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どっちがキツい? 韓国大統領選 候補夫人スキャンダル対決にも関心「暴言vsこき使い」

尹候補夫人キム・ゴニ氏(左)、李候補夫人キム・ヘギョン氏(右)。ともに公式より

どの媒体も「決定」とは報じず

「もう勝負あり」「政権交代」

そうも見えるのだが。

9日に投票日を迎える韓国大統領選挙。

事前投票が始まる直前の3日に野党の一本化が決定。これまでの複数の世論調査の結果、2大候補に次ぐ第3の候補とされてきた安哲秀(アン・チョルス)氏が出馬を取りやめ、保守系野党の尹錫悦(ユン・ソンリョル)陣営への合流を決めたのだ。

これは「歴史的大混戦」と言われてきた今回の大統領選挙で国内で最大のポイントと言われていた点だ。

単純な話だ。直近の世論調査(一本化直前)の支持率は「李在明(イ・ジェミョン)38%:尹39%:安12%」と競り合うなか、そのうち「12%」が野党陣営についたのだ。データは世論調査会社「韓国ギャラップ」の結果を4日に韓国各メディアが報じた。

TV討論会での4候補
TV討論会での4候補写真:ロイター/アフロ

しかし、しかし、しかし、だ。

この根拠となる「支持率」にちょっと日本と違う事情がある。

乱立。

韓国には政府の行政機関「中央選挙管理委員会」内に「中央選挙世論調査審議委員会」なるものが存在する。メディアや世論調査会社は実施したデータをそこに申請し、審査を通してこそ結果を発表できる。3月3日だけでも、そこに登録された世論調査結果は…じつに14件もあった。

つまり玉石混交なわけで、1月には「同じ日に発表された2つの別の調査結果で一方は尹が大きくリード、もう一方は李が大きくリード」といった事態もあった。不確かな面もある。

写真:ロイター/アフロ

そんななか、3日の有力経済紙「毎日経済」はある「世論調査の見方」を示した。

「投票日1ヶ月前の結果を見よ」

1992年の第14代大統領選挙以降、この時点の調査結果ががそのまま選挙結果になった回数が「5/6」なのだという。

つまり83.3%の確率で的中する。例外は02年の金大中大統領当選時だ。この時の「韓国ギャラップ」社の1ヶ月前の結果は「革新系25%、革新系第2候補25%、保守系32%だった。

しかしこの後「革新系の25%同士(盧武鉉候補と鄭夢準候補)」が一本化。結果、本番では逆転して盧武鉉大統領の誕生となった。

2022年の今回も選挙日6日前の一本化…つまり「6回のうちの唯一の例外」と同じことが起きている。

結局は「まだまだ分からない」ということだ。ちなみに今回、1ヶ月前の結果は「李39.5%:尹44.8%」となっている。「マネートゥデイ」が「韓国ギャラップ」に依頼した調査なのだが、これをはっきりと「毎日経済」が報じず、「中央選挙管理委員会サイトを参照」としている。「自信のなさ」の現れか…。

歴史的「不人気対決」

要は浮動票をどう掴むか、という話でもある。直近の「韓国ギャラップ」の世論調査では回答者の14%が「支持政党なし」と応えた。

革新与党系の李在明候補。

保守野党系の尹錫悦候補。

両候補のうち、どちらに投票するか決めていない「MZ世代」。つまりは20代・30代の若者たち。日本よりは政治への参加意識が高く、就職や不動産(家)購入などへの問題意識が強い。それでもどちらの候補に入れるか決められない。

今回の大統領選はこの点も話題になっている。

「どちらもイヤ」

歴史的な不人気候補同士の争いとも言われている。

元京畿道知事の李在明候補は経済的に豊かではない家庭に育ち、高校・大学に通えなかった。少年工として働きながら、いわゆる「大検」の資格を取得。1986年中央大学校修士課程法学科を卒業して、司法試験合格し、さらに1989年に研修を修了し弁護士となった。06年に国会議員初出馬後、2度の落選を経て、2010年に京畿道城南市長として初当選を果たした。

写真:ロイター/アフロ

苦労の人には、スキャンダルが絶えない。知事時代のお膝元、城南市の土地不正買収疑惑では当事者の一人が急死した。そのほか女優との不倫疑惑、公職選挙法違反、職権乱用、殺人犯の甥の弁護、飲酒運転、息子の不法賭博など。演説などでの話っぷりは「強い言いっぷり」が魅力の反面「ちょっと偉そう」。

いっぽうの尹錫悦候補は、かつて検察総長として「朴槿恵の弾劾につながる政治不正を担当」し、2017年の政権交代後は「文在寅大統領と戦った」という”キャラ”は立っている。長年、政権にあった保守政党の「国民の力」が「徹底的に変わりたい」という願望から白羽の矢が立った。

写真:ロイター/アフロ

しかし政治家経験がなく、キャラばかりでは大統領職は不安に見える。その話っぷりは近頃でこそ良くはなっているものの、当初はしどろもどろで失言も続いた。何より会話の間に「アー」という吐息のようなものが耳障り。スタッフが指摘できないのか? そんな印象だ。

候補夫人対決 保守野党は「美魔女系」

「どちらがいいか」ではなく、「どっちがマシか」もしくは「どっちが嫌じゃないか」。

確固たる支持政党・候補者を決めていない層は、極端にいうとそんな選択を迫られることになる。

イメージで決まる。この点で、昨年末から韓国でも度々”変数”として囁かれきた点がある。

「夫人の印象度対決」

候補本人のみならず、両陣営の候補夫人のキャラが猛烈なのだ。なかなか日本では見られなさそうな風景だ。

12月中旬から1月にかけて、保守系野党候補尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏の夫人、キム・ゴニ氏の「履歴詐称」が大きく騒がれた。大統領候補より12歳若い”美魔女系”として知られてきたが…

メディアの調査などにより「アート、教育系に強いコンテンツ制作会社社長」の”化けの皮”が剥がれた。高校、大学での教員歴のウソ、ソウル大大学院卒業歴は学部に偽りがあった。その他、外国車ディーラー企業の株式不正取引による操作を受けた履歴、そして…過去に接待系飲食店で「ジュリ」という名前では働いていた疑惑まで…。キム・ゴニ氏は12月26日に謝罪会見を開いた。

さらに彼女には1月16日に驚くべき事態が起きた。

「敵陣メディアとの電話通話内容を暴露される」

革新系のYouTubeメディアの記者と親しくなり、あれこれと雑談していた内容をバラされたのだ。

「革新系は金がないでしょ?」「バカな人達は革新系が朴槿恵政権を倒したと思っているけど実態は(身内の)保守系が弾劾した」「引退して早く楽に暮らしたかった」「政党側は本当は私達なんか候補に立てたくなかったはず」「(夫が検事総長時代に対立した)チョ・グクがじっとしてりゃ、こんなことにならなかったのよ」

大統領夫人にふさわしくない、と猛烈な批判を浴びたが、逆に「潔い」「事実を言っている」と非公式ファンクラブ会員が激増するという珍現象も起きた。

革新系与党は「一見柔和」だが…

いっぽう「地味」「柔和」に振る舞ってきた革新系与党候補夫人にも「猛烈ネタ」で叩かれてきた。

李在明候補のキム・ヘギョン夫人による「こき使い疑惑」&「法人カード私費流用問題」だ。その”女帝ぶりにこんなニックネームがつけられている。

「ヘギョン宮(きゅう)」

1966年10月生まれの55歳。淑明女子大學校ピアノ学科を卒業後、91年李在明氏と結婚。京畿道城南市長、京畿道知事などを務めてきた配偶者とともに歩んできた。

最初の「スキャンダル発覚」は今回の選挙前に遡る。

2018年の「Twitter疑惑」だ。

夫の前々職、ソウル近郊の城南市市長時代(2013年頃)に「李在明支持者」という設定の"08__hkkim"というアカウントにてツイートを開始したという疑惑だ。

そこで繰り広げられた同じ革新系、文在寅への批判が猛烈だった。

「(朴槿恵政権への介入スキャンダルが騒がれた)チェ・スンシルが(名門の)梨花女子大に入学した点の何が問題なの? 文在寅の息子はまだ雇用情報院(公務員職)に通っているの? お辞めになったでしょ? 銀のスプーンを持って生まれてきてよかったわね」(2016年10月)

「文候補が大統領になったら必ず盧武鉉大統領みたいになる(公平を謳いながら経済格差が広がる)から見ときましょうよ」(2016年12月、翌年の大統領選を控えて)

2018年、地上波MBCが「李在明氏夫人の投稿ではないか」と噂されている点を問題提起した。その後の捜査で、メールアドレス、携帯番号、居住地、プロフィール上の専攻、子どもの数などまで一致したが…結局警察は「本人」と断定したものの、検察は「断定できず」の結論で終わったものだ。

いずれにせよ、「熱烈支持者」がここまで叩けるのだから、李在明候補と文在寅大統領とは超絶な不仲。この点は確かなようだ。2人は2017年大統領選で党からの候補者選出を巡って直接対決した経緯がある。

また今年の1月28日には「SBS」の報道により「夫の京畿道知事時代の公務員こき使い疑惑」が浮上した。

道庁の契約職にあるペ・ソヒョン氏らがリークし、発覚したもの。その内容もまた、猛烈だ。

「薬の処方を代わりに受けさせる」「食べ物のデリバリー」「下着や靴下の整理」「入院していた息子の退院処理代行」「キム氏の親戚筋への”お中元”発送」「キム氏の墓参りの準備」…のみならず「車の前を通り過ぎた際に挨拶がないと”忠誠心が足りない”と叱咤した」という話も。さらにこの告発でキム氏が「道庁の法人クレジットカードを私的に利用」という話まで出てきて…

結局、2月9日に党本部にて謝罪会見を行うハメに。

「昔から知った仲だったが、公私の区別が出来ていなかった」と発言した。

保守系メディアはもちろんこの件に強く反応した。「民主党はずっと市民運動を戦ってきた際のマインドを忘れてしまったのか」。

結局、2大候補夫人が2021年12月下旬、2022年2月上旬の約1ヶ月半の間に公式謝罪するという「異例」の展開なのだ。

2月4日に候補本人が集まった第1回テレビ討論会では、2候補はお互い夫人の問題にツッコミを入れず。尹錫悦陣営も「与党系陣営の疑惑に関し、通話記録を保有している」としたため、双方黙っていたのだ。

情報の握り合いから、リークの泥仕合。まるで韓流ドラマの世界。

「チョイ悪」そうな夫人が、耳を疑うような暴言を吐きまくる。

「一見清らかそうな」夫人が、裏でセコく、エグい行為を働く。

どっちが嫌ですか?

そういうことが結果を決めてしまいそうな大統領選でもあるのだ。3月3日には「国民日報」がなんと「両候補の”夫人リスク”どちらが大きい?」という世論調査の結果を発表。

尹錫悦(キム・ゴニ夫人)が43%、李在明(キム・ヘギョン夫人)が41.1%とここでも僅差なのだ…。

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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