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「防災意識」都市部と地方で大きな差?対策を講じる割合 地方ほど低く=JX通信社 独自調査

米重克洋JX通信社 代表取締役
(写真:ロイター/アフロ)

報道ベンチャーのJX通信社では、関東大震災から100年の節目となる今年9月1日の防災の日に先立ち、全国規模の意識調査を実施した。その結果、都市部と地方では市民の災害への備えの有無や程度に大きな差があることや、災害時の情報手段として、高齢者も含めて「SNSやネット」が主流になっていることなどがわかった。

都市部ほど防災意識高い?対策の有無に大差

「防災の日」は、100年前の1923年9月1日に発生した関東大震災に由来して設定されている。このため、今回の調査では地震をはじめとした様々な災害を切り口として、全国の回答者3334人に災害への備えについて聞いた(調査の概要は末尾に記載)。

質問の中で、家庭でできる8つの災害対策を例示し、それぞれの実施の有無を聞いたところ、対策しているという回答が最多だったのは「避難経路や避難場所を確認する」で47%だった。次いで「3日分以上の食料・飲料を備蓄する」が45%、「家具の固定など、転倒防止の工夫をする」が42%と続いた。例示した8つの対策のうち、対策しているという回答が半数を超えたものはなかった

更に、この結果を地域ごとに分析すると、災害への備えを聞いた8つの質問全てで都市部ほど対策が進んでいる一方で、地方では対策が進んでいない現状が明らかになった。

例えば「3日分以上の食料・飲料を備蓄している」について、東京23区に居住する人は62%が「対策している」と答えたのに対して、政令指定都市居住の人は48%、その他の市に居住する人は43%、町村に居住する人は33%と、対策しているとする回答が減っていた。町村で対策していると回答した人は東京23区居住者の半分強に留まっている。

その他「非常用持ち出しバッグを準備している」「深夜に避難できるようスリッパや懐中電灯を準備している」といった備えについても、同様に町村居住者で「対策している」とする回答は東京23区居住者の半分近くに留まっている。その他のものを含めて、例示した8つの対策全てで、東京23区居住者の「対策している」割合が最も多く、次いで政令指定都市、その他の市、町村の順となった。

災害対策においては、人口減少で「公助」(行政の役割)に制約が生じつつある中、市民が自分の身を自分で守る「自助」、地域で助け合う「共助」の役割がより重要となっている。インフラが脆弱な地方ではより「自助」「共助」の備えが重要だ。だが、今回の調査では人口やその密度が低い地方ほど、それらの対策が不足している現状が浮き彫りとなった。

災害時の情報収集源 高齢者にも「SNS・ネット」浸透

今回の調査では、近年の情報環境の変化も踏まえて、災害時の情報収集に活用したい情報源についても聞いた(複数回答可)。その結果「テレビ」を挙げた人が73%で最多となり、次いで「SNSやインターネット」70%、「ラジオ」40%、「自治体の防災無線や広報車」28%、「新聞」13%、「壁新聞などの掲示物」4%と続いた。

複数回答可
複数回答可

更に、回答を年齢層別に分析すると、20代から50代では「SNSやインターネット」が、「テレビ」や「ラジオ」などの従来の情報源を上回る回答を得た。更に、60代で約7割、70代以上でも約6割の人が「SNSやインターネット」を災害時に想定する情報源として挙げていた。SNSやネットが、東日本大震災や熊本地震を経て、テレビやラジオと並ぶ災害時の重要な情報源と捉えられていること、その認識が60代以上の高齢者層にも広がっていることがわかる。

また、過去に地震で何らかの被災経験があると回答した人に絞って、実際に「最も役に立った情報源」を聞いたところ、「テレビ」を挙げる人が最多で49%、次いで「SNSやインターネット」25%、「ラジオ」21%などと続いた。

これらを地域別に見ると、東京23区、政令指定都市、その他の市、町村のいずれの居住者もテレビを最も役に立った情報源として挙げる人が最多だったが、町村のみ、次点で「ラジオ」が役に立ったという回答が多かった。相対的に人口規模や密度の低い地方になるほど「SNSやインターネット」を挙げる回答が減って「ラジオ」が増えている

単一回答
単一回答

東日本大震災以降、地方における災害発生時の情報手段として、コミュニティFMが注目されている。地域密着でより細かな情報を発信できる手段になり得るためだ。今回の調査でも、こうしたコミュニティFMを含むラジオという媒体が、実際に被災経験がある人の中で一定の役割を認められていることが分かる。

時代の変化とともに、求められる災害への備えや適切な情報手段も変化しつつある。その変化に対応しつつ、地域や年代を問わず「誰ひとり取り残さない防災」をどのように実現できるかが課題と言えそうだ。

調査の概要

・対象:日本国内の20歳以上の男女3,334人

・調査方法:大手リサーチ会社に登録したモニターを対象にインターネットで実施。世代差を分析するため、20代、30代、40代、50代、60代、70代以上で均等になるよう回収した。

・回答期間:2023年8月17日〜18日

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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