【さあ受験シーズン】「1日10時間勉強」は普通。韓国の若者はなぜ過酷な受験勉強に挑むのか。

ソウルで大学1年生の「生の声」を聞いた。本稿写真すべて筆者撮影。

11月14日、「韓国版大学入試センター試験」といえる「2020年度 大學修學能力試驗」が行われた。2001年生まれの現役生と浪人生の計54万人が受験した。

筆者は現地の試験会場で取材したが、「在校生たちの熱烈な応援」「試験会場の学校の校門前で最後に抱擁し合う親子」など毎年の風景を目にした。

14日、ソウルの試験会場前で応援する”受験生の後輩たち”。筆者撮影
14日、ソウルの試験会場前で応援する”受験生の後輩たち”。筆者撮影

近年、韓国の一歩早い「受験開始」がまた、日本でもまた「受験シーズン到来」を知らせる鐘の役割を果たし始めているのではないか。韓国の熾烈な受験大国のイメージも多く伝わってきている。

そこで、現地で生の声を聴いた。

「なぜ、彼らは猛勉強をするのか」

「彼らにとって学歴とは何なのか」

受験を終え、ソウルの私立大学の1年生と言葉を交わした。そこで出てきたのは猛烈な学歴社会に立ち向かう、若者なりの考え方だった。

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左:漢陽(ハニャン)大学 経済金融学科  ファン・イェヒョン

中央:弘益(ホンイク)大学 歴史教育科  チョ・スンヒョン

右:漢陽大学 スポーツ産業学科  ソン・ヘヨン

韓国には”偏差値”が存在しないが、ソウルにある両大学のステイタスは非常に高い。学力としては漢陽大がベスト6に入り、弘益大はベスト15に入る水準と一般的に見られている。

「1日10時間勉強した日も」「トイレ休憩を抜き、勉強時間をリアルタイムで測っていた」

――皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます。今日は韓国の若い世代の受験での頑張りについてお聞きしたいです。つい最近まで過ごしていた受験生時代はどれほど過酷に勉強をしたのでしょう。

ファン・イェヒョン
ファン・イェヒョン

ファン(漢陽大経済金融学)  高校時代、寮に入っていたんですが、毎日必ず23時までやっていました。それでも足りない時は深夜2時から3時まで。一生懸命やったんだけど、成績が落ちた時があるんです。英語が苦手で、そればかりを勉強したんですが、やっぱりダメで。その頃は毎日深夜までやっていました。全体の勉強時間の3分の1近くを英語に割いても、成績が落ちたんです。遊びに行きたくはなかったかって? 「毎日23時まで勉強」は、規則だったので、行けませんでしたよ。

ソン・ヘヨン
ソン・ヘヨン

ソン(漢陽大スポーツ産業学) 1日のうち、座っていたのは10時間くらいになるでしょうか。ただ、まあ、実際に勉強をしている時間は別でしょうが……。高校時代、内申の結果を良くして入試を有利にしたいと考えていました。とはいえ、マメに勉強するほうではなく、やる日にやる、やらない日はやらないというほうで。すると3年の最後の定期テストの初日で失敗してしまい……ヤバいと思って全4日間の日程のうち、残り3日を「連続完徹」したことがあります。一度寝たら終わりだ、と。最終日の最後の化学の試験を終えて……家で24時間寝ましたね。

チョ・スンヒョン
チョ・スンヒョン

チョ(弘益大歴史教育学)  私は浪人したんですけど、その時は自分に厳しくするために「リアルな勉強時間」をしっかりとカウントしていました。トイレに行ったりする時間は外して。すると多い時は10時間、といったところでしたね。平均では8時間以上でしたよ。家で浪人生活を送ったので、そこが苦しかったですね。人に会わずに家でずっと勉強するという。メンタルがちょっとおかしくなりましたよ。ある夏の日に突然、「早くクリスマスにならないかな~」と思い立ち、パーティーの気分を出そうと急に家の中を走り回ったことがあって。あの時は”ヤバい”という状態でしたね! 窓を開けていたから、外からもちょっとその姿を見られていたと思います。

韓国の受験生の「体力論」。動かないと、どんどん落ちていくもの。

――実際に夏から急にクリスマスになったら浪人生は困るでしょ。準備期間が短くなるんだから! さて、そんな受験生活でのコンディショニングのことを聞きたいです。超名門校を狙う家族たちを描いた韓国の大人気ドラマ「SKY キャッスル」(2018年末から19年初頭に放送)を観たんですが、受験生役が「紅参(ホンサム/高麗人参の高級品種)」を飲んでいました。あれ、ホントにあることなんですか? 苦いんじゃないの? と思ったりして。

ソン  ありますよ。韓国では紅参(ホンサム)の話をする時、「体力がつく」ということがよく言われますよね。だから母からも特に高3の時、「体力つくから、飲みなさい」という話をされて。パウチ入りのものを飲んでいました。というより、母に強制的に『飲め』と言われていたというところですね。父親が常用しているので、それを飲ませてもらって。体力というのは、集中力が持続して風邪を引かない。そういった意味での体力です。運動する時の体力とは、別の種類のものですよね。

チョ  私は1浪を経て入学しましたから、受験生活を2年やったということになります。浪人時代によく飲みました。さきほども言ったように予備校に通わず家で一人で浪人生活をやったんですが、インターネットや、あるいは参考書などを使って勉強しました。その時、私が日々感じたのは”体力が落ちていく”ということです。元々、体がすごく弱かったんですよ。風邪をひきやすかったですし。紅参(ホンサム)を飲み始めて確実に”強くなったな”と感じますよね。代謝がよくなって、全体的にパワーがついてきた、という感覚。家での浪人は生活のリズムなど難しいものでしたが、受験の結果は実際に良かったんです。

紅参。これを粉にしたり、ペースト状にしたりして飲用する
紅参。これを粉にしたり、ペースト状にしたりして飲用する

ファン  勉強するときというのは1~2時間座って、集中してやるものです。それはすごくキツいものですよね。その集中力を持続できるものがここでいう”体力”なんです。普通、韓国では受験生は朝の8時から学校に行って、夜の10時まで勉強しますから、当然”体力”が要ります。さらに家に帰って夜2時~3時まで勉強する学生も多い。すると長い期間これを続けられる体力が必要と考えるんです。

チョ  そうそう。家で浪人した私は、学校であれ、予備校であれ外での活動が減った状態でした。すると基本的な体力が落ちていくんです。高校は給食制だったのですが、これを食べるわけでもない。運動をするわけでもない。学校に通っていた頃のように朝早く起きて、規則的な生活もしなくなるからです。紅参(ホンサム)を飲むと”集中を阻害する要素が弱まっていくな”という感じですよね。節々が痛くなったり、体が冷えたり、すぐに風邪を引いたりという要素が減っていく印象ですよね。なんとなく、防御ネットで自分が守られている感じというか。

ソン  継続して飲んでいると、まず朝の目覚めがスッキリするようになりますよね。ボーッとした感じがなくなる。すると集中力がしっかりと上がっていくことも確かです。

学歴とは「自分の力を証明するもの」

――「日本であんまり食ってないものを韓国では食ってるんじゃないか?」というごく雑な想像をしていたんですよ。するとドラマで高麗人参が出てきて。「あ、これじゃないか」と。とはいえ、ですよ。やっぱり目標設定があってこその受験勉強でしょう。ズバリ、お聞きします。韓国の若者たちがそこまでして熾烈にそれをやる意味、学歴を求める意味とはどういったところにあるのでしょうか。

ファン  人によって違うと思いますよ。両親の期待に応えたい人がいる。『大学の入試さえ終われば、遊べる』と考える人もいる。将来の目的をもって受験する人もいる。また韓国社会の強い学閥主義という背景もありますよね。将来的な就職と、いい待遇を求めて勉強する人もいる。そういったものを複合的に考えて勉強する人もいます。

――今、やっている専攻分野は本当にやりたかったことなの?

ファン  大学を先に決めて、そのなかで専攻を定めていきました。僕にとっての学歴は”社会で認められるためのもの”でもあります。

チョ  私も同じです。この世の中自体が、いくら”私はすごいんだ”と思っていても、それを証明できるものがなかなかない。だから私はいい大学に入り、学歴が欲しいと思いました。自分自身の能力を証明するためです。専攻については私もやはり、大学を定めた後、そのなかから自分の関心のあること、後に役立ちそうなことを選びました。歴史が好きだったので。歴史学科に進むと、学校の先生になることが多いのですが、それもよい職業だと考えて過ごしています。

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――自分の力を証明するためのものだと。日本では「韓国の受験勉強は熾烈」というイメージは表裏一体で、「なんでそんなに勉強するの?」と不思議に見るところもありますよ。

ソン  僕はもともとソウル出身じゃないので、まずはソウルに出たいという思いがありました。学科は少し漠然と選んだところはありますね。スポーツが好きだった、というところで。今ではこの決断は良かったと思っています。やっぱり関心のあることをやれることは嬉しいですよ。

――社会は確かに学歴・学閥主義だ。そこに合わせる必要はある。いっぽうで本心ではこれに反発したい気持ちもあるのでは?

チョ  韓国でもここ10年で学歴主義が変わりつつあるという話にはなっています。学歴主義・学閥主義は縮小しつつあると。僕たちは一つの時代しか知りませんが。とはいえ、やはり確実に生きていくにはやはりこれは必要だと考えますね。例えば公務員になりたいと考えた時、やっぱり学歴は重要ですから。

チョ  私も似た考えです。過去に比べたら、大学のネームバリューというのは重要性が下がっていますが、それでも重要だとは思います。自分を知ってもらう時、どうしても大学名というのは重要になってきます。成功した人がいる。やっぱり「お、どこの大学?」という話にはなってしまうじゃないですか。

ファン  そうですよね。少し別の角度から話すと、韓国では「ソウルにある大学」というのはステイタスがあると思います。あらゆるものが集中している場所ですから。大学もソウルかどうかで大きく評価が分かれると思います。

ソン  例えばYouTubeを観ていても、大学を出ていないユーチューバーが大活躍しているじゃないですか。そういうのは正直、羨ましいとは思いますよ。そして職業の幅も拡がっているから、学歴が必要のないものも多い。ただ、一般的に就職をして、人生を組み立てていくということを考えたら、やっぱり大学は重要かなと思います。

インタビュー現場の弘益大学(ホンイク・デハッキョ)は”ホンデ”として知られる。ソウル随一の”オシャレ大学”でもある
インタビュー現場の弘益大学(ホンイク・デハッキョ)は”ホンデ”として知られる。ソウル随一の”オシャレ大学”でもある

――最後に、筆者の話を少ししてもいいですか? 外国語大学に行きました。今話している、韓国語を専攻したんです。外国語はある意味、芸術や音楽と似たところがあって、学歴以外の実力で勝負できるジャンルもありますよね。そこに魅力を感じた。最高の先生は、”真剣に向き合った”女性ですよ。すごく楽しく勉強したし、むしろ学生にふざけたことが今の財産になっています。いろんな人を相手にふざけることを考えて、ものを考える観点が育まれた。どういうふうに映りますか?

チョ  うーん。実力主義。そうであればいいとは思うけど、韓国ではなかなか実現が難しい部分がありますよね。まだまだ学歴で人を見ちゃう、というところはありますよね。

ファン  実力があっても、やっぱり機会が得られないといけないと思います。そういった意味では、やっぱりいい大学のほうがいい機会が得られやすい面はあると思いますね。周囲から得られる情報も違うでしょうから。韓国の場合は、さらに先輩の存在というのは大きいですよね。就職した先輩から聞ける情報。そこはやっぱり、ソウルにいる有利さはありますよ。どうしたって。

ソン  似た考えです。同時に思うのは、外国語や芸術、そういった分野は実力があれば力を発揮できるかもしれないけれど、いっぽうで業界の不安定さというものもあると思うんです。経営、あるいは僕が学んでいるスポーツ産業、マーケティングもそうです。その実力を発揮するためには、やっぱり人脈が必要。外国語でもやっぱり、実力を見せるためには会社にしっかり入って力を見せることだと思うんですよね。外国に違う考えがあるのは分かるけど、自分はまずしっかりと韓国でやっていく。そういう考えでいます。

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大人びた発言にちょっとハッとした。それは「なぜ過酷な受験勉強に挑むのか」という問いへの答えでもあった。「いくら”私はすごいんだ”と思っていても、それを証明できるものがなかなかない」。確かにそう考えると、モチベーションを高めていけるのではないか。家族や友人は自分のことを知ってくれているし、知ろうともしてくれる。しかしより広い世界に出ていけば、そうではない。そして将来、何かを得ようとすれば、外の世界に出ていくことが逆に近道だ。

自分を証明するもののために、真夏にクリスマスパーティーを開いてしまうのだから、覚悟はかなりのものだ。

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