きょう5月15日、Jリーグが29周年を迎える。

1993年にヴェルディ川崎ー横浜マリノス@国立競技場が行われた「誕生日」なのだ。

この日に、ある新設の独立系リーグの話を。

5月2日、3日に開幕節を迎えた「EX.LEAGUE(エクスリーグ)」を取材した。「関東のO-40最高峰リーグ」。いわば「アマチュアですごいおじさんたち」の独立系リーグだ。今年から一般社団法人関東シニアスポーツ普及協議会が運営する。 

EX.LEAGUE開幕説より 筆者撮影
EX.LEAGUE開幕説より 筆者撮影

バチンと、とフィジカルコンタクトをやって倒れる頻度はかなりのものだ。

でも相手に文句は言わない。審判へのアピールはかなりだが。

これだけでも「普通のおじさんたち」とは違うんだな、と感じる。きっとぶつかり慣れているのだ。「これくらいのことはある」という耐性ラインがそのへんの草サッカーより高い。

開幕節の図南SCグランデ(群馬)ーFC西武台(埼玉)の対戦では、試合前の整列時にお菓子が渡された。ペナント交換ではない。高崎市の名店「ガトーフェスタ・ハラダ」のラスクだった。

ああ、やっぱりやはり試合慣れしているんだな、と感じさせる。図南SCグランデは1982年設立の伝統あるクラブのシニア部門。トップチームは関東二部だ。FC西武台は埼玉の強豪西武台高校OBを中心としたチーム。バリバリやってきた層だ。

EX.LEAGUE公式サイトより
EX.LEAGUE公式サイトより

「大人数がJリーグホームタウンで試合」 

おじさんがサッカーをする。それがどうした? しかもなんで「Jリーグの誕生日」にこの話を?

Jリーグが出来て29年。EX.LEAGUEはその歴史のなかで「足りないところを補う」画期的なものなのだ。

1993年5月15日の国立競技場スタンド
1993年5月15日の国立競技場スタンド写真:岡沢克郎/アフロ

全9チームが集い、既存の各都道府県リーグやJFAの「全日本O-40サッカー大会」などの合間を縫いつつ、週末を使って集中開催のリーグを行う。開催地は関東エリア内を移っていく予定。リーグ運営側は「できる限りJリーグのホームタウンで」と希望している。

ここが話の重要なポイントだ。

5月3日、4日の開幕節は茨城県鹿嶋市にて「アントラーズホームタウンDMO」の協力を得て開催された。J1鹿島のホームタウンで「スポーツツーリズムを核とした地域活性化をめざす」べく2018年1月に設立された一般社団法人だ。

EX.LEAGUE開幕説の様子。筆者撮影
EX.LEAGUE開幕説の様子。筆者撮影

EX.LEAGUEの全チームが鹿嶋に集って、メンバーや家族の多くがそこに宿泊して、現地のものを食べ、最大4試合を戦いつつ、1日めの試合後にはJ1リーグ第11節アントラーズージュビロも観戦した。

何より、試合はカシマスタジアムサブグラウンド(天然芝)などを使用して行われたのだ。それも「アントラーズホームタウンDMO」が手配した地元審判員のジャッジの下で。

開会式もアントラーズのクラブハウス敷地で行われた 筆者撮影
開会式もアントラーズのクラブハウス敷地で行われた 筆者撮影

思い出そう 29年前の「Jリーグの基本理念」

なんだ、上手いアマチュアが特権を使っていい思いしてるのか?

そういう話でもない。今回の開幕節、一般社団法人「アントラーズホームタウンDMO」に料金を払って受けた「サービス」でもある。

ここもまた重要。

Jリーグクラブに「トップチームが勝つ喜び」以外のサービスが生まれる、ということなのだ。

これ、29年前からの課題だ。

5月15日はせっかくの「記念日」だ。1993年に打ち出された"かの"Jリーグ理念のうち、「活動方針」の引用を。

Jリーグ活動方針

1.フェアで魅力的な試合を行うことで、地域の人々に夢と楽しみを提供します。

2.自治体・ファン・サポーターの理解・協力を仰ぎながら、世界に誇れる、安全で快適なスタジアム環境を確立していきます。

1993年5月15日の歴史的開幕戦の様子
1993年5月15日の歴史的開幕戦の様子写真:岡沢克郎/アフロ

フェアで魅力的、とはほぼイコール「勝利」のこと。「安全なスタジアム」とは運営面の大きな課題だ。

実際のところ、この1と2でクラブ側は手一杯だ。勝つ。スポンサーを集める。グッズを売る。滞りなく試合を運営すること。

それゆえ3から6は、30年経ってもあまり実現できていない。「スポーツをやる機会を増やす」というものだ。筆者自身東京で草サッカーを続けているが、「リーグクラブがあるおかげで、楽しくプレーする機会が増えた」という直接的な経験はこの29年で一度あっただけだ。というか、以下の基本理念も、もはや忘れられているものではないか。

3. 地域の人々にJクラブをより身近に感じていただくため、クラブ施設を開放したり、選手や指導者が地域の人々と交流を深める場や機会をつくっていきます。

4.フットサルを、家族や地域で気軽に楽しめるようなシステムを構築しながら普及していきます。

5.サッカーだけでなく、他のスポーツにも気軽に参加できるような機会も多くつくっていきます。

6.障がいを持つ人も一緒に楽しめるスポーツのシステムをつくっていきます。

リーグ側は開幕後数年で「とっくに」現場が1と2ばかりを追っていることに気づいていた。

その証が96年の開幕前に追って打ち出された「百年構想」だ。当時の川渕三郎チェアマンが「もっと理念の実現を」と強く感じ、作成されたものだという。

Jリーグ百年構想

あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること。

サッカーに限らず、あなたがやりたい競技を楽しめるスポーツクラブをつくること。

「観る」「する」「参加する」。スポーツを通して世代を超えた触れ合いの輪を広げること。

うーん、これもあまり実感がない。Jリーグクラブの誕生により、一般の人たちも体を動かすことを楽しめるようにと謳っているのだが。

これ、ドイツのスポーツクラブ網をイメージしたものだ。1810年代から200余年をかけて9万クラブが誕生し、全人口の3分の1にあたる2700万人がサッカー以外の種目も楽しんでいる。

ドイツのクラブでの風景。06年のケルンにて。筆者撮影。
ドイツのクラブでの風景。06年のケルンにて。筆者撮影。

ただし、だ。実際のところ本場ドイツではプロクラブが「する場を」広く支えているわけではない。支えているのは小さくて自治的な街クラブだ。基本的にはどのクラブにもホームグランド、クラブハウス、ロッカールームがある。

しかし日本で人口の3分の1をカバーするクラブ網の完成などを待っていても埒が明かない。だから川渕氏は「見切り発車」といって、プロクラブにその機能を持たせようとしたのだ。

「やる場の提供」 クラブが新たに提供できる「サービス」

では、なぜ理念が実施されないのか。単純だ。

「儲からないから」

夢だけじゃ食えないということだ。スポーツをする場を増やす、という取り組みは後回し。

29年間でクラブ数は10カラ57までに増えた。「拠点を増やす」という考えのもとに拡張路線を歩んだのだ。しかし特に地方のクラブはマンパワー不足で「当座のホームゲームを運営することに手一杯」といった話も伝え聞く。

でも実は、クラブ側が「する」「参加する」環境を整えること、そのためにクラブ施設を開放していくことは収益に繋がりうるのではないか。

なぜなら「トップチームの勝利(これによる喜び)というサービス以外に"サンキュー"と思われる要素を増やすこと」につながるのだ。その後に「試合をぜひ試合観戦を」と訴求する。これはとてもよい方法なのだ。

この「市場」を開拓するのが「EX.LEAGUE」の取り組みの一つでもある。

"クラブがアマチュアのリーグ戦を『誘致』する"

真剣勝負の場(インフラ)、審判を準備する。会場準備の負担を減らす。ちょっとプロクラブの風格や権威も感じてもらう。これがプロクラブが提供できる「サービス」。

単発の試合ではなく、リーグなら大人数と接することもできる。

サッカーをやりたい人がいる。サッカーを見せたいクラブがある。

そこを繋ぐこと。そういう話だ。あるいは「クラブが非公式リーグを運営」して、そこのお客さん(選手や家族)を"囲う"方法もよいとも思うのだが。

カシマスタジアムの横でのEX.LEAGUE開幕節 筆者撮影
カシマスタジアムの横でのEX.LEAGUE開幕節 筆者撮影

「ドイツのようにはいかない」からこそ!

筆者自身の個人的な経験からも、この点を強く訴えたい。

2005-06シーズンに31歳にしてドイツの10部リーグのチームに所属し、現地の「クラブ」というものに触れた。本場のクラブに年間120ユーロ(約1万6000円)の会費を支払って受けたサービスは「スポーツをする場を与えられる」「選手気分を味わえる」というものだった。下手なりに真剣勝負があって、ホーム&アウェーがあって、重要な試合にはクラブスタッフがロッカーにユニフォームをかけてくれた。ほんとに小さな「ダービーマッチ」に出場し、時に木曜日くらいから「アウェーゲームいやだな」と不安になった感情など、人生最高の経験だ。"青春時代"より青春。ぜんぜんその会費は惜しくない。

14番が筆者。ドイツ・ケルンのDJKSuedWestにて クラブ提供。
14番が筆者。ドイツ・ケルンのDJKSuedWestにて クラブ提供。

でも日本でドイツのような9万もの街クラブ網の完成など待っていられない。現に29年経ってもあまり状況は変わっていない。

EX.LEAGUEの取り組みはこのギャップを埋めるものだ。リーグ代表者の田中洋介氏はいう。

「真剣勝負の場を持っていただく。これは"楽しみ"の提供です。それを感じていただくためにも、今後もJリーグの"近く"でやらせていただきたい。そういう希望を持っています。『大人数でJリーグのホームタウンを訪れたいな』と。今回は選手のお子さんたちののサッカー教室も実施して、ご家族にも楽しんでいただきました。今はアマチュアのトップで実践していますが、これをどんどん草の根のプレーヤー層にも広めていきたいですね」

話が長くなった。本稿、「これ、もっとやってみませんか」という提案だ。パパのサッカープレーヤーに向け、Jリーグクラブはこう訴えてみるのはどうか。

「サッカーの真剣勝負、楽しんでいただきましたね。ではそのままぜひJリーグに。ご家族との時間を損なわないためのケアもいたします」。なんならごそっとまとめてバスでスタジアムまでお送り、というのは採算が合わないか。

29年に目指したドイツの絵がないことを嘆いても仕方ない。まずはできそうなことから。

各地域にも「パラパラっとボールを蹴ってる草サッカー選手」がいっぱいいる。そこにリーグの場を提供して、サービスして、その後試合を観に来てもらう。遠回りの面もあるが、クラブにとっては確実性の高い「新規開拓」になるのでは? 理念に沿って利益(コーディネーションフィー)も追求。サービスの幅を広げて、たくさん「ありがとう」と思ってもらう。そしてJリーグも観に来てもらう。そういう提案だ。

Ex.LEAGUE開幕節にて。試合前のウォーミングアップをFC西武台。背景にはカシマスタジアム。筆者撮影。
Ex.LEAGUE開幕節にて。試合前のウォーミングアップをFC西武台。背景にはカシマスタジアム。筆者撮影。

(了)