【全容】韓国はなぜ女子バレー選手の「中学校時代の悪さ」に厳しいのか 罰は選手としての”死”となるか

(写真:松尾/アフロスポーツ)

スポーツ界のみならず、韓国の社会全体に衝撃を与えている韓国女子バレー代表選手の”美人双子”の校内暴力事件。

”加害者”とされているのはともに韓国Vリーグの仁川興国生命ピンクスパイダーズでプレーしてきた姉のイ・ジェヨン、妹のダヨンの双子。韓国全羅北道全州市出身、1996年生まれの24歳だ。

(2年前にインタビューに応じる二人。アイドル的な扱いも受けてきた)

2月7日に小学生および中学生時代のチームメイトと思われる人物から「中学校時代に刃物で脅迫されることもあった」「臭いから向こうへ行けなどと言われた」などと告発を受けた。

この日以降本人たちがチームの寮を離れ入院。医療陣は「精神的な安定が必要な状態」としている。謝罪文を発表した後、21日には「自身のSNSアカウント削除した」報じられた。

代表選手として東京五輪出場が確実視される(グループリーグで日本とも対戦することになっている)両選手が「選手生命、事実上アウト」とも言われる事態に。その後韓国内では「校内暴力Me Too」が別の男子バレー選手やプロ野球選手にも及んでいる。

姉のジェヨンがアタッカー、姉のダヨンがセッターのポジションで高校時代から韓国ユース代表の中心選手として活躍。両者は2013年からA代表にも選出されてきた。

2014年のプロ入団時には「ウェーバー制のドラフトでどちらが全体1位の指名を受けるか」が注目を集めた。この時は妹のダヨンが全体1位で仁川興国生命ピンクスパイダーズに入団。姉のジェヨンは2位で水原HYUNDAI建設ヒルステートに指名された。2020年からは姉が妹のいる仁川に移籍し、同じチームでプレーしている。

実力のみならず、”美人姉妹”としても人気があり、インスタグラムのフォロワー32万人を誇ってきた。

10年近く前の出来事がいま暴露された…きっかけは「別件のSNS」

事の発端は7日の「DCインサイド」というサイト内のバレーボール掲示板への書き込みだった。同サイトはもともと国内でのデジタルカメラの売買のサイトが他ジャンルでも使われるようになったものだが、ややマニア向け。影響力は大きくなく、また被害者側の証拠が「卒業写真」のみだったため、信憑性に欠けるとの評価もあった。

それでも、ここでの告発にショックを受けたのか、この段階で妹のダヨンが所属チームを離脱した。

さらに10日にこれがより大きなサイト「nate」への書き込みへと発展していく。ここから”事件"が韓国社会でより知られるようになっていったのだ。

被害者に「より大きな場での告発」を決心させたきっかけが…まったく関係のない別件だった。「突発的」とも言える判断から”告発”が始まったのだ。

それは所属チームの先輩であり、キャプテンのキム・ヨンギョン(09年から11年まで日本のJTマーベラスでプレー経験あり)と妹のイ・ダヨンの感情的な対立だった。

(双子とキム・ヨンギョンの対立を報じる「NEWS1」)

もともと、キム・ヨンギョンの出す指示にイ・ダヨンの不満が溜まりに溜まっていた。そこに2020年12月5日の第3節のGSカルテックス戦での逆転負けという出来事が起きてしまった。

キム・ヨンギョンはその後のインタビューで「どのチームにも起こりうる分裂なので、話し合って解決する」と発言していたが…

しかし、姉妹の怒りが爆発してしまった。SNSにこう書き記したのだ。

苦しめた人は楽しいかもしれないけど

苦しみを受けた人は死にたいのよ…

これを…今回、告発を行った被害者が目にした。強く思うところがあったのだという。そして周囲の勧めに同意し、より大きな掲示板への”告発文”の掲載を決心したのだという。

その文章には21項目の告発内容(本校末尾にすべて掲載)と合わせ、以下の文章が添えられていた。

加害者たちは幸せそうな笑みを浮かべながら様々なTV番組にも出演しています。

苦しめる人は楽しいかもしれないが、苦しみを受けた人は死にたい

という言葉を加害者がアップしていたというんですよね。本人がやってきたことをさっぱり忘れているようです。本人も一事件の加害者でありながら、私たちにちゃんとした謝罪や反省する姿も見せず、逃げるように他の学校に移っていきながら(姉妹は中学校時代に競技のために天候)あんな投稿をするなんて、腹が立つし驚きます。加害者はいったい何を考えて生きてきたのか? 

加害者たちから本気の謝罪を受けたいです。

ショッキング、キャンダラスが重なる事件

ここから冒頭の通り、代表主力選手の選手生命危機などへと繋がっていった。ショッキングで、スキャンダラスな事件だ。

アイドル扱いされていた美人姉妹選手の「刃物での脅迫」「臭いと侮辱した行為」「人間椅子を強いる」といった”闇の顔”がまずスキャンダラス(本校末尾に21の告発の全文あり)。これだけでもイメージ的には大打撃だ。

そしてまったくの別件でのSNS投稿が7年前の出来事の暴露が繋がるというショッキングな展開。

さらに2月7日の時点で選手本人が”失踪”。加えてすぐに所属チームとバレーボール協会が選手に厳しい処罰を下した点もそうだった。前者は「無期の選手資格停止」、後者は「代表チームからの永久除名」や「引退後の指導者活動を認めない」など厳重な処置を下した。海外移籍も認めないとしている。

これによって、韓国女子代表は東京五輪代表の主力メンバーを失うことにもなった。

衝撃度の大きさは、16日に与党「ともに民主党」のイ・ナギョン議員が自身のSNSで意見を発信した点からも分かる。

「有名なバレーボール選手の学生時代の校内暴力事件が国民の怒りを買っている。集団生活を行う学校の運動部での日常化した暴力が再び露呈した」

「国会では昨年、スポーツ界の漫然とした暴力を防ぐために国民体育振興法を改正した。しかし法だけでは不足している。成績至上主義による各種の人権侵害の根を絶たなくてはならない」

二人の姿はすっかり「校内暴力」の見出しとともに報じられるようになってしまった

韓国スポーツ界の20年来の努力も裏切った

それだけではない。

韓国スポーツ界では、03年にソウル郊外の天安初等学校(小学校)サッカー部寮での火災事件(エリート主義が根を張ってきた韓国サッカー界では小学校からの入寮も当時はよくあった)から、徹底的に「外の世界にオープンではない隠蔽体質」「劣悪な環境」「スポーツを楽しめない雰囲気」を正そうとする努力が行われてきた。

サッカーの場合、近年ではKリーグでも監督が選手のミスに対し「死ね、この野郎」という言葉を思わず吐いてしまったケースで、監督が直後に「正しくない言葉遣いがあった」と選手全員の前で謝罪したという話も伝わってくる。

にもかかわらず、地方都市の部活動でこういった出来事が起きていたのだ。まだまだ状況は改善されていないという点が露呈してしまった。

また、日本のように多くの学生たちが部活動に参加できるわけではない。エリート主義の名残があるため「人生の大きな決断としてバレーボールを選んだ」しかし「選手としての成長を妨害された」と考える傾向も強い。

二人の行為は「近年の韓国社会で最も忌避されるもの」

言ってしまえば「技量の高い選手が部内でやりたい放題やっていた」という問題でもある。

韓国と日本では「多くの種目で学校内の部活が選手育成の主舞台であり続けてきた」という共通点もあり、日本のアラフォー、アラフィフ世代でも思い出すこともあるのではないか。

「上手かったけど、性格がエグかったヤツはいたな」

もちろん、暴力や差別の行為は絶対に許されるべきではない。いっぽうで今回の双子バレーボール選手の”告発内容(末尾に全文あり)”は、「刃物を使って脅迫」については事実が立証されたのならはっきりと犯罪だと言えそうだが、告発内容のなかには日本の感覚でいうと「悪さ」とも思える内容も含まれているのではないか。

しかしこれが韓国では「バレーボール代表選手の引退危機」にまで及んでいる。

なぜか。

両選手は近年の韓国社会で最も忌み嫌われる点で大きなマイナスイメージを残してしまったからだ。

「甲質(カプチル)」

甲とは「甲乙」の甲。力が上の者(甲)が下のものを苦しめるという意味。日本では「パワハラ体質」などとよく訳される。

言い換えるなら「支配層への怒り」で、これは日本統治時代からその後の独裁政権時代、はたまたその後のいわゆる「保守層」への怒りへと続く。近年では2010年の財閥「POSCO」の社員による飛行機の客室乗務員暴行事件からこれが社会問題化していった。

この「甲質」の告発の対象は本当に多岐に渡っており、企業間の取引(発注者と納品者の関係)、大企業と中小企業、VIP貴賓の横暴な態度、メディア、公務員や権力機関への血縁採用、コネ入社、正規雇用と非正規雇用、校内暴力、顧客と業者の関係などに及ぶ。

2017年に弾劾裁判で大統領の座を追われた朴槿恵大統領の「チェ・スンシルゲート」の事件は直接的な「甲質」による出来事ではなかったものの、「支配層の横暴」と映った。

その後誕生した革新系の文在寅政権では、これを徹底して是正する期待が持たれた。2018年5月には大統領官邸のサイトに国内大学教授によるこんなコラムが掲載されたほどだ。

「甲質文化、その根と解決法」

この文脈で言うと…今回のイ・ジェヨン、ダヨン両選手の出来事は「最悪」ともいえる背景があった。母親のキム・ギョンヒ氏の存在だ。本人も元バレー選手で、ソウル五輪代表まで登り詰めた存在だ。引退後は指導者として活躍していた。

双子が中学生時代に傍若無人に振る舞った背景には、バレーボールの実力のみならず「母親も元有名選手であり、引退後は指導者として顔を利かせていた」という古い体質が背景にあったのだ。

母キム・ギョンヒ氏の存在も話題となっている。「世界日報」より

2人のファンが反発も…

20日には「朝鮮日報」が両選手のファンがネット上で反発している点を報じた。

「二人を復帰させるべき。その時に周囲の大人に伝えていたら、解決できた問題なのでは? 今、二人がいい姿を見せているからって、それを悪く思って告発するというのは理解しがたい」

しかし同紙はこれを「世論の怒りの火に油を注ぐだけ」と切り捨てた。

「イ・ジェヨン、イ・ダヨンから始まった『校内暴力Me Too』は、男子バレー選手に続き、その後スポーツと社会全般に渡り校内暴力の問題を明らかにする事件となっている。すでに大韓バレーボール協会はイ・ジェヨンとイ・ダヨンの代表チームへの無期限出場停止と引退後の指導者資格の停止を発表している状態だ」

今後もこの話題への韓国国内での関心は続いていきそうだ。

(”告発文”の校内暴力の内容全文)

1.被害者と加害者は寮で同じ部屋だったのだが、消灯後に加害者は被害者に様々なことを強いてきた。被害者が疲れている時には、おとなしい口調で拒否をしたのだが、何度も「やれ」「やれ」と強要。それを拒否し続けると、刃物をもって脅迫してきた。

2. (被害者は)家庭の事情で学校の前に家を借りていた。(被害者の)両親は「誰も(友達は)連れ来るな」と言っていたのに、勝手に自分を含めた友達を連れてきていた。後に両親に対して「被害者が連れてきた」と嘘をつかれた。

3.汚い、臭う、横に来るなと言われた。

4.部活内の父母が、差し入れをしてくれたのだが「勝手に食べるな。食べると後で調べ上げる」と言った(脅された)。

5. 試合会場から負けて帰ってきた際、部屋に集合させて”空気椅子”をさせられた。

6.ささいなことに金を賭け、腹をつねったり、口元を殴ったり、集合の号令をかけては拳で頭を殴られた。

7.強制的な賭けで勝ったお金で、休憩所で自分たち(加害者)だけが食べ物を買って食べていた。

8.被害者が加害者を恐れていることを利用し、「なんで呼び出したか分かる?」「嘘だよ」とからかわれたこと。

9. 加害者である双子のうち、ひとりでも機嫌が悪いときに居合わせたら「かかってこいよ×××(放送禁止用語)」と叩かれたこと。

10. 毎日のように本人の気に入らないことがあれば悪口を言われ、(被害者の)両親についても悪口を言われた。

11. 何かを命令して、すぐに返事しなかったりすると腹をつねられ、被害者が「やめて」と言ってもこちらが泣くほどにより強くやってきたこと。

12. 被害者が新しく買ったズボンを毎日履き、被害者が「履かないといけないから貸したくない」というと「先輩に預ける」といい、悪口を浴びせられた。「先輩から取り返せ」とも。

13. (寮での)朝食時、加害者に食欲がなければ、被害者が飲もうとしているスープに自分の分のご飯を入れてきた。そして「一呼吸置いて食べれば?」とウェットティッシュで顔を叩く侮辱を受けた。

14. 移動中の車内で加害者の肩に誤って手が当たり、叩くようなかたちになった時、拳で強く胸を殴られた。

15.ミーティングの際、加害者が被害者に「気合を入れる」と殴っていた。

16.加害者の両親が寮を訪れた際、加害者はチームメイトである被害者たちの近くにいようとしたが、逆に被害者の両親が来た時は近づくと叩いていた(自分たちの両親の前でだけいい姿を見せようとしていた)。

17.サポーターなどのバレーボール用具の片付けを忘れてしまった際、放送禁止用語で罵られた。

18.被害者たちは、部員に対して日替わりにマッサージをさせていた。

19. 高校の先輩たちが日々、何かと罰金を科す遊びをしていたのだが、「私たちもしよう」と言い出した。しかし部費としてプールしている金ですら、罰金として使わせていた。気合が足りない、ちゃんと練習していないと言いがかりをつけられ、お金を巻き上げられた。

20. 体育館のなかの更衣室に被害者だけを連れ込み、ひとりにさせられた。その後、他の部員が入ってきてスケッチブックに書かれた被害者の悪口を見せつけられた。

21. 加害者姉妹は自分たちだけが加害者になりたくはなかったのか、他の部員にも悪事を強いていた。