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なぜ残念な人ほど「プログラミングやデータサイエンスを学びたい」と言うのか?

横山信弘経営コラムニスト
(ChatGPT DALL-E 3 にて筆者作成)

■多くの人が勘違いしている「デジタル人材」の定義

「リスキリング」と聞くと、ITリテラシーを身につけること、デジタル人材になることを想起する人が多い。各種調査によると、取り組みたいリスキリングのテーマには「デジタル関連」が多い。語学などと一緒に、プログラミングやデータサイエンス(データ分析)、インターネットセキュリティ等が並んだ。

IT企業の社員への意識調査ならともかく、一般企業の社員が対象である。ITに精通している人なら理解できるだろうが、こういった調査結果には強い違和感を覚える。

おそらく多くの人が、IT人材とデジタル人材を混同しているのだと私は思う。ITもデジタルも似たような言葉であるため誤解しても仕方がないことなのだが、とても大事なことなので、これを機会に覚えてほしい。

IT人材とは、IT技術に精通しており、情報システムの設計や開発、導入、運用を担う人材だ。会社の中でいえば情報システム部門で働いている人がIT人材と言えるだろう(IT企業で働いているエンジニアたちもIT人材と呼べる)。

したがって先述した調査結果で上位にランクインした「プログラミング」「データサイエンス」「インターネットセキュリティ」等は、IT人材用のスキルである。

リスキリングとは、新しい職業に就くために、新しい知識やスキルを手に入れることを指す。

システムエンジニアが会計の勉強をしたり、税理士がマーケティングのスキルを身につけたりすることはリスキリングと呼べる。目先の仕事をするのに必ずしも役立つわけではないが、将来を考えたら勉強しておいたほうがいいと受け止めたものがリスキリングのテーマになるのだ。

つまりIT企業に転職する気がない限り「プログラミング」や「データサイエンス」を勉強する必要がないのだ。

いっぽうデジタル人材は、導入されたIT技術、情報システムを活用して会社に貢献したり、新しい付加価値を生み出す人を指す。すべてのビジネスパーソンが対象だ。

一般企業で勤める人はデジタル人材を目指そう。そしてデジタル人材になるには、プログラミングやデータサイエンスといったスキルよりも、日常業務でのデジタル技術の活用に焦点を合わせる。

だから、わざわざ研修を受けてスキルアップに努める必要はない。大事なことは「苦手意識」を克服することだけである。50歳、60歳、70歳になっても、いつからでもデジタル人材になることができるのだから。

■「デジタル人材」は馬を育てなくてもいい、馬に乗れたらいい!

馬でたとえると、わかりやすいのではないか。

IT人材は、馬の種付け、出産から離乳、調教からトレーニングをする人だと考えればいい。馬具の開発や育成牧場のメンテナンス等も含むと、広範囲の知識やスキルが必要だ。

その点、デジタル人材は、そのように育てられた馬を乗りこなすことができる人材だ。単なる乗馬でも、それなりの訓練は必要だ。しかし馬を育てて調教する人と比べれば、そこまで時間と労力をかけなくてもいい。

IT人材とデジタル人材はそれぐらい異なるのだ。

私はもともとシステムエンジニアだったので、生粋のIT人材だった。IT人材は「モノづくり」と似ている。そのため相応の技術が必要だ。しかも技術の進化スピードがとても速い。未経験者がスキルを身につけ、仕事に役立てるのは容易ではない。

いっぽうデジタル人材は成果を出すためにツールを「使いこなす」ことが求められる。ハッキリと書こう。IT人材に必要なスキルと比べ物にならないほど簡単だ。苦手意識がある人はそれを克服し、覚えて慣れるだけだからだ。

・上司に報連相するとき

・マーケットの分析をするとき

・お客様との商談の準備をするとき

・打合せのファシリテーションをするとき

・企画書のフォーマットを標準化するとき

このようなシチュエーションで最先端のデジタル技術を日々使いこなしていこう。そうすることでデジタル人材へと変貌できる。

■あなたは便利なアプリをどこまで使いこなせているか?

「たかがそれだけ?」

おそらく拍子抜けする人が多いと思う。しかし「それだけ?」という感想を持たないでほしい。たとえば、アマゾンや楽天で買い物することができない人はどれぐらいいるだろうか? おそらく多くの人はできるはずだ。

それでは、ヤフオクやメルカリを使って要らないものを売るのはどうだろう? 経験豊かな人もいれば、面倒なのでやったことがない、という人もいるかもしれない。

スマホのコード決済はとても便利だが、面倒に感じる人も多いだろう。ネット証券で投資信託を買いたいと思ってチャレンジしたけれど途中で断念した人も少なくないはずだ。

なぜか?

設定がわかりづらいからだ。昨今のアプリは直感的に理解できるようにUI(ユーザーインターフェース)が設計されていて、丁寧な取扱説明書がない。使いながら操作を覚える人が大半で、慣れない人にとっては時間がかかるし、面倒だと感じる。

とくに「わからないことがあると、すぐ誰かに聞きたがるような人」は、このハードルを乗り越えられない。

「ネット証券で取引したいと思ったけど、開設した口座にどうやって入金したらいいかわからない。誰か教えてくれ」

「ほとんど着ていないコートをメルカリで売ろうと思ったんだけど、どうやって写真を投稿したらいいかわからない。誰かわかる人いないかな?」

ついつい誰かに頼りたくなる人は、周りに教えてくれる人がいないと、そこで断念してしまう。

ヘルプ機能を参照すれば、だいたいの悩みは解消できるはずなのだが、ヘルプ機能の使い方に慣れてないので、それさえやらない。操作説明会をしても、マニュアルを作って渡しても、覚える気がない人が大半だ。

■デジタル人材に変貌できる3つのポイント

したがって、デジタル人材になるためには、まずどんなアプリをも使いこなせるようにすることが大事だ。たとえ必要でなくても、慣れるために「本を電子書籍で読む」「コンビニではコード決済で支払う」「Notionでメモをとる」といったことをやってみてはどうか。

たとえば誰もが使っているメールやスケジュール管理のアプリを使いこなすことからはじめてもいい。意識してほしいポイントは3つある。

(1)基本操作の習得と説明
(2)パーソナライズ
(3)アナリティクスの活用

自分が使うアプリの基本操作は完全に理解しよう。その際に注意すべきは2つ。「メニュー」と「ヘルプ」だ。

操作メニューに表示される機能は、たとえ使わないと思ってもすべて試して覚えよう。どういう機能かわからない場合は、ヘルプ機能を使って調べるのだ。

慣れない人には、ものすごく面倒かもしれない。半日かかっても、全容を理解できないときがあるだろう。しかし諦めないでほしい。中高生でも使いこなしている人は多いのだから。

慣れてくればコツを掴むことができる。アイコンを見ただけで、どんな機能か想像することもできるようになるだろう。誰かに説明を求められても、教えられるぐらいに基本操作を理解できたら最高だ。

次にお勧めするのが、パーソナライズだ。

基本操作をすべて覚えたら、使い勝手をよくするために自分用にカスタマイズしていく。たとえばメールアプリなら、

・受信メールの項目や並べる順番を見やすくする

・受信メールをフォルダに仕分けする

・差出人や件名によって自動で振り分けする

自分の中に基準、ルールを作り、それに合わせてアプリをカスタマイズできるようにする。多くのアプリがパーソナライズできるような機能があるため、作業を効率化するためにも使いこなそう。

最後がアナリティクスの活用である。

正直なところ、アプリを使いこなすだけで会社に貢献したり、新しい価値を創造したりすることはできない。作業が効率化するぐらいである。

デジタル人材になるには、デジタル技術を使いこなして精度の高い仮説を立てたり、問題解決のための新しいアイデアを創造できるようにすべきだろう。

そこで次に紹介する2種類のデータ収集ができるように、日々心掛けていこう。普段使いをしているアプリを使いこなすことができるようになったら、これぐらい簡単にできるようになる。

(1)仮説を立てるためのデータ
(2)仮説を検証するためのデータ

何らかのアイデアを出す際、個人の意見やヒラメキに頼る時代ではなくなった。外部環境(社外)、内部環境(社内)の情報を正しく収集しないと説得力のあるアイデアを出すことはできない。

そのためには、マーケット情報、業界動向などを常に収集しておくことが大事だ。必要になったとき、場当たり的にネット検索する人は、とてもデジタル人材とは呼べない。

このような外部環境を収集できるツールはいくらでもある。有料課金のツールも多いが、昔と比べると驚くほどリーズナブルだ。このようなツールにお金を支払うことができることも、デジタル人材の条件と私は考えている。

内部環境のデータを収集するためには、社内の業務システムを使いこなすことだ。アナリティクス解析が実装されているアプリも多い。

データをCSV形式で出力し、エクセルなどで加工すれば問題発見のスピードは格段に上がるはずだ。プログラミングの技術は要らないし、データサイエンティストほどの高度な技術も要らない。当社のアシスタントは全員、このぐらいの作業はできる。特別な訓練などはしていない。日々、いろいろなデジタルツールを試し、慣れてきた結果だ。

またデジタル人材になるには、ITやデジタルに関する知識よりも、仮説思考(コンセプチュアルスキル)や、人と信頼関係を築くことができるコミュニケーション能力(ヒューマンスキル)のほうが重要である。

コンセプチュアルスキルとヒューマンスキルさえ磨いておけば、あとは最先端のデジタルツールに慣れて使いこなすだけでいい。

<参考記事>

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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