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大阪・堺市長選告示前情勢 維新・永藤氏と現職の竹山氏が接戦=JX通信社世論調査

米重克洋JX通信社 代表取締役
堺市長選は、来年再び大阪都構想の住民投票が実現するかどうかの分水嶺になりそうだ(写真:アフロ)

今月10日に告示される大阪・堺市長選挙は、10月の神戸市長選とともに今年関西で最も注目すべき首長選である。「大阪都構想」の住民投票に向けた動きに大きな影響を与えるからだ。

大阪維新の会が早ければ来年秋にも実施を目指す都構想の住民投票には、大阪府・市それぞれの法定協議会での議論や協定書の議決といった手続きがなされることが必要だ。そして、維新は府市両議会で過半数に届いていない。この状況でもし維新が敗北すると、府市両議会で公明党がより非協力的になり(そもそも公明党は都構想に反対している)、住民投票に必要な手続きの一切にブレーキが掛かる可能性がある。

実際、前回2015年の住民投票も、当初は前年秋までの実施を目指していたものだった。しかし、維新と公明の関係悪化により2014年末の総選挙(旧維新の党が大阪府内で比例第一党となり踏みとどまったことで公明党が翻意したとされる)の後まで実施のメドが立たなくなっていた。維新が都構想を再び住民投票に持ち込むためには「都構想反対」が基本姿勢である公明党と連携し、府市両議会で特別区設置協定書を通すという難題をクリアする必要がある。そして、その難題のクリアには「民意」の後押しが欠かせない― 維新はそう考えているはずだ。では、その「民意」を占う堺市長選は一体どうなるのか。

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今回、堺市長選の情勢を分析するにあたり、筆者が代表を務めるJX通信社では8月5〜6日と26〜27日にそれぞれ、堺市内在住の有権者を対象にRDD方式による電話世論調査を実施した。情勢判断にあたっては、その間の有権者の態度変化や過去の選挙結果なども踏まえて分析した。

維新・永藤氏と現職・竹山氏が接戦

堺市長選は、告示まで2週間を切った現在、新人の永藤英機氏(前大阪府議・大阪維新の会公認)と現職の竹山修身市長(自民・民進推薦、共産支援)が接戦となっていると見られる。

堺市内での主な国政政党の支持率(8月26・27日調査)
堺市内での主な国政政党の支持率(8月26・27日調査)

永藤氏は8月下旬の時点で維新支持層の9割近くを固めているほか、無党派の3割弱、自民支持層の3割強からも支持を得ている。一方、現職の竹山氏は同じ時点で自民支持層の3割強、共産支持層の約7割、民進支持層の約6割から支持を得ているほか、無党派でも2割台半ばから支持を集めている。公明支持層からも永藤氏より多い支持を集めている。

維新の永藤氏が無党派と自民支持層を大きく切り崩す一方で、現職が保革を超えて自民以外の既成政党支持層を固めて守っている構図だ。

現職の8年間の市政への評価はやや低い

前回2013年の市長選挙では、現職の竹山氏が6割近い得票率で圧勝し、維新の新人・西林克敏氏を破った。今回も維新が意中の候補とされた元アナウンサーの擁立に失敗し準備が遅れるなど「現職有利」との観測も強かった中で、事前の下馬評と異なる接戦となっている。

こうした情勢になっているポイントとして、現職の8年間の市政への「評価」が割れていることが挙げられる。8月26〜27日の調査で「8年間の竹山市政をどう評価するか」を聞いたところ、肯定的に評価する層(評価する・どちらかと言えば評価するの合計)は49.5%と半数に届かなかった。一方、否定的評価(評価しない・どちらかと言えば評価しないの合計)は50.5%と過半を僅かに超えている。これは、再選を目指す現職にとってはやや厳しい数字だ。

竹山市政の評価と今年7月の横浜市長選における林市政(再選)の評価の違い
竹山市政の評価と今年7月の横浜市長選における林市政(再選)の評価の違い

他地域で今回と同様現職が再選を目指す首長選挙において、JX通信社の調査では現職の市政への肯定的評価が6〜7割台ほどあることが多い。そして、こうした数字の場合、多くは現職が一定の差をつけて再選される。同じ政令指定都市の首長選では、今年7月に行われた横浜市長選挙もそうだった。他社の調査でも類似の傾向は多く、こうしたケースに比べて竹山氏の8年間の堺市政への評価は相対的に低い。

維新・永藤氏の陣営ではこうした現職の市政への批判を強めている。実際、永藤氏は8月の上旬調査と下旬調査の間に無党派で一定程度支持を伸ばしており、この背景には、こうした現職批判戦術の奏功があるとも解釈できる。

「都構想」争点化は両者に思惑違い?

だが、一方で堺市長選をめぐる在阪メディアの報道では、主要な争点は「大阪都構想の是非」だとされている。

維新・永藤氏側は都構想の争点化は不利もしくは時期尚早と考えているようで、マニフェストにも入れていない。大阪維新の会の政調会長を務める吉村洋文大阪市長も、堺市を含む都構想の議論を先送りする考えを示している。一方で、現職の竹山氏側は、都構想に堺市が参加すれば特別区に分割・解体される格好となる点を挙げて一貫して反対し続けており、両者には大きな違いがある。明らかな違いがある以上は、この都構想が争点になることは不可避であり、実際、有権者が重視する政策課題としても3位に上がっている。これは堺市長選が注目されている一つの要因だ。

「大阪市を廃止し特別区に再編する大阪都構想に賛成しますか」という質問への回答
「大阪市を廃止し特別区に再編する大阪都構想に賛成しますか」という質問への回答

ところが、この都構想の争点化を巡っては、両陣営それぞれに思惑違いがあるようだ。堺市長選の投票において都構想を「最も重視する」とした有権者の中では、維新・永藤氏の支持が7割近くと圧倒的なのだ。裏返しに、現職の竹山氏は2割台に留まっており、4年前の前回選挙のように都構想を争点化し「堺を守る」というメッセージを発信することで有利に戦えるとは言い難い支持動向となっている。加えて、堺市民の都構想自体への賛否についても、賛成が51.1%と過半をわずかに上回っていることも、注目に値する。

隠れた最大の争点は「維新政治」?

都構想以外の主要な政策課題における支持動向では、現職・竹山氏と維新・永藤氏がほぼ拮抗している。重視するとした有権者が最も多かった「医療や福祉」については、竹山氏が3割強、永藤氏が2割台半ばの支持となっているほか、「教育や子育て」で竹山氏と永藤氏がそれぞれ約3割、「景気や雇用」でも竹山氏と永藤氏が3割台後半から4割弱で拮抗している。

多くの選挙で重要項目として挙げられる政策課題それぞれでは、現職がその知名度でわずかにリードしており、永藤氏が追いつきかけているというのが実態だろう。先に「現職の8年間の市政に対する市民の評価は相対的に低い水準」だと指摘したが、その分多いはずの批判票を永藤氏がまだ集めきれていない傾向が見てとれる。その背景には一体、何があるのだろうか。

実は、態度未定者は8月下旬の調査の時点で、既に3割強にまで減っている。情勢はまだ流動的ではあるが、告示2週間前という時期を考えるとこの態度未定者の割合はかなり少ない。その分「選挙があること」を認識している市民が多く、比例して関心も(他地域の首長選より)高くなっている。

更に、自民以外の既成政党支持層がある程度固まっている状況からすると、政策以前に「主要な既成政党全てが反維新の一点で現職支持に回る」という政党の構図だけで、ある程度選挙の枠組みが決まってきているとも言える。こうしたことからすると、最大の争点は実は「都構想」ではなく「維新政治」そのものなのかもしれない。

今回維新が負ければ、大阪府市両議会で過半数に届かない維新に公明党が協力する構図は続かなくなる可能性が高くなる。公明党は自主投票を決めているが、都構想に進んで協力する気持ちは無さそうだ。これがために維新にとってこの選挙は大和川を背にした「背水の陣」になると同時に、反維新でまとまる既成政党側にとっては、公明党を引き寄せて都構想の住民投票を阻止する反転攻勢の機会にしたい思いもあるだろう。

結果が注目される堺市長選は今月10日告示、24日投開票だ。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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