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「サッカーと統一教会」 07年、浦和レッズはACL準決勝で"そのチーム"と戦っていた

写真は2010年のACL時。胸スポンサーは一和の代表的商品「メッコール」(写真:ロイター/アフロ)

きょう、ACL(アジア・チャンピオンズリーグ)準決勝で、浦和レッズが韓国の全北現代モータースと対戦する。

レッズが戦った韓国勢とのACL準決勝。

そのキーワードで思い出すのが、07年10月24日の城南一和戦だ。

準決勝第2レグだった。ワシントン、ポンテ、田中達也、長谷部誠、田中マルクス闘莉王らがいたチームは、3週間前のファーストレグ(アウェー)では2-2で引き分け。

セカンドレグも120分を戦って2-2のスコアだった。まさに当時韓国で最強を誇ったチームとの「がっぷり四つ」の戦い。

その後のPK戦はもはや伝説だ。PKが行われたホームサポータースタンド側にスタジアム中の大旗が集結。相手のキック時にはこれを大きく揺らし、プレッシャーをかけた。5-3での勝利。

当時、韓国勢は2000年代に入り、7年間でじつに5チームが決勝進出うち3度の優勝を果たしていた「黄金期」だった。これを阻止する歴史的勝利でもあった。

その時の対戦相手、城南一和が統一教会系だった。

07年4月のACLでの城南一和。14番は25日に浦和と対戦する全北キム・サンシク監督の現役時代
07年4月のACLでの城南一和。14番は25日に浦和と対戦する全北キム・サンシク監督の現役時代写真:ロイター/アフロ

「一和」は系列の食品会社。経営母体は同じく系列の「統一スポーツ」だった。両者は全盛期には韓国でトップ30前後の経営規模に位置した「統一グループ」に属する。

何より、韓国で制作された「ILHWA CHUNMA SOCCER TEAM 1989~1998(一般流通せず)」には、はっきりと「Founder(設立者)」として文鮮明氏が紹介されている。

日々、統一教会関連のニュースが多く報じられるなか、韓国での「教団とスポーツとの関わり」を紹介するにもよい機会だ。振り返りを。

「ILHWA CHUNMA SOCCER TEAM 1989~1998」より。左下に「Founder」の表記が
「ILHWA CHUNMA SOCCER TEAM 1989~1998」より。左下に「Founder」の表記が

※韓国では1997年の教団名称変更後も「教義に変更がない」として一般的に「統一教」と報じられています。本稿でもそれに倣い「統一教会」と表記します。

「文鮮明総裁はサッカー好きで…」

城南一和天馬。

現地音を日本語表記するなら「ソンナム・イルァ・チョンマ」が一番近い。「ソンナム」がホームタウン名、「イルァ」は企業名「一和」の韓国語読み。日本では「イルファ」とも呼ばれてきた。「チョンマ」はペガサスを意味するニックネームだったが、韓国社会では、これはほとんどこれは認知されていなかった。

なにせ、90年代、00年代には韓国サッカー界の「1強」チームとして名を馳せた。ちょうど現在の(今日レッズと対戦する)全北現代のようなものだ。

1993年~95年、01年~03年の2度の3連覇を含む7度の国内リーグ優勝。95、2010年にはACLを制覇。96年にはAFC選定年間最優秀クラブ賞も受賞した。90年代の全盛期にはソウルにホームタウンを置き、一時代を築いた強豪チームだ。

で、その強さと宗教は関係があったのか?

あった。

90年から00年まで、一時のフランスレンタル時期を除いて「一和」「城南一和」でプレーした元韓国代表、イ・サンユン氏が2018年に地上波「MBC」に出演した際、こんな発言をしている。

「文鮮明総裁はかなりのサッカー好きでした。選手への待遇がものすごかった。僕がよく覚えているのはボーナスです。自分自身も優勝ボーナスを2~3000万ウォン(約2~300万円)もらいましたし、当時のキャプテンは1億ウォン(約1000万円)もらっていたと聞きます。その他にも欧州旅行をプレゼントしてくれたり、ということがありました」

トップダウンで資金が捻出される。浦和レッズが対戦した当時のチームは、じつに7人に韓国代表歴があった。それ以前の01年から03年までの3連覇時には当時、銀河系といわれたレアル・マドリードに比喩されるほどのスター選手を揃えた。代表で実績のあった李東国、尹晶煥といった選手が出場機会を失い、新天地を求めるほどだったのだ。

強いのに不人気… 

しかしはっきり言って「人気がなかった」。

筆者は90年代後半から韓国でのサポーターのムーブメントの勃興と発展をつぶさに見てきたが、ついぞ「俺は城南一和サポーター」と名乗り出る人を目にしたことがなかった。80年代には「タフに戦うスタイルが好き」というファンもいたというのだが。

いっぽう、韓国サポーターの間では「ACLの日本とのアウェーゲームでは観客が何故か増える"マジック"がある」という噂も。日本の信者が熱心にスタンドに詰めかける、という意味だった。

なんだかちょっと、雰囲気的に「ちょっと違うな」ところがある、というイメージだった。ただ、じつは不人気の理由は「宗教のせい」というより、「クラブのマーケティング意識不足」という指摘が当時から多かった。

確かに、チーム演出は決して洒落ていなかった。2度の3連覇時の監督(パク・ジョンファン、チャ・ギョンボク)は、スター選手出身ではなく「叩き上げ」。厳格なスタイルで知られた。チームの雰囲気もピリピリしており、筆者は03年のA3チャンピオンズカップ前に取材に行くと「スパイ、帰れ」とまで言われたこともあった。

95年には、欧州クラブへの移籍がほぼ決まりかけていた当時のスター高正云について「金額条件が安すぎて、彼のイメージが傷つく」という「独特な判断」があり、なんと直前ですべてご破断に。

ビジュアル面でもあまりこだわりがなかったようだ。2010年10月20日に行われたACL準決勝アル・シャバブ(サウジアラビア)戦で突如それまで紺色を着用していたパンツとソックスを赤に変更した。この大会で唯一勝ち残った韓国チームだったため、「国を表す」という意図だったが、メーカーの既製品をそのまま使用したのか、シャツとのデザイン整合性があまりなかった。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

いっぽう当時の城南は首都圏にあるチームで、ギャラが良かったから選手は集まった。しかしその人気のなさもあってか、2010年頃からポツポツと他チームに移る選手も出始めた。人気チーム水原三星に移った某選手がこんなことを言っていたことがある。

「正直言って、ずっと他のクラブの人気が羨ましかった」

選手からは決して「宗教が云々」という話は出てこない。

ホームタウンとの幾度かの摩擦

一方で露骨に「嫌った」のは、ホームタウン側だった。

80年代の黄金期にはソウルに複数のチームがあり、本拠地の問題は起きなかった。

しかし1996年のKリーグ連盟の「一極集中するソウルに本拠地を置かせない」という方針に沿い、忠清南道の天安(チョナン)市に拠点を移した。

そこでは市長から「特定の宗教団体のチーム」として徹底的に嫌われた。当時、ホームスタジアムに照明がなかったが、市側はこの設置にすら消極的。平日の昼にホームゲームを行っていた。

00年、チームはソウル郊外の城南市(人口99万)に移転した。国内有数の新興高級住宅地「盆唐(プンダン)」もあるおしゃれな場所だ。

ここでも結局、本拠地の市民から反感を買った。ただ、この理由がいかにも韓国っぽい。

「カトリック信者が多い土地柄なのに、なんで統一教会のチームが?」

日本のように「社会問題を起こしたから」という話ではない。

キリスト教信者の人口比は、日本は約0.8%だが韓国は約29%。日本よりはるかにキリスト教信者が多いお国柄にあって、それは「宗派の争い」なのだ。韓国では「統一教会のトラブル」と言えば「90年代に文鮮明氏が北朝鮮の金日成氏と面会した前後のゴタゴタ」であり、献金・霊感商法の問題は「日本で起きた出来事」という認識がある’。

名選手や監督に「罪なし」

ただし、この点ははっきりと記しておきたい部分だ。

選手や監督が「統一教会系チーム所属だから」という理由で、あれこれ言われることはない。前出のイ・サンユン氏は「クラブスタッフや選手には一切宗教的なものは強要されなかった」。むしろクラブ内では「宗教性は存在しないもの」として考えられていたという。韓国にはかつて、1983年のKリーグ初年度にカトリック系チーム「ハレルヤ」が存在したが、クラブは布教を目的としていた。そことは明確な違いがあった。

元セレッソ大阪の高正云は03年に引退後、教団系列の鮮文(ソンムン)大学で監督のキャリアをスタートした。これは現役時代(セレッソに来る前)には一和で活躍した縁からだ。だからといって彼が「教団関係者」という話にはならない。

韓国代表監督も輩出した。

2021年の東京五輪代表監督は、00年代の3連覇時、ヘッドコーチとして実質的なタクトを振ったキム・ハクボム氏だった。

2018年ロシアW杯代表監督のシン・テヨンも「一和」の出身だ。ロシアの地ではグループリーグ最終節のドイツ戦に勝利。退任後の「韓国代表ブーム」の火付け役にもなった。

シン・テヨン元韓国代表監督。2017年のE-1選手権時に。筆者撮影
シン・テヨン元韓国代表監督。2017年のE-1選手権時に。筆者撮影

現役時代を通じ、一和・城南一和でプレー。監督としても2010年のアジアチャンピオンズリーグ優勝に貢献した。

彼のイメージは「現役時代にスゴかったんだが、不人気クラブだったんでちょっと不憫だな」といったところだが、指導者としては成功した。リオ五輪代表監督を経てのW杯での指揮は国内で高い評価を得た証だ。ちなみに彼は熱心な仏教信者でもあるという。

そういった人材にとっての統一教会とは、宗教よりも「一財閥との付き合い」というイメージが強い。

さらに言うなら、2014年までドラフト入団制が敷かれていたKリーグにあっては、指名されればそこに入団するということが決まりだったのだ。前出のイ・サンユン氏もドラフト1位指名で一和に入団。「終わったな」と思ったという。なぜか。当時のパク・ジョンファン監督が厳格さで知られたからだ。

現在は「市民クラブ」に転換

現在、その城南一和は2014年から「城南FC」と名を変え、市民クラブとしてKリーグ1(1部)に所属する。

2012年、初代教祖の文鮮明氏が死去後にチームは1年だけ3男のムン・ヒョンジン氏が引き継いだが、経営にあまり興味がなかったのかチームを売却。城南市長がオーナーとなる市民クラブとなった。初代監督には前出のキム・ハクボム氏を迎え、「伝統を引き継ぐ」という柔軟な姿勢も見せた。

2022年の8月、この「城南FC」にチーム身売りの話が出ている。市長がオーナーの市民クラブだけに、政界主導の決定がなされようとしているのだ。国内サッカーファンから大きな反発が出ている。結果的には「教団=財閥がなければクラブは成立し得ないのか」。そういった問いも投げかけている話題だ。

2021年シーズンの城南FC。ユニフォームカラーは黒に変わった
2021年シーズンの城南FC。ユニフォームカラーは黒に変わった写真:Lee Jae-Won/アフロ

「洒落てはいないが、強い」。そんなイメージだった城南一和。国内リーグ優勝回数(7回)も国内連覇シーズン数(3連覇)も後発のチームに抜かれた。ほかでもない、25日に浦和レッズと対戦する、全北現代だ(9回、5シーズン)。

07年に城南一和と戦った、あの時と同じなのだ。25日にも再び韓国最強チームが、埼スタの応援に恐々としながらも向かってくる。

あの時の再現を、ぜひ。

【参考記事/筆者による】

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吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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