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【平昌五輪・韓国の視点】人はなぜ、カーリングにハマるのか

2月23日の大会準決勝で対戦した日韓女子代表。(写真:ロイター/アフロ)

25日に17日間の日程を終えた平昌五輪。日本と同じく、韓国の地でも予想以上の女子カーリングへの熱狂が続いている。銀メダルを獲得した「チーム・キム」のメンバーの所属先である慶尚北道体育会(体育協会)、大韓カーリング競技連盟には広告代理店やメディアからのコンタクトが殺到している。「聯合ニュース」はその”床を磨く動き”から、「掃除機のCMのモデル起用があるかも」と報じている。大会準決勝日本戦の韓国での視聴率43.35パーセント(日本では同戦42.3パーセント)を生み出した彼女たちを放っておく手はないだろう。

26日に五輪選手村で行われた韓国選手団の解散式でも、キム・ウンジョン(27)、キム・ギョンエ(24)、キム・ソンヨン(24)、キム・ヨンミ(24)、キム・チョヒ(21)の女子カーリング選手が最高の人気だったようだ。「スポーツソウル」はこう綴っている。

解散式の会場となった平昌五輪選手村=韓国江原道江陵市。大会前に筆者撮影
解散式の会場となった平昌五輪選手村=韓国江原道江陵市。大会前に筆者撮影

「眼鏡を外し、髪を下ろしたスタイルで登場した『眼鏡先輩』。メディアはもちろん、任務を終えた警備・保安関係者、ボランティア関係者からも大人気で、写真撮影をどの選手よりも多く求められていた」 

同紙はこの「眼鏡先輩」の姿をリンクの上のキリッとした姿とは違う「ピュアな女性」と表現した。

また解散式では、司会者が一番印象深かったシーンとして、「メガネ先輩」が試合中にチームメイトのキム・ヨンミへの指示の際に口にした「ヨンミー!」を挙げた。さらにこの場で挨拶に立った国家機関の文化体育観光部ド・ジョンファン長官もこう発言したという。

「昨日、閉幕式の直後にIOC(国際オリンピック委員会)と外国メディアから大会についての好評をいただき、気分がよくなって思わず、乾杯の挨拶を”ヨンミ!”と言ってしまいました」

この時、女子カーリングチームのメンバー、ヨンミ本人がスクリーンに大きく映し出され、彼女は恥ずかしそうにマフラーで顔を隠すポーズを見せたという。

韓国紙「興行に必要な3大要素が揃っていた」

一連の人気ぶりを伝える韓国の報道のなか、27日付けの「スポーツソウル」のキム・ヨンイル記者の記事が興味深かった。競技自体の魅力を描いていたのだ。

「チームワーク、キャラクター、ストーリー……大衆はなぜ女子カーリングに熱狂したのか」

なぜ、この種目の魅力に大いにはまるのか。記事では、理由をこう結論づけている。「興行3大要素に挙げられる成績、選手の興味深いキャラクター、ドラマティックな競技展開がハーモニーを奏でていた」。

成績とはいうまでもない、韓国女子代表が前回ソチ大会の8位(3勝6敗/京畿道庁が参加)を大きく上回り、銀メダルを獲得したこと。

キャラクターとは、「チーム・キム」がキム・チョヒを除いて、人口5万6000人の小さな街慶尚北道義城郡で10年以上”近所付き合い”をしてきた先輩・後輩の関係であること。ちなみに「キム・ヨンミ」という名前、韓国でかなりありふれたものだ。フェイスブックで名前を検索してみただけでも、同姓同名が95人も出てきた。そんな平凡な名前の平凡なグループが大注目されるから、また関心が増す。

ストーリーとは、去年8月からの”上層部”の内紛で五輪前の強化期間に国際舞台での実戦の機会が持てなかったこと。結局チームは大会直前に時差の大きいカナダに向かい、大会に出場した他は国際舞台を踏むことができなかった。

大会公式ページでのカーリング競技写真

唯一、投げた後にもメンバーが目的の場所までともに力を合わせなくてはならない種目

韓国国内の事情を紹介する部分もあったいっぽう、この記事で興味深かったのは、「カーリング競技自体の魅力」について描いていることだ。

「韓国の男子カーリング代表のほうはグループリーグ敗退を喫したが、開幕式の前から競技を行ったことで、韓国での五輪全体の雰囲気を盛り上げた」とし、早い段階で、こういった魅力に気づかせたという。

カーリングはただ石を滑らせて、床を磨くだけの単純なスポーツだという大衆の偏見を変えたという点で深い意味があった。一投ごとに作戦が込められており、スウィーピングはストーンを望む位置に届けるにあたり、決定的な役割を果たす。体力も必要な興味深いスポーツだという点に気づかせた。

そうしたうえで、他の種目との違いをこう表現している。

”カーリングが(数ある五輪種目のうち)’物体を投げる’競技のひとつと考えるのなら、唯一、投げた後にもメンバーが目的の場所までともに力を合わせなくてはならない種目だ”

筆者もテレビ中継を観ていて、この「投げた後」に楽しみを感じた。静的要素・動的要素のバランスが絶妙なのだ。冬季競技はスピーディーなものが多いなか、この種目はストーンを投げる前は選手が止まっている。選手の表情がじっくり見える。中継ではマイクを通して言葉も聞ける。投じられた後は、ゆっくりと動いていく。そこでもまた選手の表情が見える。そしてまた、選手が喋る。「ヨンミ!」「そだねー」というふうに。

ゆっくり動く、止まるというふたつの動きがある。日本でよく言われる話を思い出したりもした。「サッカーより野球が日本で先に普及したのは、”間”があるからだ」。バレーボールもこの点で優れていると感じることがある。サーブの間は止まる。テレビ中継では選手の表情やヴィジュアルをじっくり観られる。その後ジャンプ、スパイクなど派手な動きがある。カーリングの中継を観つつ、ふだんあまり論じられないスポーツの魅力「止まる、動く」の印象度の強さを感じたりもした。

時速140キロ、50キロ、28キロ、そして18キロ。

持論が過ぎた。同じ韓国メディアのテレビ局「JTBC」もまた、「独特のスピード感」の魅力を強調している。

冬季競技はスピードの戦いです。ソリは時速140キロで走り、スピードスケートは時速50キロ超で滑る。スキーのクロスカントリーも時速28キロ。しかしカーリングは時速18キロしか出ません。冬季五輪で一番遅いですが、一番騒がしい競技でもあります

騒がしい、とは「選手が喋って意思疎通する場面がある」という意味だ。いっぽう、「団体種目」という点も重要だ。「スポーツソウル」は自国の他種目での”スキャンダル”を引用しながら、こう続けている。

チームワークが絶対的に必要。そうでなくとも一部、スケート競技などで「いじめ騒動」が荒っぽく吹き荒れる状況で10年以上コンビネーションを築いてきたメンバーの粘り強いチーム精神がより輝いた

この点も稀有なものではないか。冬季五輪の多くは個人の技量を争うものだ。団体戦であっても個人の結果を総合して競うものが多い。力を合わせて相手と競う競技はアイスホッケーやカーリングなど数少ないものだ。

ゆっくりとした時間が流れ、間があり、かつ選手の表情をじっくり見ていける。力を合わせて戦う団体種目。そういった希少性が、冬季種目のなかでは「オアシス(これ、本来、砂漠地帯のものだが!)」となっているのではないか。

JTBCはアフリカのこのことわざを引用し、カーリングの魅力を説明している。

“If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.”

(速く行きたければ一人で行け。遠くに行きたければ共に行け)

日本と同じくカーリング人気に沸く韓国で書かれている内容。「そだねー」と共感できる部分もあるのではないか。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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