【W杯予選】韓国8-0スリランカ。ソン・フンミン、大いに語る「代表戦ほど幸福感を与えるものはない」

韓国代表でのソン・フンミン。写真は今年3月のコロンビア戦のもの(写真:ロイター/アフロ)

日本がモンゴルに6-0で勝った10日夜、韓国でのW杯予選を取材した。

韓国8-0スリランカ。

「何しに来たんですか?」と現地の記者室で聞かれた。確かに、勝敗自体の興味は前半の20分くらいで削がれたし、それはおおいに予想ができた。試合を通じて、韓国代表GKチョ・ヒョヌがボールに触れた機会は5度ほど。後半になると観客がほとんど触れていないことに気づき、チョがこぼれ球やバックバスに触れるだけで、歓声が起きた。

キックオフ前の様子。筆者撮影。
キックオフ前の様子。筆者撮影。

ひとつだけ、知りたいことがあった。

「いくらW杯予選とはいえ、力に差があると思われる相手に、欧州組フル動員で臨むべきなのか」

新たに議論の余地がありそうなテーマだ。これについて韓国の事情を取材した。

最近の日本代表森保一監督の会見でも幾度かこの主旨の質問が出た。今回のモンゴル戦前にも、関連記事を複数目にした。

既存の考え方を整理するなら、およそこういうことだ。代表ならば当然のごとくどんな試合でも重要。W杯予選ならなおさらだ。選手は日本代表から招集を受ければ、誇りに感じ、駆けつける。これは聖域。ましてやW杯予選は地上波でも放映されるなど、サッカーを日本でより広く知ってもらう機会。そこには最精鋭メンバーで臨むのは当然。さらに代表監督たるもの、短い活動期間のなかで結果を評価されるのだから、ベストで臨みたいと考えうるだろう。

いっぽうでいくらAマッチウィークとはいえ、シーズン中にチームを離れ、欧州とアジア間の移動をしなければならない。特に新しいチームに移った選手は、監督とチームメイトに自分を知らせる時期に大きな“中断”が入ることになる。このあたりの心情は、今年の3月に吉田麻也が「環境が自分を強くした」という文脈で口にしている。

吉田麻也がプレミアでの生活を振り返る「環境が自分を強くしてくれた」:サッカーキング 2019年3月10日

また今回のモンゴル戦のような機会にこそ、新しい選手や国内組を積極的に起用すべきではないかという議論も成り立つ。

“代表聖域論”か、はたまた“現実論”か。

これを何かと比較しながら考えるには、韓国がとてもよい。世界で唯一の“類似の比較対象”。主力が欧州にいて、代表戦の度に10時間以上をかけて、移動してくる。そういう国は世界に日本と韓国しかない。同じアジアでも、中国も台湾もモンゴルもスリランカもそういう状況にはない。

日韓の「欧州組事情」比較。過去には「15分の出場のために遠くから……」と切実な訴えも。

この10月のW杯予選に臨む韓国代表監督パウロ・ベント(ポルトガル)も“欧州組ガチ招集”を敢行した。

10日の現場記者室では韓国スポーツ紙記者から「スリランカ相手に、ソン・フンミンを起用する必要があるのか」という話も聞いた。いっぽうでサッカー専門誌の記者は「選手はシーズン中に韓国に戻れる点がうれしくもあるはず。戻って友人などに会い、リラックスできる。代表招集がなければ、Aマッチウィークに欧州に寂しく残る、という面もあるのではないか」とも。

ただ、日韓で事情が違う点があるのは確かだ。

日本:欧州組20:国内組3

韓国:欧州組8:国内組7:それ以外(日本・中東・中国)8

日本のようにもはや“欧州組が大部分”ということもない。さらに今回の韓国代表は欧州組フル動員であることは確かだが、その中でもU-18やU-22から合流した選手が3人ほどいた。日本よりも少しテストの要素を入れた面がある。

10日のスリランカ戦で”入り待ち”をするファン。この日のスタンドは2万5000人水準の入りで満席にはならなかったが、ロシアW杯後の熱気は保たれていた。
10日のスリランカ戦で”入り待ち”をするファン。この日のスタンドは2万5000人水準の入りで満席にはならなかったが、ロシアW杯後の熱気は保たれていた。

とはいえ、とはいえだ。この国の代表チームもまた、「主力選手の欧州からの招集」について悩みを抱えてきた。

まずはレジェンドの朴智星。彼は(筆者自身も日本語翻訳を担当した)自叙伝「名もなき英雄(原題「自分を捨てる」)」で、2011年の代表引退の理由のひとつをこう明らかにした。

「どうしても欧州の韓国の往来に慣れなかった」

ある時は出発前日に徹夜をして、飛行機のなかで熟睡しようとしたが、それでもコンディションの調整がうまくいかなかったと。

また、現在では代表の大黒柱、生ける伝説感もあるソン・フンミン周辺でも過去には騒動が起きた。2011年、彼が19歳の時だ。所属チームはドイツのHSVで代表監督はチョ・グァンレだった。ブラジルW杯予選アジア3次予選、ホームでのUAE戦に招集されたソンについて、父親のウンジョン氏が噛み付いた。

「コンディションも良くなく、所属チームも忙しい状況で、15分だけプレーするために遠い距離を往来するのは選手の立場としても無理がある。チームで確固たるレギュラーの立場を確保し、代表チームでもフルタイム出場して貢献できるくらいになった時に合流できると嬉しい」

父ウンジョン氏は自らもプロ経験があり、サッカースクールを経営しながらフンミンを育てた。サッカー界で影響力のある人物の発言だけに、メディアも大きく取り上げた。まあ都合のいい時に呼んでほしいという文脈でもあり、少し言い過ぎでもあるが、親心としてはこれくらいが本音か。当の本人は「自分がどうこう言える問題ではない」とノーコメントだった。

試合後のソン・フンミンの言葉「国内のファンにお会いする唯一の機会」

8年たった今、ソン・フンミンの立場の変化はいうまでもない。小さな相手、スリランカとの対戦後、何を語ったのか。以下、試合後の取材エリアでのメディア団とのやりとりだ。

――まずは試合の所感を。

「今日の韓国代表の選手たちは多くのゴールを入れたことに関して、称賛を受けるに値すると思います。しかしこれがすべてではない。強いチームというのは、勝つことが習慣になっている。そういう部分ではこの試合は学ぶところがありました。ハーフタイムにチームメイトに言いました。『5-0で勝っているけど、引き続きゴールを入れていこう』と。そうやって(結果をとにかく求めることで)今日の試合から学ぶものが出てくる。相手は正直なところ、韓国より弱かったことは確かです。すべての試合でこういった大勝を挙げることは出来ない。そういったなかでもファンの皆様にはできる限り多くのゴールで、楽しんでいただけるようにしたいです」

途中、チームのセットプレーの方針や、自身が受けた警告についての質問が飛んだ。その後、韓国でも「欧州組招集議論」があるのだなと感じさせる一幕があった。ズバリこれを聞く質問が出たのだ。

――今日の試合でも体力的に多く動き回り、そしてメンタルの面でもチームをリードしていました。少し休みたい、といった思いは率直なところないのでしょうか。

「いえいえ。どの選手も同じでしょう。試合に出たいと思うものですよ。僕にとってもこれ以上に幸福感を与えるものはないです。時折国内で行われる代表戦こそが、韓国のファンの皆様に直接お目にかかれる唯一の機会ですし、今日のようにチームとして多くのゴールを決められれば僕自身も嬉しい。これ以上幸せなことはありません。僕は一度も試合を休みたいと思ったことはありません。確かに疲れるということはあります。繰り返しになりますが、僕にとってこれほど(代表チームでのプレー)幸せなことはありません」

試合前のスタジアム周辺。写真の中央にソン・フンミンが収まる。ファンのマフラーも「フンミン」。
試合前のスタジアム周辺。写真の中央にソン・フンミンが収まる。ファンのマフラーも「フンミン」。

――少しずつですが、チームに若い選手も合流していきています。彼らに対する思いとは?

「僕も若い頃から代表を経験させてもらいました。ここで生き残るのは簡単なことではないですよ。ただ彼らはやっていける選手だと信じています。今日の相手スリランカは、相手を尊重しないということは決してないのですが、例えば韓国の攻撃への対処を考えても……「この相手が全てではない」ということは分かっていただけると思います。今日の結果に満足しないように、そばにいてアドバイスをして、助けていきたいと思っています」

――昨年、PKを2度失敗しました。今日の試合で蹴って、ゴールを決めた。その心情とは? 去年の記憶も頭をよぎったのでは?

「チームメイトはPKを蹴りたがっていましたよ。いっぽうで僕としても心のなかにPKについての痛みが……なかったわけではありません。僕も人ですから。だからチームメイトには了解を得て蹴りました。コーチングスタッフを含め、これを受け入れてくれたこと、そしてゴールを祝ってくれたことに感謝をしなければなりません」

韓国では代表チームを「国家代表」と呼ぶ。日本とは少し位置づけが違う部分があるにはある。この点は考慮しなければならない。またソンは今季トッテナムで主将を務めるほどの立場を確立した存在。移籍したての選手とは大いに考えが違う点は大いにある。

いっぽう「欧州から代表戦のために戻る選手」の心情としては日本とも相通じる部分もあるのではないか。大エースにとっても、W杯2次予選のFIFAランキングが低い相手との試合は「新しい選手を知っていく時間」そして「自らも何かを試す機会(ソンにとっての今回はPK)」だということ。

提起されたばかりのこのテーマ、すぐには答えは出ない。どんどん議論をしていこう。新しい時代の重要なテーマだ。