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日本―ベルギー戦を韓国メディアはどう報じたのか。称賛、日韓比較、記録発掘……そして「悔しさ発露」も

ロシアW杯決勝トーナメントでの日本の姿を、韓国は多様な角度から報じた(写真:ロイター/アフロ)

アジア健闘、日本に肯定評価、日韓比較などなど

全般的に穏やかな反応。

日本の結果を過激に取り扱うよりは、先に敗退し次のフェーズに向かう自国代表のニュースを厚く扱う。

韓国でのベルギー戦関連報道はそんな印象だった。試合翌日に韓国最大のポータルサイト「NAVER」で大きく取り上げられた関連記事はこういったところだ。

「辺境の評価を受けてきたアジアサッカー、ロシアでプライドを打ち立てた」(ノーカット・ニュース)

韓国がドイツを破った点と、ベルギーに大健闘した日本の姿が世界にインパクトを与えたという主旨。

「”切腹”まで言及された日本、”大会最高のゲーム”で劇的に評価転換」(ニュース1)

同媒体は「ポーランド戦の時間稼ぎで激しい批難、ベルギー戦では負けたが賛辞……驚異的な試合」と続けている。

筆者は20年前の「ジョホールバルの歓喜」の際も韓国人の友人と多く言葉を交わしたが、その時から日本関連のいい試合は、ストレートに称賛するという雰囲気はあった。あの時は日本3-2イランというスコアだった。

また自国との比較の中で、健闘を讃えようという記事もあった。

「欧州組15人の日本、ベルギーを一瞬揺るがせた”チャレンジャー精神”」(ジョイニュース24)

欧州組5人の韓国と比較。Kリーグの劣悪な現実、意識転換、制度補強なしでは自分たちも変われないと論じた。「日本はかつてのショートバスだけにこだわるスタイルではなく、闘志を身につけていた」とも。

じつは「大記録」の多かったゲーム?

いっぽうでこんな”変化球”の記事も。

「ベルギーが日本戦で打ち立てた珍記録」(スポーツ京郷)。こういったものがあるという。

■W杯の決勝トーナメントで2点差の逆転勝利は48年ぶり。1970年大会で西ドイツがイングランド相手に延長戦で勝利して以来。

■さらに2点差がついた後、延長戦に入らずに逆転勝ちしたのは52年ぶり。1966年大会でポルトガルがエウゼビオのハットトリックで逆転して以来。相手は北朝鮮だった。

■決勝トーナメントで途中出場選手2名がゴールを決めたのは史上初。ベルギーの3ゴールのうち、先制点以外は途中出場の選手のもの。途中出場選手が2ゴール決めたことはあったが、今回のパターンは初めてだった。

■ヤン・フェルトンゲンの1点め「18.6m」はW杯でのヘディングでのゴール史上最長距離。イギリスのサッカー関連統計会社のデータを引用。

この記事はまた、「第三者が観て、いちゲームとして興味深かった」という韓国の見方を表している。

やはり出た”悔しい”の声。これを制する論調も

”イイ話”ばかりではない。

「NAVER」のコメント欄では日本に対してネガティブなものが吹き荒れ(いつものことだが)た。筆者のSNSでも「ドイツ戦の勝利、日本の敗退に安堵せず、韓国代表の次のステップを考えよう」といった意見があった。称賛と日本がベスト16で戦った悔しさが入り混じっているのだ。

最たるものが、地上波KBSでの放送で解説者の発言が物議を醸している点だ。

ハン・ジュニ解説委員が94分のシャドリの決勝ゴール後に叫んだ。

「私は先程、すごい間違いを犯しました。ありがとうございます。(シャドリを交代選手として)なぜ投入したのかと発言したことにお詫びします」

これに対し、韓国のネットでは「公共放送にふさわしくない」と批判が集中。各メディアがこれを報じた。

ハン解説委員はこの後、別局のニュース番組に電話出演。こうコメントを発した。

「ゴールを決めた選手に謝罪したい」

「まず、彼は私にとってかなりプラスになる仕事をしてくれた。前日もPK戦まで行く、長時間の中継を行った。次の日もそうなりそうだった。疲労感が溜まっていた。2日連続延長線になると一緒に仕事をしているキャスターとともに、かなりの疲労度が襲いかかってきた」

背景を説明した後、日本についても言及した。

「本能を隠すことができなかった。敗れたチームに対しても申し訳ない。瞬間的にそういった言葉が出てしまった」

この後の発言に、現代韓国の”日本観”がよく現れている。

「私の人格と人柄が高水準だったら、隠さなければならなかったのだが、(中継時には)韓国と日本サッカーを比較するという一面があり、日本のチーム力は優れていた。長所と特性をよく活かしていた。韓国の存在が小さく見える状況もあった。瞬間的に本能が出てしまった」

日本の善戦に対して複雑な感情は持ちうるが、これを公の場で口にするのは慎みなさい。そういった風潮の現れだった。

監督去就、選手引退。そして来年の話……

ただ、こういった記事よりもやはり、自国代表関連の話題が目立ったのは確か。

一時代を築いたキ・ソンヨン、ク・ジャチョルの代表引退が話題となっている。またドイツに勝利したシン・テヨン監督の去就については大韓サッカー協会が「評価を巡って再議論」と報じられている。一部メディアはブラジル人監督の就任説も報じている。

端的だったのは、ベルギー戦数時間で発信されたこの記事だった。

「日本もイランも実力は確実…アジアカップ、しっかりとした準備が必要」(ニュース1)。

大会は来年の1月、UAEで行われる。さあ次に行こう、ということだ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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