「メキシコ相手には決して守備的なゲームプランは立てなかった。6失点というのは実感がまだ沸かない。結果は選手の能力のせいではなく、すべては戦略を立てた監督の責任」

韓国U-24代表のキム・ハクボム監督は力なく語った。7月31日に東京五輪男子サッカー準々決勝メキシコ戦を戦ったチームが3-6の大敗を喫した後のことだ。

これにより、メダル獲得に与えられた徴兵免除も得られず、また盛り上がりに欠けた大会前にメディアが期待していた日本戦の実現もなく、大会を去ることに。

試合後、自国メディアは猛烈な批判を展開した。

「横浜の悲劇」(スポーツソウル)

「6ゴール許して、帰りの荷物をパッケージ。1964年オリンピック以降最多失点」(中央日報)

「悲劇」とは今年3月にA代表が同じ横浜で日本に0-3で敗れた試合が「横浜の大惨事」と呼ばれる点をもじっていると思われる。同じ場所で大きな敗戦を喫したのだと。

また試合のライブ中継を行ったポータルサイト「NAVER」には「最大視聴数」が900万を超える注目を集めたが、ここにはより辛辣な言葉が寄せられた。

「これ、サッカーなの?」

「行け行け徴兵に」

「なんで野球よりも点が入ってんだよ(同日に行われた野球の韓国―アメリカ戦は2-4だった)

写真:ロイター/アフロ

守備陣が大崩壊

では、なんでそんなことに? メダルを狙った韓国は、メキシコに6ゴールを許したのか。

試合前日、キム・ハクボム監督は準々決勝の対戦チームについて「(A組から勝ち上がってきた)日本でもメキシコでも関係ないと考えている」と口にした。

メキシコに対する自信もあった。過去のオリンピックでの対戦相手は5戦で3勝2敗。リオ五輪のグループリーグでも勝利している。また、前日の練習ではオーバーエイジのパク・ジスが「軍隊でやっていた」という体操をメンバーの前で披露。笑いが起きるなど、雰囲気は決して悪くなかった。

冒頭のキム・ハクボム監督による「攻撃的」とは、2人のボランチの一角を守備的なウォン・ドゥジェから攻撃的なキム・ドンヒョンに替えたこと。韓国側からポゼッションを伺う意図が感じられた。

しかしこれが効果を見せたのは10分過ぎまでだった。

メキシコの左サイド、アレクシス・ベガ(グァダラハラ)に突破を許すようになり、そこからは「相手が目をつぶっていてもやられる」(聯合ニュース)のような形に陥った。

同媒体がその理由に挙げたのが、オーバーエイジとして期待されていたキム・ミンジェ(北京国安)の離脱だった。所属チームの招集への同意が得られなかったのだ。

そのタイミングが最悪だった。

チームが東京に出発する前日の7月17日に交渉を諦めたのだ。替わりに呼ばれたパク・ジス(金泉尚武)は、大会初戦のニュージーランド戦で「初顔合わせ」という状態になってしまった。

結局、欧州移籍も囁かれる大型CBの穴を埋めることは不可能だったのだ。

攻撃は「偏愛」のひずみが…

いっぽう、攻撃陣についてはキム・ハクボム監督の「偏愛」が批判を受けている。

「キム・ハクボム監督の理解できないファン・ウィジョへの希望 結果は大失敗」(OSEN)

22人のエントリーで、ストライカースタイルはファン・ウィジョ1人のみ。キム監督は、所属チーム(城南)の監督時代の教え子であり、2018年アジア大会優勝の立役者にもなったファンと「心中」した。

これまでこのチームで前線に入っていた、2人のストライカーを最終エントリーでは切り捨てても選んだ道だった。大会前、7月17日のフランスとの親善試合でもポストプレーヤー不在の問題はメディアから指摘されていたが、それでもキム監督は策を打たなかった。ファンはポストプレーヤータイプではないため、初戦のニュージーランド戦では劣勢のDFを前線に上げる一幕もあった。

さらにメキシコ戦では「ファンの後方にA代表経験のある2列目を並べる」という布陣にトライしたものの、これが不発に。

ファンへの偏愛は、チームの看板だった「A代表経験豊富な2列目カルテット」の不調も巻き起こしてしまった。

メキシコ戦で象徴的だったのは、大会前に大きな期待をかけられながら不調だった2列目のオム・ウォンサムの起用だ。キム監督は後半開始から投入したものの、わずか28分間でイ・ガンインと交代するという「失態」があった。フル代表経験もあるオムは大きな期待をかけられていたが、大会期間中でも前線が1トップ、2トップと変化する中で微妙に歯車が狂ったか。

同じく「自慢の2列目カルテット」のなかで、メキシコ戦で2ゴールと気を吐いたイ・ドンギョン(ニュージーランド戦での握手問題でも話題になった)が、「大会での数少ない収穫」と見られているだけに、明暗が分かれるかたちとなった。

イ・ドンギョンはプレー面では評価を高めた
イ・ドンギョンはプレー面では評価を高めた写真:ロイター/アフロ

韓国メディアも指摘しない「問題」とは?

多くの韓国メディアは選手選出の過程で、誤った判断やトラブルに見舞われたことが大きな原因と考えている。

いっぽうで、筆者が感じる点はやはり「欧州組」の存在だ。23歳以下では幼少期にスペインに渡ったイ・ガンイン(バレンシア)のみで、韓国から育ったタレントはゼロ。この点は韓国メディアもあまり報じない点だ。

大会前から韓国のメディアやファンはこの大会での狙いを「アクシデントを起こす」こととしていた。「やはり力は落ちる」という認識があったのだ。

なんとかベスト4にまで行けば、メダル圏への勝負も出来たかもしれない。しかしその道も断たれた。日本との違い、という点で見れば「欧州組の存在」は歴然としている。この世代の育成の構造はどうなっているのか。

ここらあたり、日本の勝ち上がりを見ながら大会中に改めて記したい。(了)

メキシコン戦に臨んだ韓国U-24代表
メキシコン戦に臨んだ韓国U-24代表写真:ロイター/アフロ

サッカーU-24韓国代表|東京五輪メンバー

GK

1. ソン・ボムグン(全北現代) **2017年 U-20W杯

18. アン・ジュンス(釜山アイパーク) **2017年 U-20W杯

22. アン・チャンギ(水原三星)

DF

2.イ・ユヒョン(全北現代)

3. キム・ジェウ(大邱FC)

4. パク・ジス(金泉尚武FC)*オーバーエイジ ***A代表経験者

5. チョン・テウク(大邱FC) **2017年 U-20W杯

12. ソル・ヨンウ(蔚山現代)

13. キム・ジニャ(FCソウル)

MF

6. チョン・スンウォン(大邱FC)

8. イ・ガンイン(バレンシア/スペイン)**2019年 U-20W杯 ***A代表経験者

10. イ・ドンギョン(蔚山現代)***A代表経験者

14. キム・ドンヒョン(江原FC)

15. ウォン・ドゥジェ(蔚山現代)***A代表経験者

19. カン・ユンソン(済州ユナイテッド)

20. イ・サンミン(ソウルイーランド)

21. キム・ジンギュ(釜山アイパーク)

FW

7. クォン・チャンフン(水原三星)*オーバーエイジ ***A代表経験者 

9. ソン・ミンギュ(浦項スティーラーズ)***A代表経験者 

11. イ・ドンジュン(蔚山現代) ***A代表経験者 

16. ファン・ウィジョ(ボルドー/フランス)*オーバーエイジ ***A代表経験者 

17. オム・ウォンサン(光州FC)**2019年 U-20W杯 ***A代表経験者 

※所属クラブ・招集メンバーは2021年7月2日時点のもの

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】