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センバツ高校野球は招待試合なのだ!

楊順行スポーツライター

「奄美に行きませんか?」

取材先の熊本にいる24日、ケータイが鳴った。

「大島高校が21世紀枠でセンバツ出場が決まったんです」

行きます行きます、なにしろ奄美大島には行ったことがないもので……と、熊本での取材を終えたあと、鹿児島に移動して奄美に飛んだ。

内輪話をすると高校野球雑誌のセンバツ特集では、選考会が行われて出場校が発表されるまでに、出場が有力な学校の取材はあらかたすませておく。なるべく早く雑誌を発行するには、発表後に動くのでは他社に後れを取るからだ。今年の場合、出場は32校だから、当落が微妙なチームも含め、どの雑誌でも35校程度は選考会前に「済」マークが押されていただろう。

ただ21世紀枠となると、事情が異なる。9地区の推薦校のうち出場は3校で、しかもどこが選ばれるかはフタを開けてみるまでかいもく見当がつかない。事実過去には、発表当日、有力と見られていた推薦校に出向きながら、空振りに終わったことが何回かある。あらかじめ取材しておくには確率が低いのだ。反面、話題性のあるチームも多い。で、21世紀枠に関しては、出場が決まってから取材に出向く……というスタンスの雑誌が多いのではないか。というわけでの、奄美行きだった。

「インビテーションですから」

今年の出場校は、秋の各地区大会の結果をもとに、ほぼ予想通りの顔ぶれになったが、僕が取材したチームのうち、ひとつが選に漏れた。原稿はボツになったのだが、それはまあ、いい。いつも不快な気分になるのは、センバツ出場校を予想するような掲示板で、当落線上にあるチームに肩入れするファンの醜悪なやりとりがエスカレートすることだ。Aチームのファンが「オマエノカアチャンデベソ」と書き込めば、Bチームは「ミタコトアルノカ? ナンジナンプンナンジュウビョウ?」という子どものケンカのような、幼稚なあれだ。

また不思議に、そういう人々に限って「センバツの代表校」などと書いたりする。代表は「夏」に限った話。ついでにいえば夏の各地方大会はあくまで「大会」で、正確には予選ではない。はなはだしいのは「センバツ選手権」などという誤解だ。選手権というのは、そのカテゴリーで年に一度だけと決まっていて、たとえば高校サッカーなら、夏のインターハイは全国高校総体サッカー競技大会で、正月にやるのが全国高校サッカー選手権だ。

では、選抜高校野球大会は?

「選ばれなかったとしても、インビテーションですからね」

というのは、僕が今年事前に取材に行きながら、選に漏れたチームの監督である。そう。センバツは、招待試合なのだ。英文の表記はNational High School Baseball Invitational Tournamentで、これはウィキにも掲載されているから特定秘密でもなんでもない。 招待試合である以上は、すべては主催者の一存で、当落線上にあるチームや関係者が「招かれなかった」ことに文句をいうのは筋違いだ。紅白に出られなかった小林幸子のファンが、「AKBより歌はうまいのに」とNHKに掛け合っても、ハナも引っかけられない。

そして選考にあたっては、前年秋の大会の成績は、事実上はともかくあくまで「参考」だ。もし秋の大会がセンバツの予選だったら、00年のセンバツで準優勝した智弁和歌山は、出場もあやぶまれた。なにしろ、前年秋の近畿大会では初戦敗退ながら、初戦突破の2校をさしおいて選出されたのだ。翌年には、その大会から導入された21世紀枠で初出場の宜野座が、ベスト4。このあたり、選考委員会は、決して機械的な選考ではないと、自らの眼力に鼻高々だっただろう。

さてさて、21世紀枠としては過去に隠岐、佐渡といった島のチームが出場しているが、いまだに白星がない。大島はどうだろうなぁ。ちなみに初めて訪れた奄美では、田中一村美術館も、西郷隆盛潜居跡も見られなかった……。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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