Yahoo!ニュース

6月の韓国代表 場外で起きた2つのこと 「祝われないA代表デビュー」「選手と連絡つかず」

韓国代表ユルゲン・クリンスマン監督。写真は今年3月のAマッチウィークでのもの(写真:ロイター/アフロ)

6月の国際Aマッチウィークでは日本が4-1と大勝したペルーに0-1で敗れ、同じく6-0だったエルサルバドルに1-1のドロー。

ユルゲン・クリンスマン監督率いるチームは、9月にスタート後、いまだ白星がなくスッキリしない時間が続いている。

それはピッチ外でも同じことだ。

6月16日のペルー戦(@釜山)では「拍手されないA代表デビュー」という構図が生まれた。

当事者は後半20分にボランチの位置に投入されたパク・ヨンウ(蔚山)。その時の様子を「SPOTV NEWS」が次のように伝えている。

「後半20分にウォン・ドゥジェが負傷で退いたため、パク・ヨンウがピッチに立った。普通ならば、選手が交代で入ると観客席から拍手や期待を込めた歓声が上がるものだが、その瞬間は冷水を浴びせられたような静けさだった」

  • ペルー戦でパク・ヨンウが投入されるシーン

MHNニュースはこうも。

「パク・ヨンウは、後半のアディショナルタイムまでの約23分間をこなし、まずまずのパフォーマンスを見せた。しかし、人種差別的な発言をした選手を起用すべきではないという世論が続いており、議論が続いている」

何があったのかというと…

本人の今回のA代表メンバー入りが発表になった後の6月11日、チームメイトのイ・キュソン、チョン・スンヒョンとのインスタグラム内でのやりとりが物議を醸しているのだ。

イ・キュソン: 東南アジアクォーター(Kリーグのアジア枠をもじった言い方)は頼もしいです。

イ・ミョンジェ: あぁ...それはちょっと違うんじゃない?

チョン・スンヒョン: 呆れる

イ・ミョンジェ: 君のせいだよ、アジアクォーター

パク・ヨンウ: ササラックのフォームがすごい

イ・ミョンジェ: 鼻詰まりが国を輝かせてくれるように!

3選手以外の人物: ササラック、スーパータックル

イ・ミョンジェ: 年に1回見ただろ?

ササラックとはタイ代表選手で、2021年に蔚山のライバルクラブ全北現代にレンタル移籍し、2試合プレーした。3人は本人と面識がないものの、その場でからかうような発言をしたことが問題視されている。

11日にネット掲示板でこれを指摘する投稿が行われた後、「TOPSTAR NEWS」が報道。当初は「単なる冗談」と捉えられていたが、その後に更にネット掲示板上で批判が拡がった。12日に所属クラブ、13日にはホン・ミョンボ監督が謝罪する事態にまで発展した。2017年から22年の文在寅政権時に人権意識が強く高まった韓国では「アウト」な事例にも見えた。

とはいえ、この6月のクリンスマン監督にとってはパク・ヨンウは欠かせない存在でもあった。1993年生まれの29歳。188センチと長身で、ボランチとセンターバックをこなす。2022年シーズンはかのホン・ミョンボ監督率いる蔚山現代で優勝に貢献。

のみならず今回は守備の中軸キム・ミンジェ(ナポリ)が兵役の基礎軍事訓練により招集されず。2018年アジア大会優勝により事実上兵役免除となったが約2週間の訓練は受けなければならない状況にあった。中央の守備に関して不安の大きいなか、パク・ヨンウは「国内で最も結果を残している選手」でもあるのだ。

試合後、当然のごとく韓国メディアからは起用の理由を問う質問が飛んだ。クリンスマン監督は「誰にでも失敗はある」と発言。選手をかばう姿勢を見せた。とはいえ、韓国内で影響力のあるネット掲示板「FMコリア」では関連投稿に65万アクセスが集まるなど”鎮火”には至っていない状況だ。

「中国で八百長疑惑」の選手は結局現れず…

クリンスマン監督が選手をかばう、と言えばこの6月にはもうひとつ話題があった。

ソン・ジュノ(山東泰山)。

カタールW杯でもプレーした
カタールW杯でもプレーした写真:ロイター/アフロ

2021年に全北現代から同チームに移籍、フル代表キャップが20あり、クリンスマン監督就任後も3月の国際Aマッチに招集された選手だ。

同選手はこの6月にも再び招集を受けたが…「結局は来なかった」。

中国内でリーグ戦の八百長に関与した疑惑から5月15日に身柄拘束された(逮捕理由は八百長疑惑ではなく非国家工作人員賄賂疑惑)。本人は疑惑を否定している。

これにより中国から出国できない状況に陥ったが…クリンスマン監督は選手の側に立った。メンバー発表時には「こちらからも出来ることはやる」と発言したのだ。

しかしソンは6月16日のペルー戦には現れず。

6月18日には逮捕へと切り替えられ「事態は長期化するだろう」と韓国メディアが伝えた。そして迎えた6月19日、韓国―エルサルバドル戦の前日会見。この話題が記者団から投げかけられた。

登壇したクリンスマン監督とソン・フンミンはこう答えている。

「私たちが今できることは、ソン・ジュノと彼の家族のために祈ることだけです。早く結果が出て欲しい。(状況を知ることができないので)私たちが何かを言うのも難しい状況にあります。協会として努力しているので、祈りながら待つつもりだ。サッカー人の一人としてもこの状況が早く終わることを願う」

ソン・フンミン

「心が痛みます。チームメイトも彼の状況がよく分からない。ジュノとはかなり親しく(ソン・フンミンと同い年)、長い間一緒にプレーしてきました。以前にもよく連絡を取っていましたが、今はメッセージを送っても返事がありません」

韓国内では「高年俸をもらっている上に、代表チームでも未来のある彼が八百長に関わる動機がない」と見られている。一方中国側では「本人が出国禁止の状態で中国から出ようと試みた」「実刑5年以上の可能性も」との報道も。今後、事態はどうなっていくだろうか。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

吉崎エイジーニョの最近の記事