスタント麺は太い。ではなぜそうなったのか。これには諸説ある。上記の通り、韓国でのラーメンの始まりは1963年だ。日本の明星ラーメンをそのまま輸入販売したものは…じつのところあまり売れ行きがよくなかった。

輸入元の会社は、時の朴正煕大統領にまで食してもらい、こんな"ダメ出し"を受けたのだという。

「韓国人は濃くて辛い味が好きなので、もう少し唐辛子の粉が入っていたらいいなと思います」

そもそも日本の明星ラーメンとは違うものを作る必要があった。これが「太い麺」となった理由として考えられるうちの一つだ。

もうひとつの理由は…「なんでラーメンを時の独裁者にまで食してもらえたのか」という点にありそうだ。韓国政府が運営する「国立民俗博物館」のサイトには食文化としてのラーメンの項目がある。そこにはこういった記載が。

「韓国では、1960年以降、アメリカの小麦の援助と自国米の消費を節約するための即席食品を奨励する政策により、大衆化が始まりました」

朝鮮戦争後の食糧難を改善するもの。だから麺もしっかりしていて、栄養が十分に摂れるものである必要があった。これが考えられる2つ目の理由。

その他、韓国料理の特徴のひとつである「複数の味を混ぜ込んで新しい味を作る」という点も考えられる。これは同じ「粉もの」で韓国が世界に売り出そうとしている「マンドゥ」にも共通点がある。いわゆる日本でも知られる「蒸し餃子」「水餃子」なのだが、皮が分厚い。スープを吸わせて、新しい風味を作るというところか。

その他、辛いスープに「負けない麺」が必要となったという点。などなど、様々な理由が考えられる。これらの点から、日本から持ち込まれたインスタント麺が、「太麺を煮込む」という独自の発展を遂げていったのだった。

日本のように1910年から先に生麺(ゆで麺)とスープを合わせるスタイルが発展し、その後にインスタント麺が開発された歴史とは違うのだ。

「韓国ラーメン」の独自の発展は続き…

近年では韓国のラーメンの独自の発展はより多様化していっている。前述の「国立民俗博物館」のサイトにはこうも記されている。

「好み、便利さ、実用性が強調されるにつれて、消費が徐々に増加し、2018年には、ラーメンの消費量が世界一位となりました」

最新のトレンドは…「ビビムソース」などのソース類と和えて食べる「スープなし麺」だ。ヒットのきっかけのひとつとなったのが、BTSだった。

  • 2021年12月のAチャンネル(東亜日報系)「BTSの一言で驚くべき変化 ビビン麺 1.2倍の商品が販売に」

2018年ごろから度々ネット中継番組のなかで度々「ビビン麺が好きだ」として、実際に食するコンテンツが発信された。この影響と、新型コロナのパンデミック時代に「家で新しい料理を作ってみよう」という傾向が重なった。

最近の韓国食品業界で注目を集めているのは、ソースの方にもある。2023年5月27日の「ソウル経済」紙によると、麺類などに和えて食べる万能ソースがトレンド。

2020年の国内売り上げが2016年の22.4%増だった。輸出も13.2%増となっており、さすが「BTSの影響力」と報じている。今では麺類で有名な韓国内の食品会社が、ビビンソースなどのソースの開発に盛んに取り組んでいるという

その流れは日本にも伝わってきている。前出の「チョイスジャパン」が原産地が九州、という国内オリジナル商品を発売しているのだ。どんな味わいなのか。

筆者撮影
筆者撮影

「韓国の食堂には必ずあるという調味料なんですよ。コチュジャンをベースに唐辛子、ニンニク、玉ねぎなどを熟成・凝縮させた商品です。万能というのは本当で、ラーメンのインスタント麺のほか、素麺に混ぜてもおいしくいただけますし、サラダ、刺し身、揚げ物にもよく合いますよ」(同社関係者)

これもまた新たな「ラーメン」の形態か。日本でも「油そば」「つけ麺」が発展し、あるいは台湾発祥とされる「まぜそば」も紹介されているように。

日本のラーメンが韓国でも人気に!

韓国のラーメンについて長々と記したが…

麺文化の交流、というべきか韓国でも日本の「ラーメン」が人気を得ている。90年代まで多くの韓国人が「匂いが独特」と敬遠してきたとんこつラーメンが大人気となっているのだ。細麺が新鮮で、韓国にある牛骨のスープに似ているという点からだ。みそやしょうゆのスープは韓国人にとっては「塩辛かったり甘かったり」なのだという。

とんこつラーメンは2018年までの日本旅行ブームでも大人気だったが、翌年の日本不買運動、さらにパンデミックで一時中断。それでも2022年秋以降の往来規制の大幅緩和で見事に復活を遂げている。韓国の友人から日本旅行の情報を聞かれることも多いが、その際には必ずと言っていいほど「ドン・キホーテ」「とんこつラーメン」巡りがキーワードとして入ってくる。

個人的にも「韓国人ととんこつラーメン」には思い出がある。2017年に日本でK-POPの男性7人組グループ「Block B」をインタビューした際に、部屋に差し入れのとんこつカップ麺が置いてあった。それをリーダーで圧倒的カリスマ性を誇ったZICOがすごく美味しそうに食べていた。

「おお、うまそうに食べるね。昔、韓国人はこれ食えなかったんだけど」と話しかけると…一気に距離感が縮んだ。

他のメンバーとのインタビューにも彼が同席してチャチャを入れてくれた。まあ筆者は彼がいかにカリスマか、ちょっと分かってなかった面もあるのだが。むしろズケズケと話しかけられたことが嬉しかったか。

美味しいスープ(いまやソースも!)に浸った麺をズルっとすする。この幸せは多くの国で通じるもんだな。そうも思ったものだ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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