「菅氏選出」、韓国主要紙が報じた韓国ならではの視点。「韓流ドラマ」「学歴」「酒の量」

14日に自民党総裁に選出された菅義偉(写真:ロイター/アフロ)

全体的な雰囲気は「関心度低し」

14日午後の菅義偉氏の自民党総裁選出そして事実上の新首相就任を韓国メディアはどう報じたのか。

日本の他メディアも報じたとおり、はっきり言って「関心度が低い」というのが実際のところだ。14日の自民党総裁選の展望は既に韓国でも報じられており、菅氏選出は既定路線とされていた。また選出前の「外交は安倍氏に相談」という内容も伝わっていて「日韓関係に変化なし」というムードに覆われている。関心は「安倍首相辞任」までだった、というところだ。

14日夕方の国内最大のポータルサイト「NAVER」内の「リアルタイムアクセス数」の政治欄で、関連ニュースはベスト10に入らなかった。国内のチュ・ミエ法相関連のスキャンダル関連が関心を集めた。この点は本論の前にお伝えしておかなくてはならない。

決定前から菅氏選出を確実視 韓国メディア 首脳会談、徴用工問題などをキーポイントに

社説では各紙が論じる。いずれも「日本側の変化に期待」

とはいえ、新聞各紙は翌15日の社説で「菅氏選出」を論じた。各紙ともに2~3本の社説を掲載するなか、保革の主要一般紙では「朝鮮日報」以外すべてがトピックスとして選んだ。

【保守・右派】

中央日報「菅、日本の総理に事実上確定…韓日の葛藤を解け」

東亜日報「菅、日本の新しい総理に。安倍の影を抜け出し、韓日関係に新しい地平を開け」

朝鮮日報は「現法相のスキャンダル」「尹美香氏在宅起訴」「国内公企業の高い人件費と低い収益の不均衡」を論じ、日本の話題は入らなかった。

【革新・左派】

京郷新聞「新しい日本の総理菅、韓日関係は前向きに臨まねば」

ハンギョレ「菅次期総理、韓日関係前向きな姿勢を」

保革いずれも「日本側の姿勢変化に期待」という論調だ。既視感のあるものだ。

「韓国経済」は「愛の不時着」を絡め、両国交流論を論じる

いっぽうで2大経済紙の一角、「韓国経済新聞」の論調が興味深かった。

「ドン詰まりの韓日関係…”ソフト外交”から再び始めよう」

これは「双方の観点を少し変えてみよう」という話だ。

韓日関係をすぐに好転させるのが難しい状況であれば、文化・スポーツなどを活性化させる必要がある。いわゆる「ソフト外交」で両国間の緊張を解き、政治外交的な和解の雰囲気を作ろうというものだ。

出典:韓国経済新聞9月15日

「まずは交流できる点で交流を広げればいいのではないか」という考え方だ。同紙は日本では韓流ドラマの「愛の不時着」が旋風を巻き起こしている事例、そして韓国の若者の間で日本の映画、漫画、食べ物などが絶え間ない人気を呼んでいる点を挙げた。また、1998年に金大中大統領が日本文化の(韓国での)解禁を決め、両国の交流が広がったという事例もあるとした。

さらに当時も韓国国内で「浸食される」といった反対世論があった点を紹介。しかし「そういった大局的な決断が韓国の大衆文化の競争力を高め、韓流ブームの土台になったという分析もある」。また2005年から「韓日国交正常化40周年記念」としてソウルと東京でそれぞれ開かれ始めた交流イベントも、両国関係の橋渡しの役割を果たしてきていると強調した。

この韓国経済新聞の社説は、15日の各紙社説のなかでもオリジナリティが際立っていた。

「朝鮮日報」は前日に「韓国らしく」分析。学歴、お酒の量まで紹介…

保革の主要紙のうち、15日の社説で唯一「菅氏選出」を論じなかった保守系の「朝鮮日報」だが、選出前の14日に詳しい情報を報じた。この切り口に韓国らしさが現れており、興味深かった。

タイトルは「自民党最初の無派閥・非世襲...日本の”事実上の次期総理”、菅はどういった人物?」

同記事では菅氏の出身地、学歴が詳しく記された。

「菅長官が総理になれば、日本の歴代総理の出身地域と出身大学を広げる契機となる。これまで日本の総理は東京や近郊の大都市出身が多く、東京大・慶応大・早稲田大の3大名門の出身者が大多数だった。菅長官は秋田県出身、法政大学出身の最初の総理だ」

この点への注目に、韓国の視点が現れている。現代の韓国社会が「地縁・血縁による優遇」に敏感である影響だ。この不公平感から生まれるパワハラ体質への反発は「甲質(カプチル)」という言葉を生み、いまや韓国社会で最も忌み嫌われれるワードだ。大韓航空の「ナッツリターン姫」、「朴槿恵前大統領弾劾」、「たまねぎ男騒動」はすべてこの点とも関連がある。つまりは「隣国・日本に地縁・血縁に大きく頼らない首相が生まれた」という点は注目ポイントなのだ。

また「東大と早慶」を3大大学とするのは、「SKY」と呼ばれる首都圏の「ソウル大・高麗大・延世大」こそ名門、という見方によるものでもあるか。ちなみに日本の首相輩出人数ランキングでは、東大、早大に次ぎ慶大と京大が並んでいる。

「ぶっきらぼう」に対しては、”逆評価”も

いっぽう、同社説は日本では菅氏へのマイナス評価ともなっている点について、意外な評価も下している。

「特に(菅氏は官房長官時代の)記者会見で、安倍内閣の各種スキャンダルについて『全く問題はない』『合っていない指摘』と言い、防御的対応をしてきた。メディアからは叱咤を受けたが、自民党の中では『信頼できる安定した政権弁護人』という評価を受ける契機になった。メディアを敵に回した代わりに、党内から友軍を得ることになったのだ」

”戦う時には戦える”という評価なのだ。これまでの会見での姿は、筆者のような日本の一市民としてはあまり格好いいものではなかったが、国外から別の視点を示された印象だった。ある角度から見れば、そうも見れなくもない。

「酒量」を示す、韓国らしさ

同紙は最後に、菅氏個人の人となりまで細かく紹介した。

「10年前に14キロのダイエットに成功し、今も体型を維持している」

「毎朝5時に起きて新聞各紙を読み、その後40分散歩する」。

そして「酒もたばこも嗜まない」という点まで。

現在でも韓国では時折、年配の方が「酒量(チュリャン)は?」と聞いてくることがある。写真はイメージ。筆者撮影
現在でも韓国では時折、年配の方が「酒量(チュリャン)は?」と聞いてくることがある。写真はイメージ。筆者撮影

「お酒」の話は、韓国では過去(およそ90年代後半まで)にスポーツ選手などのプロフィール欄によく「酒量(どれくらい飲めるか)」が記されたことを思い出させた。「ビール」「焼酎」「ウイスキー」などの好みの種類と、飲める分量が杯数で記されたのだ。韓国ではこれが個人のパーソナリティーを知るうえで分かりやすい指標だった。今回の菅氏の記事でも「らしい」切り口だった。

この手の「韓国メディアが観た日本」という情報、近年は「日本のインターネット情報を韓国メディアが引用し、それをもう一度日本語で日本の読者が読む」という面も多い。しかし、ここで紹介した「韓国経済新聞」と「朝鮮日報」の記事は、独自の意見と視点が織り込まれており、興味深かった。