ロシアW杯の結果が「△」だった韓国でサッカー代表戦ブーム。声援のデシベル数まで表記、日本にはない風景

試合前のソウルワールドカップスタジアム。続々と観客が入場していた(筆者写す)

3月22日の日本―コロンビア戦を横浜で、26日の韓国―コロンビア戦をソウルで取材した。本題に入る前に、ピッチ上での出来事のまとめを。

「コロンビアを通じて今の日韓、どちらが強いのか」という点を探るのがいちばんストレートなテーマだったかもしれない。

しかしこれはあまり参考になりそうにない。26日のソウルでの試合後、カルロス・ケイロス監督はなかなか会場に姿を表さず、質疑応答もほぼコロンビアメディアとのもの。うち1人だけが「ハポン」の言葉を引き合いに今回のアジアツアーの成果を分析しようとした。ケイロスは「韓国は日本より少し直線的で強度のあるゲームを戦う」というコメントを残した程度だった。

ハーフタイムに投入される前にケイロス監督の指示を受けるハメス・ロドリゲス
ハーフタイムに投入される前にケイロス監督の指示を受けるハメス・ロドリゲス

コロンビアは南米選手権に向け「新しい選手を起用した(カルロス・ケイロス監督)」とし、日本戦では先発したハメス・ロドリゲス、ファルカオがベンチスタートとした。その日本戦ではケイロス監督自ら「相手MF陣が予測不能な状況をつくった」と話し、守備ラインを低く取る戦いを見せた。しかし韓国戦では全般的に守備ラインを高く取って戦った。韓国はこれに対し、守備ラインの裏のスペースにボールを積極的に入れることでチャンスを作った。

【速報・国際Aマッチ】韓国がハメス・ロドリゲス、ファルカオがベンチスタートのコロンビアに2-1で勝利

いっぽう、韓国に見るべき点はいくつかあった。

ソン・フンミン(トッテナム/イングランド)がベント監督就任9試合目にして初ゴール。その背景には、ついに2トップを試したという点がある。パートナーはファン・ウィジョ(ガンバ大阪)だった。

選手起用、戦術に関して「頑固」とのマイナス評価があるベントは、4-2-3-1にこだわるあまり、アジアカップではファン・ウィジョを前線に、ソン・フンミンを左サイドで起用した。

近年の韓国は、大苦戦したロシアW杯最終予選後に、”ソン・フンミンの得点力を全面に出す”というかたちで復活を遂げたにもかかわらず。

ロシアW杯後にJリーグでゴールを重ねたファンが台頭。端的に言えば、「どちらに点をとらせる?」という問題が浮上していた。

2トップ採用は無用な議論に終止符を打つだろう。ソンがゴールを決めただけではなく、ファンの活躍も目立った。スルーパスで17分のソンのゴールをアシスト。後半には左右のサイドら攻め込み、決定的なシュートを放った。

いっぽう、パウロ・ベントは「新しい選手の起用」という点では頑固さを見せた。

3月26日のコロンビア戦後に
3月26日のコロンビア戦後に

イ・ガンイン(バレンシア/スペイン)、イ・スンウ(ヴァローナ/)、ペク・スンホ(ジローナ/スペイン)という若手欧州組を呼び、ファンに期待を抱かせたが、結局22日のボリビア戦でをイ・スンウを63分から起用したのみ。

世代交代、という点でははっきりと日本のほうが先んじている。韓国は中盤でキ・ソンヨン(ニューカッスル/イングランド)、ク・ジャチョル(アウクスブルグ/ドイツ)が代表を引退したため、替わりにファン・インボム(バンクーバー・ホワイトキャップス/MLS)がボランチとして台頭してきた程度。後はロシアW杯代表が目立つ顔ぶれだ。ちなみに今回、日韓それぞれのコロンビア戦での先発メンバーのうち、ロシアW杯組は日本4:韓国6だった。

パウロ・ベントに関して言えば、当初は日本からも外国人監督の新たな発掘法として注目すべき点があった。

2012年の欧州選手権で母国ポルトガルを4強に導いた49歳は、その後のキャリアで苦戦している。クルゼイロ(ブラジル)、オリンピアコス(ギリシャ)に続き、2017年に指揮を取った重慶(中国)でも短期間でその座を追われた。いわば「キャリアの瀬戸際にあり、欧州復帰のモチベーションの高い存在」。日本もこの先、欧州のトップ指導者を招けずとも、こういった人材は発掘できるのではないかと。

しかしここにきて結果にこだわるあまりの「頑固さ」という顔を見せている。就任後9勝4分1敗。数字だけを見ると決して悪くはない。しかし、特にアジアカップでは実績のある選手の起用にこだわり、結果ベスト8敗退を喫した。韓国のサッカー専門メディアの記者が言う。

「韓国の指導者だったら、なんだかんだで若い有望株については幼少の時から知っているものです。しかし、外国人のパウロ・ベントは韓国で過ごした時間が短く、実績だけを見て選手を決めなければならない点がある」

26日の試合でハーフタイムにアップを終え、ロッカールームに戻るイ・スンウ。この試合、新星に出場機会は与えられなかった
26日の試合でハーフタイムにアップを終え、ロッカールームに戻るイ・スンウ。この試合、新星に出場機会は与えられなかった

韓国は2001年就任のヒディンク、05年就任のボンフレーレ、14年就任のシュティーリケなど、新戦力発掘を果敢に行った外国人監督がいた。かつて韓国国内で蔓延した「地縁・学閥による偏った選手選抜をやめてほしい」という願いも外国人監督に対して込める。パウロ・ベントの結果にこだわりすぎるがあまりの頑固さは、想定外だったか、調査不足だったか。

戦績は韓国、将来性は日本に分がある。2019年3月時点の日韓の現状はこう整理できる。

試合中の観客数発表後、スタジアムMCが加えた「初の6試合連続売り切れ」

前置きが長くなった。ピッチ外の状況こそが今回の現地取材を通じた「本論」だ。かなりのインパクトがあった。スタンドの風景だ。この日も6万4000人超の観客が訪れ、韓国での「代表戦ブーム」を改めて感じた。ロシアW杯での結果が決して芳しいものではなかったにもかかわらず、だ。

筆者は、日韓サッカー史を分析する立場にあるが、両国のW杯に関してこればかりは説明のしようがない”ジンクス”がある。

両国のW杯での成績は、「大会ごとに○×繰り返す」。良い大会の次は悪い。表のとおりだ。

筆者作成。韓国は1954年スイス大会出場時除く
筆者作成。韓国は1954年スイス大会出場時除く

理由は未研究だが、結果として法則性がある。

 

ところが、2018年の韓国が新しい歴史のドアを開いた。

 「△」

結果として、グループリーグ敗退は間違いない。しかし最終戦のドイツ戦での2-0の勝利は国内で大きな感動を呼んだ。結果より印象が上回る。そういう状況になったのだ。

3月26日のコロンビア戦の後半、ソウルワールドカップスタジアムの場内アナウンスで観客数が発表になった。

64,388人。

MCが一言加えた。

「史上初、フル代表の試合が6試合連続で売り切れとなりました」

ロシアW杯前の国内壮行試合では、2戦のうち1戦、5月28日のホンジュラス戦が約6万4000人収容のテグスタジアムに3万3252人しか集まらないこともあった。ちなみにソウルでの最低動員記録は08年9月のチリ戦ではソウルワールドカップスタジアムに1万5012人だ。

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ロシアW杯前にあった「次、グループリーグ敗退なら暗黒時代」という恐怖

考えてみよう。ロシアW杯前は、日本も韓国も同じ状況だった。

「2大会連続でW杯本選でグループリーグ敗退を喫すれば、この後に暗黒時代が来るという恐怖感におののく」

これはぴったりと同じ状況だった。日本のロシアW杯前の絶望的な空気は改めて言うまでもない。韓国は大韓サッカー協会のホン・ミョンボ専務らが「大会前の雰囲気の盛り上がりがない」と口にし、積極的なメディア露出を目指した。日韓ともに大会直前の壮行試合ではW杯非出場国にホームで敗れ(日本はガーナに0ー2、韓国はボスニア・ヘルツェゴビナに1ー3)、追い詰められた状態になった。6月1日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦を現地取材したが、この際韓国記者と「東アジアは全滅だ」という会話をしたものだ。

いざ、フタを開けてみると日本は危ない橋をなんとか渡りきった。南アW杯と同じく、直前の大きな変化(監督交代や戦術・メンバーの入れ替え)により一か八かの勝負に勝ったのだ。

いっぽう韓国は……初戦のスウェーデン戦でシン・テヨン監督がまさかの4-3-3を初採用。それまでのフォーメーションを足して2で割るような戦い方が裏目に出て0-1で敗れ、その後メキシコにも勝てず、グループリーグ敗退を喫した。

ところが、韓国では当初の予測がまったく当てはまらない状況が起きているのだ。

コロンビア戦の記者室で言葉を交わした「NEWS1」のイム・ソンイル記者はこんなことを言っていた。

「こちらもまったく理解が出来ない。アイドルの人気に近いものがある。みんなが騒ぐから、私も騒ぐという」

試合当日、韓国代表人気に関する会話をソウルワールドカップスタジアムで交わしていたところ、複数韓国メディアに記事が掲載された。なかでも「NEWS1」は筆者が「韓国サッカー、理解が出来ない」と発言したという強い見出し。恐ろしい。理解できない、で終わっては沽券に関わる。取材を織り交ぜた分析を。

「自然発生的」ではない、主催者がリードする応援コンセプト

3月26日のソウルワールドカップスタジアムには、明らかに日本の代表戦とは違った風景があった。

”主催者側が積極的にスタンドを盛り上げる”。

もちろんゴール裏のサポーターからの応援コールはしっかりとあったが、それに加えこういった風景が見られた。

・大韓サッカー協会側から「驚蹴」というテーマの応援コンセプトが組まれ、観客にプラカードが配られた。

・スタジアムMCと観衆によるコール・アンド・レスポンス。

・スタジアムMCのリードにより、スタンドの観衆が一斉にスマホのライトをオンにしかざす演出。

・サポーターの応援歌詞がビジョンに映し出される。

・スタジアム内の声援を「デシベル数」でビジョンに映し出す。これを見たスタンドはより大きな声を出す。

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日本の代表戦ではなかなか見られない風景だ。コール・アンド・レスポンスや、歌詞をビジョンに映し出すものはJリーグでは時折見られるが。

いっぽうでデジベル数の演出は筆者自身、完全に初めて目にしたものだった。聞くと「Kリーグでも最近はよくやっている」のだそう。

いずれも、90年代前半から後半にかけて、両国でサポーターの動きが活発化した時代とは異なる考え方によるものだ。

・サッカーの応援とは、もともとが自然発生的なもの。

・応援には在野精神があるべきであり、時に自チームに強いブーイングを加えることもあるべき。

日本の代表戦では、協会側と応援側が表立って手を取り、何か共同で雰囲気を作り出すという風景はあまり見たことはない。Jリーグでもまた、差別や暴力といった要素は徹底的に排除しつつも、「自然発生的」という要素はなんとか守ろうという雰囲気はないだろうか。

いっぽう、韓国では「応援もまた主催者側がリードする」という考えがサッカーにも伝播してきている。これは元々は韓国プロ野球発祥の発想だ。球団が雇った応援団・チアリーダーが内野席でリードし、雰囲気を作っていく。日本の感覚すると少し驚くが、確かに「誰でも応援に入りやすい」という利点がある。

「プロ野球発祥」のスタイルが、バスケット、バレーボールを通じてサッカーに伝播

2013年にKリーグの事務総長とインタビューした際、すでにこんな話をしていた。

「韓国国内のサッカーは、かつては野球と並ぶ2大人気スポーツでした。しかし今は野球人気が突出しています。我々は国内の他のプロスポーツであるバスケット、バレーボールといった別のプロスポーツのありようを分析しています」

かつてはサッカー、野球の国内人気は「シーソー」と言われた。一方に人気が出ると、一方が傾くという。しかし野球が08年北京五輪優勝を境に一気に人気爆発。いっぽう国内サッカーは2011年に発覚したKリーグ八百長事件の痛手、主要選手の国外移籍などで人気を落としていった。

そういったなかで、新たな取組が必要だった。スタジアムの演出そのうちのひとつだ。ロシアW杯後、特に盛んになった代表戦に先んじて、Kリーグではサポーターの応援に加え、主催者側がスタジアムMCを通じて応援を煽るという風景が見られてきた。韓国ではバスケット、バレーボールも似た形式で応援が繰り広げられる。するとこれがサッカーに伝わってくることに大きな違和感は持たれなかった。

3月国際Aマッチデーの記事を記したサッカー専門媒体「インターフットボール」は「サッカー場? コンサート会場?」と雰囲気を表現し、「最高」との評価を加えた。

この結果、女性ファンが大きく増加したのだ。昨年9月11日時点で「スポーツ京郷」が「ファン層が変わった」点を指摘していた。カップルや家族連れが増えたのだ。韓国サッカー専門媒体の代表担当者がいう。

「大韓サッカー協会から、関連グッズが発売され、これが売り切れになっている。日本だとこれまでも起きてきたことでしょうが、韓国では珍しいこと。なぜ売れ始めたのかというと、女性がこれをスタジアムで身に着けてインスタグラムにアップするのです」

インスタグラムの”ソウルワールドカップスタジアム”ハッシュタグ。満員のスタジアムもインスタ映えするスポット、ということか
インスタグラムの”ソウルワールドカップスタジアム”ハッシュタグ。満員のスタジアムもインスタ映えするスポット、ということか

大韓サッカー協会側も公式インスタグラムを通じ、選手の個性を伝えていく取り組みをしている。写真にかわいらしい見出しを打ったり、過去の選手本人の発言をイジる一文を加えたりしている。

こういった新規ファンに大きく寄った演出は、日本の代表戦では見られない風景だ。いつの日かこのやりかたを選択する日が来るだろうか。雰囲気をあまりに一方に寄せすぎると、コアファンが渋い顔をするのではないか。はたまたスタジアムでの演出は「負けても楽しい」という安全デバイスの役割を果たすのか。

いずれにせよ、韓国ではロシアW杯の「△」という結果に対し、熱気の持続には成功している。02年W杯後でもW杯イヤーが明けたこの時期まで熱気が持続することはなかった。頑固、渋いといわれるパウロ・ベントのチームは依然として国内の親善試合で無敗という要因も大きいだろう。ただしこの先、無敗の時は続かないだろう。その時に雰囲気がどう変わるのか。実験の結果を引き続き見ていきたい。