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【惨敗&敗退】WBC韓国代表はなんであんなに弱かった? 同国大御所記者が激白「日本との決定的な差」

(写真:CTK Photo/アフロ)

初戦でオーストラリア相手に競り負け、その後日本に4―13の惨敗。韓国のWBC2023は「1次リーグ敗退」で終わった。

10日に行われた日韓戦。

三回裏の日本の攻撃時のことだ。スコアは3―0で韓国がリードしていた中、日本は下位打線で無死一、二塁のチャンスを生み出した。

韓国が負ければ事実上、大会から去ることになる窮地だった。しかし、エースの左腕キム・グァンヒョン(SSG)は重要局面にあって明らかに息も絶え絶え。球数は先発投手の投球数制限65球のうち、すでに56球を数えていた。

迎えたバッターは1番ヌートバー。

日韓戦で先発したキム・グァンヒョン
日韓戦で先発したキム・グァンヒョン写真:ロイター/アフロ

6球目をセンター前に弾き返されスコアは3―1。キムはさらに続く近藤健介にも2塁打を放たれ3―2に。そこで投手交代を告げられた。

短期決戦での崖っぷち。その状況を考えても、継投の手を打てそうなものだったが……。

「替えられなかったんです。メジャー経験のあるキム・グァンヒョンは今回の韓国代表の中で一番信頼のおける投手。信じて、任せるしかなかったんです」

そう語るのは、韓国のスポーツ紙の記者として長年同国の野球界を取材してきた業界の大御所で、現在はライターのチェ・ミンギュ氏。

ソウル大卒のベテラン記者は今回の韓国の不振について「日本などの他国と比べ、投手の球速が上がらない」点が最大の理由とする。原因は「指導者の勉強不足」にあるという。

韓国弱くなった…の前に「世界の傾向を見るべき」

そもそも今回の韓国代表は「好素材がそろった世代」のはずだった。

「15年前の08年北京五輪金メダル獲得を子どもの頃に見た世代です。運動能力の高い子の多くが野球を始めました。逆に02年サッカー・ワールドカップ(W杯)の後にはサッカーに好素材が流れた時代もあります」(チェ氏)

しかし、今回の敗退により3大会連続で決勝ラウンドに進めないという結果に。チェ氏はまず、WBCを通じて感じた「世界の野球の変化」を口にする。

「今回のチェコのプレーぶりに注目すべきだと思うんです。アマチュアがほとんどの国がプロリーグのある中国に勝った。彼らは予選をほぼ自国リーグの選手で戦い、本大会で加わったメンバーもアメリカでマイナー経験がある程度。他グループに入った欧州圏の強豪イタリア、オランダといった国とは違うんです。これらの国はメジャーリーガーが自国代表に選ばれて力を発揮していますから」

チェ氏が「思ったよりよく戦った」というチェコ
チェ氏が「思ったよりよく戦った」というチェコ写真:CTK Photo/アフロ

つまり、かつてのような「プロ選手の多い強豪国」と「それ以外」の格差が無くなる傾向を感じたのだという。

では今回のチェコには何があったのか。

「アメリカ野球の指導をかなり受けていたということです。大会前の合宿から、アメリカの理論を伝えるセミナーをかなり開いていたといいます。たとえば『短期決戦でのコンディション調整法』といった点です。アメリカは競技力のみならず、大学でのスポーツ科学研究も発展していますから」

昨年のサッカーW杯では、かつて欧州・南米に歯が立たなかったアジア勢が躍進を見せた。世界トップの指導・戦術理論が今や即座に浸透する時代になった点も大きな理由だ。それと同じく、野球でもアメリカの指導理論が伝達していき、チェコのような国内リーグ選手主体のチームも健闘できる時代になった。チェ氏はそう見ている。

「指導者」に日韓の決定的な差が生まれる構造

では、韓国はこういった流れからどう遅れているのか。韓国スポーツ界の育成現場では2010年前後から、サッカーを皮切りに「少数選手を勉強させずに運動ばかりさせて厳しく鍛え上げる」という制度はなくなった。現在は野球部の学生も必ず授業に出席させるという法律がある。「先進的になった」ようにも見えるが、チェ氏は上の世代である指導者に残る影響を指摘する。

「指導者の世代はまだ『学校の教科書をロクに読んだことがない』という時代の悪影響が残っています。つまりはアメリカなどの理論を学ばず『俺についてこい』『言うことを聞いておけばいい』といった指導を続けている。選手の想像力が育たないから、成長しない傾向があります」

北京五輪優勝も今は昔…
北京五輪優勝も今は昔…写真:アフロスポーツ

それが最も顕著に表れているのが「投手の球速が全般的にレベルアップしない」点だという。チェ氏は日本との比較を交えつつ説明する。

「日本にはメジャーの理論を学んでいる指導者が多い印象です。千葉ロッテで佐々木朗希を育てたヨシイ(吉井理人=筑波大学大学院で体育学の修士号も取得)、横浜のサイトウ(斎藤隆=引退後パドレスの顧問として育成にも携わる)などです。かつては『投手にウエートトレーニングをやらせない』など保守的な傾向も見られた日本球団が近年大きく変わり、投手の球速もアップしている印象です」

今回の日韓戦でもその差が出た。チェ氏は韓国投手陣の様子をこう見ていた。

「ピッチャーは、バッターのスイングスピードを見て"自分の球速ではバットに当てられる"ということが分かるといいます。日本戦でのマウンド上の韓国投手も総じて焦っている様子でした。それが分かっていたのではないか、と見ています」

チェ氏はかつて04年から11年まで日本球界でも活躍したイ・スンヨプ(現斗山監督)に「韓国と日本の野球の違いは何か」と聞いたことがあるという。答えはこうだった。

「打球の速さ」

日本は韓国に比べ、速球に合わせる打球が速いということだ。

いっぽう、韓国国内リーグの投手の球速に慣れた打者は速い球を打ち返せない。すると選手の素材は良くともレベルアップしないという悪循環に陥っている。

韓国最大の通信社「聯合ニュース」は今回のWBCでの自国敗退について「韓国野球、東京大惨事……国際競争力のない内需種目に墜落」と報じた。国内での人気ナンバーワンスポーツの大きな危機、という論調だ。国内ではすでに指導者の問題に気づき、プロ球団主導で指導者アカデミーが開催されているという。

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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