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【K-POP論】らしさ満載! ソウルで見たLOVELYZ新曲「Beautiful Days」の奥深さ

5月20日に新曲「Beautiful Days」を発表したLOVELYZ@ソウル

重すぎず、聴かせる。「過去の恋を振り返る歌」の余韻

こりゃまた、オリジナルな世界観の曲で勝負してきたな。でもこれがクセになる。だからこそ、日本でも「ピンポイントでドはまりする人が多い」んだろうな。そんなことを思った。

K-POPの8人グループ「LOVELYZ」が新曲「Beautiful Days」を発表した。

アルバム「ONCE UPON A TIME」のタイトル曲だ。5月20日、ソウルで行われた新曲発表会を取材してきた。

オフィシャル動画。20日のショーケースに合わせて公開された

テーマは「愛」。

メンバーのスジョンはアルバム全体への思いをこう口にした。

「誰しも胸の中に一つはあるだろう、“愛”を中心に”別れ”、”初恋”などをLOVELYZのカラーで解き明かしたアルバムです。私たちの歌を聞いていただき、自分の人生で1番光り輝き、幸せな頃を思い出していただきたいです」

「Beautiful Days」について、事務所側はこう説く。

”魅力的なシンセサイザーのサウンドと、LOVELYZの淡い歌声。これらと、(過去の恋愛の)一番美しかった頃を回顧する歌詞と合わせて表現“

”より感覚的な、LOVELYZだけのカラーを見せる曲”

左からイェイン、スジョン、JIN、ジス、ジエ、ミジュ、ベイビーソウル、Kei。本稿写真全て筆者撮影
左からイェイン、スジョン、JIN、ジス、ジエ、ミジュ、ベイビーソウル、Kei。本稿写真全て筆者撮影

パッと聞いて強いインパクトがある曲ではない。この点は確かだ。既存のヒット曲に多い、サビ部分でオリジナルのインパクトあるフレーズが繰り返される類の楽曲でもない。「ああ、この季節にピッタリ」という点を1番に強調しているわけでもない。

しかし、聴くほどに馴染んでいく。そして気づく。聴いた後の余韻を楽しむ曲なのだろう、と。

サッドエンドのラブストーリーを見たような思いになる。悲しい余韻が、日常の感情にアクセントをつけるのではないか。「彼女たちもちょっと悲しい恋愛を受け入れているんだから、自分たちも頑張ろう」というちょっとした勇気が得られる、というか。

きゃぴきゃぴしすぎていない。でも重すぎない。ほどよく感覚的=”文学的”に曲の意味も考えさせる。 これらが「LOVELYZらしさ」たるゆえんだ。20代中盤も多いメンバーの表現力のなせる業でもある。日本の少し年齢層の高い世代(つまりおじさん)にもおすすめできる。とてもよいコンテンツだ。

楽曲はエンディングに大きなヤマが

前作、2018年11月の「チャジャガセヨ(Lost N Found)」に続き、SPACECOWBOY氏が作曲を手がけた。自身を「シンセ・ポップに属する」という氏のサウンドがインパクトを与える。

「日本の影響も受けてます」25日から来日「Lovelyz」の作曲家が語る【K-POP楽曲の作り方】

サビ部分の冒頭のフレーズで韻を踏んでいく点も印象的だ。

「イッチマ(忘れないで)」

「コクチョンマ(心配しないで)」

「イッチャナ(ねえ)」

「ウルジマ(泣かないで)」

メンバーたちは「国内の音楽番組で1位を獲りたい」との決意も口にしていた
メンバーたちは「国内の音楽番組で1位を獲りたい」との決意も口にしていた

いっぽうで、この曲のクライマックスはエンディングにある。

全体が3分56秒のMVのうち、2分27秒のイェインのパートからそれは始まる。「あなたに向けて声をかけてみても それでも(ノル ヒャンへ モクソリルル コンネバド クレド)~」と歌った後、2分59秒から一瞬、音が止まる。

その後、作曲家の得意分野であるシンセサイザーの音なしにサビ部分が歌われる。

さらに2回繰り返されるサビ部分では、ベイビーソウルの高音のコーラスが入り、より悲しみや過去に戻りたいという感情が強調される。

そしてこの曲はあまり余韻を残すことなくピタッと終わってしまうのだ。

あら、悲しいまま終わるの? やるせない。この感情、日本のアラフォー世代の例でいうと、かの「東京ラブストーリー」のエンディングにも似た感じだ。恋人時代は「カーンチ」と相手を呼んでいたリカが、3年ぶりに再会し「長尾くん」と距離を置く。すごく悲しいままで終わり、インパクトを与える。そういう感じとちょっと似ている。

長い原語タイトル。韓国ファンの間では「ク・ウ・サ・ウ」

まるで文学作品だ。考えさせる。メンバーはこの曲についてどう思っているのか。

英語で「Beautiful Days」と発表された今回の曲、まず、原語タイトルが長い。

”ク シジョル ウリガ サランヘットン ウリ”(「あの頃 ふたりが愛した ふたり」)。

スジョン。1997年生まれ。今回の楽曲ではぐっと大人びた表情を見せた
スジョン。1997年生まれ。今回の楽曲ではぐっと大人びた表情を見せた

タイトルの長さについては、メンバーのスジョンが実直にこう答えている。

「タイトルに関しては(サビ部分の)『イッチマ(忘れないで)』や、曲の最後に出てくる『ネイル マンナルコッ チョロム(明日、会うみたいに)』になるかな、と思って待っていたのですが、今回の曲の全体の雰囲気を表す、この長いタイトルになりました」

”あの頃 ふたりが愛した ふたり”。意味深だ。愛し合っていた時のふたりは確かに一緒だったが、今はふたりじゃない。そういうことだろうか。

韓国の熱烈なファンの間では早くも「ク(シジョル)・ウ(リガ)・サ(ランヘットン)・ウ(リ)」の略称がつけられている。

会場には猛烈な男性ファンが多く詰めかけた
会場には猛烈な男性ファンが多く詰めかけた

いっぽう会場では、MCからメンバーのイェインに対し「一番好きな歌詞はどの部分?」との質問が飛んだ。彼女は「LOVELYZらしい」として、中盤(公式MVでは2分10秒)のこのパートを挙げた。

心配しないで

私たちが失った季節が悲しくならないように

あなたを細切れに集めて 切実な思いになるでしょう

こんにちは

いま 振り返るわ

明日 会うみたいに

心配しないで、と相手に言いながら、めちゃくちゃ心配させる内容。イェインも「『細切れに集める』という表現が詩的」と言う。「こんにちは」と筆者が訳した部分は、韓国語で「アンニョン」。イタリア語の「チャオ」に似て、「こんにちは」にも「さよなら」にも使える。もしかしたら「さよなら」と訳すべきか? そちらでもハマりそうだ。それくらいに文学的。見る側に想像させる仕掛けが多様に織り込まれている。

会場では”ギャグ”も! ミジュが自身のフォトタイムで、どうしても「髪がはねた姿」を撮ってほしかったらしく、自身の制限時間を少し超えてでもこの動きを繰り返していた! 
会場では”ギャグ”も! ミジュが自身のフォトタイムで、どうしても「髪がはねた姿」を撮ってほしかったらしく、自身の制限時間を少し超えてでもこの動きを繰り返していた! 

”グループ既存の音楽カラーを維持”にこだわり

確かに、過去の恋愛の1番いい時を回想する今回の曲は「なんかLOVELYZっぽい」。新曲発表会でMCは「音楽には、POP、ロック、ヒップホップ、ジャズといったジャンルがありますが、そこに”LOVELYZ”も加えるべきじゃないですか?」と言い、メンバーたちは拍手をしていた。

事務所側はまた、「Beautiful Days」をこうも説明している。

”LOVELYZのみが持つ、既存のカラーを維持しつつ、清涼でさわやかなサウンドにより、季節感に合わせた編曲が施された”

自分たちだけのカラー、という話を幾度も強調して伝えようとしているのだ。新曲発表会での曲説明の内容は、この先グループが音楽番組に出演していく際、曲紹介のテロップとして流れる。番組ごとの文字数に合わせ編集されていくから、「カラー」のくだりは絶対削られたくないという思いがあるのではないか!

いったい彼女たちにとっての、”LOVELYZだけのカラー”とは何なのか。今年1月、東京でインタビューした際にリーダーのベイビーソウルがこんな話をしていた。

(今のK-POPシーンでは)最近のトレンドに乗った楽曲はすごく多いと思います。印象的なパートを繰り返したり、あるいは爽快感を強く強調したり。音楽的な要素が洗練されたものだったり。いっぽう、私達の音楽はデビュー当時から、昔からの感性が込められていますよね。だからこそ、多くの年齢層のファンがいてくださるのかなと思います。そしてただかわいらしいだけ、ということではなく、そこにはかなさも込められている。そういった点も私達だけの特徴ではないかと思います。

出典:【K-POP論】来日リリイベを終えたLovelyzインタビュー「韓国語で一緒に歌っていただき、感動」/筆者

デビューから5年。どんなグループでも変化が必要なときだ。かわいらしさから、セクシーに変わっていくグループもある。LOVELYZは”文学的”に変化する一面を見せてくれるのか。デビュー時から作曲に関わったSPACE COWBOY氏の楽曲だからこそ、それが可能なんじゃないだろうか。そんな期待感も抱かせた。

大人もすごく楽しめるLOVELYZ。今週から「Beautiful Days」を中心に、韓国での音楽番組への出演を続けていく。筆者自身、本稿執筆のためこの歌を聴いて、MVを見て、研究して、ちょっと泣きました。お恥ずかしながら。

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吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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