【全文】新型コロナ初認定の北朝鮮報道を読み解く。「直に認めない表現」から、金正恩氏の指示体系まで。

地域限定「非常事態宣言」で市民生活は変わるか。写真はイメージ(平壌市内の様子)(写真:代表撮影/Pyeongyang Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

「北朝鮮が新型コロナ感染者の存在を認めた」。26日午前、日韓のメディアがこのニュースを速報で報じた。果たして現地報道(朝鮮労働党機関紙「労働新聞」)は何を報じたのか。注釈を加えつつ、全文を紹介する。

朝鮮労働党中央委員会政治局 緊急拡大会議緊急招集

国家非常防疫体系を最大緊急体制に移行することに対する決定を採択

「労働新聞」公式サイトの該当記事のキャプチャ
「労働新聞」公式サイトの該当記事のキャプチャ

世界的な大災害で、人類を脅かしている伝染病の流入を徹底的に遮断するための防疫戦が高い強度で展開されている時期に、開城市で悪性ウイルスに感染した疑いのある越南逃走者が3年ぶりに不法に境界線を越えて、7月19日に帰郷する緊急事件が発生した。

専門防疫機関では、違法な帰郷者の上気道分泌物や血液に対する数度の該当検査を行い、不正なウイルス感染者と診断できる釈然としない結果が出たことに関連して、1次的に彼を徹底的に隔離し、過去5日間開城市で彼と接触したすべての対象と開城市経由者たちを、該当部門との連携の下に徹底的に調査掌握して診断、隔離措置していると明らかにした。

「防疫」という言葉はこのコロナ禍で日本ではあまり使われない漢字語だが(日本は「対策」が多いか)、韓国と同様に北朝鮮でも多く用いられている。「越南逃走者」とはいわゆる「脱北者」のこと。

また、新型コロナ感染者について「不正なウイルス感染者と診断できる釈然としない(はっきりししない)結果」としている。感染者だとは完全に言明せず、あくまで「疑いのあるもの」としているのだ。公式には。

(続き)

朝鮮労働党中央委員会政治局は、開城市に致命的であり破壊的な災害をもたらしうる危険が造成されたことと関連して、7月25日、党中央委員会本部庁舎で緊急拡大会議を緊急招集した。

朝鮮労働党書記であり、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長であり、朝鮮民主主義人民共和国の武力の最高司令官であるわが党と国家、武力の最高指導者 、金正恩同志が会議に参加された。

会議には、朝鮮労働党中央委員会政治局委員、候補委員が参加した。

傍聴者として中央緊急防疫指揮部のメンバーが参加した。

内閣、省、中央機関ごとに行政責任者と各道の党委員執行委員、道級指導機関の責任幹部が画像会議室から傍聴に参加した。

党中央委員会政治局の委任に基づいて、金正恩同志が会議を運営執行された。

「画像会議室」とはいわゆる「オンライン会議」のことと思われる。

  • 本件関連ニュースを報じる26日の「YTN」

感染者発生と報じられた南部の開城(ケソン)は、推定人口35万人、南北国境近くに位置し、韓国の坡州市とは約15kmの距離に位置する。現在の行政区分は「黄海北道開城特別市」だが、分断前までは現在は韓国側の行政区分となっている「京畿道」に属していた。

出典:Google Earth
出典:Google Earth

(続き)

敬愛する最高指導者同志は、過去6ヶ月間、全国的に各方面からの強力な防御的防疫対策を講じて、すべての通路を隔閉(隔離・閉鎖)させたにもかかわらず、我々の境内に不正ウイルスが流入したと見ている危険な事態が発生したことに対して指摘し、これと関連する報告のあった直後の24日午後中、開城市を完全封鎖し区域別、地域別に隔閉(隔離・閉鎖)する先制的な対策を取ったことについて述べられた。

敬愛する最高指導者同志は造成された事態に対処して、その地域に非常事態を宣言し、国家非常防疫体系を最大緊急体制に移行し、特急警報を発令するという党中央の決定を明らかにされた。

26日午前の日本の速報でも「開城市を都市封鎖」と見出しが出たが、確かにこれは「労働新聞」にも「完全封鎖」と明記されている。また地域には非常事態宣言が出されたとも明らかに。

ちなみに北朝鮮にはウイルス対策法である「朝鮮民主主義人民共和国 伝染病予防法」が存在する。韓国のサイトからも自由に閲覧が可能だ。1997年に採択され、複数の補充修正を経て、今年4月3日にも改訂が行われた。

2015年の韓国のMARS(中東呼吸器症候群)流行の状況を注視したかどうか、今回の新型コロナの流行以前から、この法には「摘発、隔離、伝染経路遮断が最も重要」と第一条で記されている。決して「世界の情報から著しく離れている」ということはない。「朝鮮中央TV」は新型コロナ対策で日常から心がける常識を放送しており、そこには「綿マスクはウイルス対策には使用できません」と明言されている。

  • 朝鮮中央TVの放送をそのまま伝える韓国KBS

(続き)

敬愛する最高指導者同志は、党および勤労団体組織、政権機関、社会の安全、保衛機関、防疫及び保健機関が当面に実行すべき部門別課題を提起された。

会議では、国家非常防疫体系を最大緊急体制に移行することに対する党中央委員会政治局決定書が全員一致で採択された。

敬愛する最高指導者同志はすべての会議の参加者が、自己の部門、自己の単位で、党中央委員会政治局の決定を貫徹するための組織事業をただちに立て、各級党組織と各部門が党中央の指示と配置に無限の責任性と忠実性と献身性をもって、最も正確な執行を確保して担保することについて指示された。

敬愛する最高指導者同志は党と全社会的に強い組織規律と行動と思考の一致性を徹底的に確保し、緊急防疫指揮部の指揮にひとつになるように絶対服従して動く秩序を維持し、各級党組織が自己の機能と役割を完全に発揮することについて強調された。

敬愛する最高指導者同志は、誰もが緊急事態に直面した現実を厳重に受け入れるべきだとしながら思考と行動の中心を失わずに、責任性、献身性を抱いて党中央の領導に忠実かつ徹底的で、党中央の周辺でさらに固く団結して正しい防疫危機を打開することにより、必ず朝鮮人民の安寧と祖国の安全を死守しようと呼びかけられた。

このくだりは、要は「トップの言うことを聞こう」という内容だ。「忠実」「献身」のみならず、「責任」も持つように。「確保」「担保」と念を押す。地域限定の「非常事態宣言」ということもあり、支持体系や心構えを細かく記している面はあるか。

ちなみに日本でも報じられる「北朝鮮発のテキストニュース」は、「朝鮮中央通信」と「労働新聞」のものがあるが、今回の記事は「労働新聞」のもの。言うまでもないが北朝鮮国内でも読まれているものだ。

(続き)

会議では、越南脱出事件が発生した地域およそ部隊の粗末な電線警戒勤務実態を厳重に指摘し、党中央軍事委員会が事件発生の責任がある部隊の集中調査結果の報告を受け、重大な罰則を適用し、該当する対策を講じすることについて討議した。

本社政治報道班

最後に、南北の国境線を越境を許したことについての「お叱り」が。そういったドラマのような事があるのか。

筆者は2013年に韓国での脱北者から「中国経由で戻る人はいる」という話を聞いたことがある。韓国に馴染めず、望郷の念が強まることが主な原因で、中国の北朝鮮大使館に申し出るのだという。当時話を聞いた30代男性によると「親族にある程度の地位があれば、現地での選挙前に戻れば特例で緩い処置で済むことがある。ラジオに出演し、『韓国がいかに厳しい場所だったか』を述べる程度で済む」と言っていた。この脱北者は中朝国境地帯の出身で、このエリアでは頻繁に脱北が行われる時期もあったため、大目に見る雰囲気があると言っていたが。

韓国政府の統一部(省)は、北側の報道を受け関係部署に確認を取っているという。

参考記事:感染者「0」の北朝鮮で党が”コロナ会議”を実施。金正恩氏「これまでの防疫を評価するが、気を緩めるな」

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